僕の召喚獣はヒヨコ

@aki-midorigame

第1話 召喚士と召喚獣


『ピヨッ』


埃が舞う薄暗い部屋の中で、その意味のわからない存在は、甲高い声をあげた。


「あの、学園長、これは…?」 


後方の多数の生徒達の視線を浴びながら、僕はおそるおそる聞いた。


「うむ、この生物が言うには……カイゼルエンペラー二世と言う名前らしいぞ」

「いや、あの、名前じゃなくてですね、もっと大事なことがあると思いませんか?」

「色は黄色じゃ」

「ちがいます! もっと重要なことがあるじゃないですか! 僕は召喚士で、今日はじめて召喚の儀式を行ったんですよ! いま、ここで!」

「そうか、すまなかった。たしかに高橋君の言うとおりじゃ、もっと重要なことがある」

「やっと分かってくれましたか。僕の今後に関わってくることなので、早急な対処を所望……」

「先生は独身じゃ」

「口を閉じろババア! 先生って僕の事初めて生物に触れる幼稚園生か何かだと勘違いしていませんか!? 僕が言いたいことはそんなことではなくて、どしうて僕が召喚した召喚獣が…」


「ヒヨコなんですか⁉︎」




召喚士とは、召喚獣を召喚し、使役することを生業としている職業だ。召喚獣には様々な種類が存在し、それぞれ特殊な能力を持っており、世界的に重宝されている。


僕こと、高橋勇気(たかはしゆうき)が入学している学校の名前は、公立召喚士育成高等学校だ。名前の通り、召喚獣を召喚し、使役することができる、召喚士の育成を行っている。しかし、だれもかれも召喚士になれるわけではなく、生まれつきの適性がある人だけが、この学校に入学する資格を持つ。つまるところ、選ばれた人間だけが入学することのできる、エリート校なのだ。

自分で言うのは恥ずかしいが、僕には召喚士の適性が高く、将来有望なエリート校のエリート生徒なんだ。


………そのはずだったんだ……。


「はぁぁ、どこかにいないかなぁ……僕より弱い召喚獣を使役している生徒は……」


 僕がこのヒヨコを召喚してから一ヶ月が経過しようとしている。定期的に行われる模擬戦は全敗。


「どうしたんだ? 項垂れて。 また負けたのか?」


 会って早々悪態をつくこの不細工は、悪友の、斉藤冬至(さいとうとうじ)だ。高身長でぱっと見細身ではあるが、しっかり筋肉をつけているツンツン頭。


「項垂れだってするよ……。なんでドラゴンやゴーレム相手に僕はヒヨコ一匹で挑まなくちゃならないんだよ……」


 机の上で米粒を突いていたヒヨコが『ピヨッ!!』と怒り混じりに裾を引っ張り講義してくる。くそぅ、このままだと留年してしまう。


「勇気がバカでマヌケで不細工でヒヨコなのは今に始まったことじゃないだろ?」

「だれがヒヨコだ!」

「……バカとマヌケと不細工はいいのか?」


 ヒヨコに反応してしまい、前者を否定することを忘れてしまっていた。もちろん、どれも僕に該当しているわけがないけどね。


「ま、そんなことどうでもいいんだ。さっさと買い出しにいこうぜ」

「買い出し?」


 頭にはてなマークを浮かべる僕、なにか授業で必要なものでもあったかな……。


「なにってお前、明日から……」

「明日から自然実習よ、忘れちゃったの?」


 ぴょこっ、と顔を出してきたのは、相川好(あいかわこのみ)さん、ポニーテールが特徴的な幼馴染だ。笑顔が素敵で胸がすとんとしている。


「も、もちろん覚えてるよ、……自然教室ね」


 ……初耳だなぁ。


「それは小学校の時に済ませただろ、自然教室じゃなくて自然実習だ。ここ一週間ぐらい、毎日のようにホームルームで聞かされただろうが……。召喚獣との連携と信頼向上を目的に、一晩森の中で過ごす、ってやつだ。ぱっと聞いたら面倒臭いように思えるが、テントやら食料やらなんでも持ち込みOKだし、召喚獣の能力も使い放題だから、意外と楽らしいぞ。まぁ、……例外を除けばだがな」


 例外を除けば……つまり。


「使えない召喚獣を使役しているバカには苦行だっていうことだ」

「う、否定できない……。でも、最悪食料にはなるね」

「俺はたまにお前のことを同じ種族じゃないんじゃないかと、疑問に思うことがある」


 ………それはそうと、


「あの、好の召喚獣が、さっきからじっとヒヨコを見つめているんだけど、……食べたりしないよね?」


 好の召喚獣は、2メートルにもなる長さを誇っている蛇の召喚獣だ。首元(どこが首なのか分からないけど)にピンク色のリボンが蝶々結びされている。

 めちゃよだれ垂らしているけど、まさか……ね?


「あ、こら、ベロニカ、ピヨちゃんを食べたらお腹こわすわよ?」


 メッ、とベロニカと名付けられている召喚獣に叱りつけている。……そういう問題じゃないと思うんだけど……。


「大丈夫、ベロニカはピヨちゃんを食べたりしないから」


 そう言いながら、好はヒヨコが抱きかかえた。


「話を戻すが……。ほとんどの生徒は召喚獣に荷物持たせるだろうな、中にはテントをそのまま召喚獣につける奴もいるらしい、その点、お前のそのヒヨコは……」

「テントどころかテントの設置に使う杭すらはこべそうにないね……」


 この黄色い鳥はいったいどういう場面で役に立つのだろうか………。


「冬至の召喚獣に僕の荷物も乗せてよ」

「まぁ構わないが……そうだな、昼メシ一回で手を打ってやってもいい」

「ちぇ、現金なやつ」


  キーンコーンカーンコーン


 そんなこんな雑談をしていると、教室に設置されているスピーカーからチャイムが鳴り響いた。時計に目を移すと、短針が六時の方向を指している


「おっと、もうこんな時間か、さっさと買い出しに行こうぜ」

「了解、ほらヒヨコ、いくよ」

『ピヨっ』


 好に抱かられていたヒヨコが、ピョン、とジャンプし、僕の制服の胸ポケットにすっぽりとおさまる。持ち運びやすさは他の追随を許さないかもしれない……、まぁ、他の召喚獣は自力で動いた方が早いんだけどね。


「好、早く行こうよ、お店閉まっちゃうよ?」

「……勇気、今の私にもさせて」


 好の羨ましそうな視線が僕の背中を捉えていた。

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