他校のお姫様と幼馴染をすることになった
3pu (旧名 睡眠が足りない人)
プロローグ 二人が幼馴染になる少し前
ガタン、ガタン。
とある日の早朝。
人気の少ない車内に電車の揺れる音だけが大きく木霊する。
そんな中、座席の隅っこでスマホをつつく黒髪の少年がいた。
少年の名前は
今年十六歳になる高校一年生。
都内の高校に通っているのだが、家が遠く離れた田舎にあり通学するのに二時間も掛かってしまうため部活は無所属。
アルバイトもしておらず、筋トレと漫画やアニメが趣味で気の合う友人が数人いるが恋人は居ない。
どこにでもいる一般高校生だ。
そのため、三太の生活は平坦で平凡なものだったと言われれば、それは少しだけ違う。
三太の淡白な生活に彩りを与える存在がいた。
「『〇〇駅〜。〇〇駅〜。お降りになる方はお早めにお願いしま〜す』」
(今日も相変わらず美人さんだな)
三太が乗る駅から二つ先。
まだまだ田舎の姿を残している寂れた駅に停車したところで顔を上げれば、亜麻色の長い髪を持つ少女が現れた。
背丈は女性にしては高めの160cm後半。
神が造ったと言っても可笑しくないレベルで目鼻立ちが整っており、また身体の方も男の夢を詰め込んだかのように起伏に富んでいる。
しかしながら、身に纏う空気は清楚で可憐。
邪な気持ちよりも先に綺麗という感想が先に出てくる程の圧倒的美少女。
もし、彼女が漫画やアニメに登場するとしたらきっとお姫様に違いない。
そう思わせるほどに少女は美しく、彼女がいるだけで何もない車内が華やかになったと思わされるほどの魅力があった。
ガシャン。
扉が閉まったところで、少女は三太の向かい側の席に座る。
そして、お互いにチラリと視線を合わせいつものように軽い会釈を交わした。
が、それを終えると二人はスマホに視線を落とし、駅に着くまで暇を潰す。
内容としては、たったこれだけ。
会話をするわけでもなく、何かドキドキするようなハプニングが起きるわけでもなく、ただただ他校の女子高生と同じ空間で同じ時を過ごすだけだ。
だが、これが三太の生活における唯一の非日常だった。
例えるなら、テレビに出ている芸能人と一緒に毎朝通勤しているサラリーマンのような感じ。
まぁ、目の前の少女がテレビに出ているところを見たことがないので、正確には違うのだが。
感覚で言えばほぼ同じ。
同級生達の友人達に自慢すればきっと羨ましがられるだろう。
(まぁ、言わないけどな)
しかし、三太はそれをしていなかった。
何故なら、このことを話せば絶対に面倒なことになるから。
友人達がこのことを知れば、彼女を一目見ようと三太の家に押しかけ、電車で一緒になったところでナンパへ走り困らせるに違いない。
そうなれば、きっと彼女はもう一緒の車両には乗ってくれなくなる。
馬鹿馬鹿しい。
ちっぽけな自尊心を満たすためにこの非日常を手放すほど三太は愚か者ではなく、また名前も知らない少女の迷惑も考えれないような阿呆でもなかった。
さらに、自己分析も出来るためフツメンの自分が好意を持たれるとも思っていないので、もしかしたら?なんて淡い期待もない。
あるのは、高校を卒業するまで彼女と一緒に通学出来たらといいというささやかな願いのみ。
故に、三太は変化を望んでいなかった。
高校を卒業するまでこの関係が続けばいいと、本気でそう思っていた。
が、そんな三太の思いとは裏腹に変化は突然訪れる。
「『間も無く、△△駅。△△駅。お降りになる方は忘れ物のないようお願いします』」
少女が電車に乗ってから丁度一時間が経った頃。
車内にアナウンスが流れ、彼女が降りる駅の近くまで来たことを知らせた。
三太は自分の目がスマホの見過ぎで疲れを訴えかけてきたので画面から目を離し、目尻をつまんで解していると向かいに座っていた少女が立ち上がった。
