蝿を殺す
長眼 照
第1話 蝿の定義
部屋に侵入してきた蝿を潰すことは正義だろうか。否、俺は正義としても良いと思う。
蝿を始めとしてゴキブリやダニなどを指し示す、所謂“衛生害虫”と列挙されている生物はこの世界で唯一知恵と言葉を与えられ、産業や理性的な繁殖の権利を付与されている人間に美醜も分からぬ嫌悪感だけでなく、病原菌媒介などの直接的な害を与えてくるのだ。
それにより、人間は駆除業者を使って生活圏に入り込むこれらを排除する。
この働きかけは決して悪意あるものではなく、あくまでも自衛として容認されている。
季節は春。虫やそれ以外の動植物が繁殖を主な目的とし、活性化する季節に突入すると駆除業者は汗水垂らして昼夜問わず殺生を行っている。
しかし社会に生きる我々は、これらの悪行全てを否定しない。自分の生活圏に入り込まず、自然界で生命のサイクルを回してくれる分には、人間は文句を言わない。
では、この害虫を人間に当てはめてみてはどうだろうか。人を加害する人、つまり犯罪者だ。
犯罪者は無害な人間の生活圏で平然と日々を過ごし、ある日突然その牙を剥く。それに気がつける人間はどれくらいいるだろうか。
害虫と、人間は、棲み分けて生活するべきではないか。それが叶わないならばせめて排除すべきではないかと、俺は兼ねてよりそう考えている。
先の駆除理論は人間同士の世界でも適応がされるべきではないか。最近そう考える時間が日に日に増えているような気がする。
人間という“同族”の中で、排除しなければならない、もしくは受け入れた上で共存しなければならなモノとは何か。それは“犯罪者”である。
犯罪者と一括りにするには、この世界は犯罪が蹂躙しすぎている。殺人、強盗、強姦、詐欺、窃盗。「罪」という広義の投げかけに対して、街ゆく人々は先に上げられたような犯罪をパッと思いつくだろう。
それは日常的に命や尊厳を脅かす人間が“存在”しているという自認ないし、自己防衛本能を少なからず所持しているということにもなる。
犯罪が蔓延っている時世、自分の身を守れるのは自分だけだと誰もが自覚している。
自身の命が無遠慮に迫害され、命を奪うような加害者がこの街にも、隣町や遥か遠く思える故郷にも当たり前に存在している。
犯罪加害者や被害者になる要素はこの世界で星の数よりも多く散りばめられている。
しかし、今回のメインテーマは被害者に寄るものではない。
この話はあくまでも、悪魔的な搾取をする側の人間の自白である。以降は殺人歴のある道徳や倫理観が欠如した人間との会話となる為、精神状態の優れない者は読み進めるのを自粛してほしい。
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