貴族令嬢でしたが没落しそうなので男装して剣士やります

猫カイト

第1話 馬鹿娘の出発

私は生まれた時から兄や弟が羨ましかった。

それは父の期待を一心に受けているからだ。

父は私に期待していない。

私が何か悪いという訳ではない。

それは私が女性だからだ。

この世界は理不尽なもので女性が成り上がるには政略結婚しかない。

それなのに私は他の貴族令嬢のような女らしい性格ではない。

幼馴染みの貴族のロイを喧嘩で泣かしてから

父は私に期待するのは止めてしまった。


そんな事で私に失望する父に嫌気が差した私はより一層父に反抗した。

今思うと私は父にもっと見て欲しかったのだと思う。

父からすれば頭痛の種だっただろう。

そんな父が癒されるのは戦地の兄や弟から送られてくる手紙だけだった。

だがそれもすぐ絶えてしまう。

兄が戦地で死んだ。

その知らせが届いた時父や母は底知れぬ絶望と悲しみ、泣き崩れた。


私は何故か涙が出なかった。

父はそんな私を責めた。


『おまえがいけばよかったのに』


それが父から聞いた最後の言葉だった。


私が一人残ってしまったことがそれだけ嫌だったのかすぐ父は病で逝ってしまった。

男が居なくなった貴族がどうなるかなんて分かりきったことだ。

没落。

母は手段を尽くしたがどうしようもなかった。

私が結婚できればこんなことにならなかったが貴族を拳で泣かした女を貰ってくれるほどどの貴族も結婚相手に困ってはいなかった。

このままでは本当に我が家は終わってしまう。

だからこうするほか道はなかった。


「本当にネロいいの?他にも道はあるわ...いえ分かっています。」

「母様これは私の罪滅ぼしなんです。」

「あなたが何も罪に思うことはないわ。私はあなたが幸せに生きてくれれば...」

 

母は優しい人だ。

父を無くしたばかりだというのに私を気遣ってくれる。 

だから余計にこうするしかない。

母を路頭に迷わすわけには行かない。


「大丈夫です母様!私一度剣術を皆に見せびらかしたかったんです!」

「そうですか。あなたはいつも兄の剣術を真似していましたからね。」


母は我ながらひどい私の作り笑顔にあわせてくれている。

母様あなたはどれだけ優しいのか。


「ではしばらくおさらばです!」


私は待っていた馬車に飛び乗り、生まれた我が家を後にする。

私はそれから振り返らなかった。

振り返ってしまうとまた家に帰りたくなってしまうから。


「どうか無事に帰ってきてね...」


娘の切った髪を持ちながら妾は祈る。

神よどうか娘まで連れていかないで。


 これは一人の少女が眉目秀麗の剣士とよばれるまでの物語。



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