ポケットに忍ばせた狂気

青野ひかり

第1話 悲劇

私の名前は、高橋 たかはし はるか

高校三年生、十七歳。


今、私は高校の教室にいて、手にナイフを握っている。

ナイフはベットリと血に塗れて、担任教師の

大野 おおの たかしが床に倒れている。


周囲はパニック状態で、同級生女子の悲鳴や

「救急車呼べよ!」や「マジかよ……」という男子の声が、頭に歪んだBGMのように聞こえる。

騒動を知り、駆けつけた他のクラスの女性教師が私に、

「あなたが刺したの?なんでこんなことをしたの!?」

と詰問している。


私自身が一番分からない。なんでこんなことになったのか……。


しばらくすると、警察と救急車がやってきて、私は連行された。

大野先生は腹部を刺されたが、一命を取り留め、私は殺人未遂者になった。


私はたしかに制服のポケットからナイフを出して、大野先生の腹部を刺した。

しかし、私は大野先生を殺すどころか傷つけるつもりすら全くなかったのだ。


私は自分でいうのも何だが、平凡な女子高生だと思う。

見た目は美人とまでは言えないが、おしゃれに気を遣い、うっすらメイクをして、ボブヘアーも少し茶色く染めている。でも、ピアスなどの校則違反はしていないし、制服もきちんと着ている。

不良でも暗い生徒でもない。


女友達も男友達もいるし、クラスに親友もいる。特に、柏木 菜名かしわぎ ななは小学生からの付き合いで、学年No.1と言われるほど可愛い子だ。

目がパッチリしていて、少し茶髪のロングヘアーはいつもサラサラで、華奢で守ってあげたくなる。

菜名には彼氏がいて、私はいないが特にモテないわけでもない。彼氏がいたこともある。


家族仲もいい。非行に走る理由もない。


ただ私が他の子より少し変わっているところがあるとすれば、大のマジック好きだというところだ。

小学四年生の学芸会で、一生懸命覚えたトランプマジックを披露すると、クラス中から喝采を浴びた。そのときの快感が忘れられず、私の将来の夢は世界的なマジシャンに決まった。


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