クロの異世界転生記

維新コウゲツ

第一話

とある公園、一人の老婆が群がる猫に餌をあげていた。


「さぁ、お食べ~。」


猫たちはい嬉しそうに声を上げながら、餌に群がる。

そこに、一匹の黒猫が近づいてくる。


「あっちへお行き! おまえの分はないよ!」


老婆は黒猫を追い払うように、手を振るう。

餌に群がっていた猫たちも、威嚇をしたり、毛を逆立てている。

黒猫は、気にしなさそうな顔をして、この場を去って行った。


「全く! あの黒猫は不幸の源だよ!」


この町では、黒猫は不幸の象徴になっているらしい。

町の人たちは、たった一匹の黒猫に対いて当たりが強かった。


「こっちだって、好きでこうなったわけじゃないっての。」


彼の名は『クロ』この街の嫌われ者の黒猫である。

他の猫に近づけば、威嚇をされ仲間外れにされている。


「あーあ、今日は飯無しかなー。」

「そいつはどうだろうな。」


一匹の猫がクロに話しかけてくる。

彼のは『ドラマル』このあたりのボスであり、クロの唯一の友達だ。


「ほれ、今回の飯だ。」


ドラマルは、袋に入っている餌を、クロの前に出す。

クロは嬉しそうに、礼を言い、餌を頬彫り始める。


「うめーなこれ!!」

「さっきの婆さんの、餌袋をかっぱらってきた。」

「お前やるな~。」


二人はお互いにたらふくになった。

そして、そこら辺にあった木の棒を拾い、立ち上がる。


「それじゃ、やるか!」

「あぁ。」


二人は、まるで戦うように打ち合っている。

ドラマルが蹴りを入れると、クロはひょいっと軽々く避ける。

クロが木の棒を振り下ろすと、ドラマルも迎え撃つ。


「はぁはぁ、此処までにしようか。」

「はぁ、そうだな。」


二人はその場へと倒れこむ。


「なぁ、ドラマル。」

「何だ?」

「何で嫌われ者の俺に、付き合ってくれるんだ?」


クロはいつも思ってきたことを、ドラマルに聞く。

ドラマルは即答で答えた。


「お前といるのが楽しいからだ。」

「そうなのか?」

「あぁ、お前には夢があるだろう?」


クロの夢、それは、異世界に行くことだ。

最初は、一人で鍛錬をしており、他の猫に馬鹿にされていた。

ただ、ドラマルだけは笑わなかった。


「夢はかなうかわからん、だけど、その夢は俺にとっても楽しいからだ。」

「そっかー。」


クロは立ち上がると、空を見ながら語りだす。


「俺、嫌われ者だから、よく解らなかったけど、俺もドラマルといるのは楽しいぜ!」

「フッ、そうか。」


二人は立ち上がり、固い握手を交わす。

さて、帰ろうかと考えていると、目の前にとんでもないことが飛び込んできた。

女の子が、青信号わたってるのに、車は信号を見ていないようだ。

このままでは、女の子は車に轢かれてしまう。


「くそっ!」

「クロ!?」


クロは女の子に向かって走り出す、ドラマルも一緒に走り出す。


「クロ! 確かに助けるのはいいことだが、そうなったらお前は……!!」

「俺、嫌われ者だけど、この時は見逃せない。」


例え、嫌われ者だったとしても、命を捨てる覚悟はできているから!


「そうか、なら、急ぐぞ!!」

「ドラマル!? お前は来なくても!!」

「言っただろ? お前といると楽しいってな!!」


ドラマルの笑顔に、クロは二ッと笑う。

そして、二人で女の子に体当たりをする。

女の子はその衝撃で、吹き飛んでいき、横断歩道を渡り切った。

その後ろで、ドンと車に何かが当たった。


「え? 猫ちゃん?」


車にあたったのは、女の子を助けた、クロとドラマルだった。

二人は、その場に倒れ、血の海が二人を包んでいた。

そう、二人は女のことを助けるために自らの命を、差し出したのだ。


「猫ちゃん、死んじゃったの……?」


車はそのまま過ぎ去って行った、親は女の子の安否を確認していた。

その上では、透明の姿になったクロとドラマルがいた。


「あ~あ、死んじまったな。」

「ドラマル、お前……。」

「いいんだよ、お前と一緒ならな。」


このまま天国へ行くと思っていたその時、二人は光に包まれた。

あまりの眩しさに、目をつむる。

目を開けると、そこには一人の女性がいた。


「よくぞいらっしゃいました。」


二人は何が起こったのか、解らず混乱していた。

女性は、自分は女神だという。


「貴方たちは、車に轢かれ死んでしまったのです。」

「あー、やっぱり。」

「ですが、貴方たちは最後に良いことをしたので、どんな願いも受け入れましょう。」


何を望みますか? その言葉にクロは飛びついた。


「それって、本当ですか!?」

「そうですね、貴方の願いは?」

「異世界に行きたいです!」


クロの願いに、女神はまぁ、と口に手を当てる。」


「珍しいですね、普通は別の道を歩むというのに。」

「俺、この町では居場所がなかったから……。」

「成程、解りました、では、これを授けましょう。」


女神は黒の腕に、腕輪をはめる。


「これは?」

「これは『変身リング』人の姿になれたり、猫の姿になることもできます。」

「ふむふむ。」

「これで、異世界を冒険するとよいでしょう。」


クロはありがとうございます! と頭を下げる。

女神をドラマルの方へと向く。


「貴方の願いは?」

「こいつと一緒だ。」

「そうですか、では――「ただ、一つ条件がある。」それは?」

「俺を人間にしてほしい。」


女神は、ドラマルの願いを受け入れ、魔法をかける。

すると、ドラマルの姿は人の姿へと変わった。


「おぉー! かっこいいなお前!」

「だろ?」


二人が笑いあっていると、女神が手を叩く。


「さぁ、もうそろそろ時間です。 あなた達に幸があらんことを……。」


女神は祈るようなしぐさをする。

すると、二人は光に包まれる。


こうして、二人の異世界への冒険が始まったのだ

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