そして、彼女は出口を向かう途中に三太の近くを通ったところで、ブレザーのポッケから何かが落ちる。
「おっと」
三太は咄嗟にそれをキャッチ。
だが、当の本人は落としたことに気が付いていないようで、颯爽と歩いていきホームに出て行ってしまった。
「ちょっ、待て。うわぁっ!あぶね」
学生手帳を返そうと三太は彼女の後をあったが電車を出る寸前で、無情にも扉が閉まり電車が走り出してしまう。
「えぇ、どうすんだよ、これ?」
物凄い速さで景色が流れていく中、三太は学生手帳を片手に呆然と困惑の声を上げることしか出来なかった。
◇
それから時は流れて、放課後。
たまたまその日は時間割が一時間少なく、三太は早めに学校を出ることが出来た。
「まぁ、明日の朝にでも渡せばいいか」
帰りの電車に揺られながら少女が降りた駅に行って探してみようかと最初は考えたが、何となくストーカー地味てると思い直し却下。
確実に会えるタイミングがあるのだからその時に返せば良いだろうと考え、今日のところは駅をスルーすることにした。
「あっ」
が、幸か不幸か
毎朝顔を合わせる彼女の姿を。
そして、彼女が何やら同じ年くらいの男子高校生に話しかけられて嫌そうな顔をしているところを見てしまったのだ。
(マジかよ)
状況を見るにおそらくナンパ。
彼女の容姿を鑑みるにされていてもおかしくない。
というか、されていない方がおかしいとは思っていた。
だが、今までの人生でナンパというものに遭遇して来なかった三太は、心の何処かで現実的にあり得ないことだと決めつけていた。
そのため実際に目にした時の驚きはかなりもので思わず身体が硬直してしまった。
ドアが開き、乗客員達が出て行く。
そして、彼らと入れ替わるように新たな乗客員が乗り込んだいき、最後の一人が乗り込もうとした時──
「……(助けて)」
──少女と目が合った。
「ッ!」
気が付けば身体が動いていた。
理由はよく分からない。
別にあの少女との仲は友人と言えるものでもないし、知り合いというにも何も知らなさ過ぎる。
彼女との関係を表すならきっと顔馴染みが正しいだろう。
だから、彼女との関係なんて皆無に等しい。
こんなことをする義理なんてない。
それでも、三太は少女の元へ駆けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ〜!……。おい!」
そして、少女の元へ辿り着くと三太は声を張り上げ、男達の注意を引いた。
「あっ、なんだお前?」
「他校の男子が何の用だよ?」
突如として現れた三太に男子生徒達は怪訝そうな顔を浮かべ、次いでヘラヘラと意地の悪い笑みを浮かべる。
「もしかして、ヒーロー気取りか?まぁ、我らが学校のお姫様を見たら良い格好したい気持ちは分からんでもないけどな」
「部外者は引っ込んでろよ」
「そうそう。俺らと春町さんは同じ学校の生徒として交流を深めようとしているだけ。別に可笑しなことはしてねぇから。ね、春町さん?」
「いや、その」
数で優位に立っているからか何をされても問題ないと思っている彼らは、三太が部外者なのをいいことに煽り立てる。
事実としては間違いない。
だが、第三者からそのことを言われたことに三太はどうしょうもない苛立ちを覚えて。
「うるせぇよ!
「ッ!?はい!三太君」
ムキになった三太が少女の名前を呼ぶと、何故だか望は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「えっ?名前呼び」
「『春姫』に親しい男はいないはずだろ」
「春町さんってそんな顔出来んのかよ。あっ!ちょっ、逃げられた」
少女の笑顔の威力は凄まじく、ナンパの男達が見惚れてしまう程で。
その隙に三太は望の手を掴み、彼女を連れてその場を後にするのだった。
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