最強魔法使いの現代無双

雨丸令

第0章

転生

第1話 転生1

 問い。美人な女の人が目の前で頭を下げている場合の対処法を答えよ。

 答え。知るかそんなもん! こちとら年齢=彼女ナシの童貞じゃボケがッ!


「申し訳ありません犬童アシキさん! こちらのミスで、本来死ぬべきではないあなたを死なせてしまいました!」

「――はっ。いや、いきなり死なせてしまったとか言われても訳分からんが」


 つーか俺生きてるじゃん。こうしてモノ考えられるし。

 足だってちゃんと付いてる。なくなってない。

 唯一ここがどこか分からんのだけが怖いが。上下左右何処を見渡しても真っ白ってなに? もしかして誘拐? やだー、すごく怖いわー。

 ……いやほんと。冗談抜きで俺どこにいるんだ、これ。


「私はミオネ=アウレリケ。人の魂を司る神。そしてここは人が死後に辿り着く安息の場所、魂の間です。あなたは死んでしまったのです、犬童さん」

「いやいや、ちょっと待ってくれ。死んだと言われて“はい、そうですか”と納得できる訳ないだろう。それに、俺に死んだ記憶なんてない。あんたがどうして俺に目を付けたのかは知らないが、質の悪い冗談はやめてくれ」


 悲報。美人な女の人がとんでもない電波系だった件。

 いや電波な事自体は別にどうでもいいんだが。他人に死んだと言ってくるとか、質が悪いにも程があるだろう、この人。


「受け入れられないのは分かります。しかし残念ですが、事実は変わりません」

「しつこいな。……じゃあ、本当に死んだとするなら俺が意識を保ててるのはどうしてなんだ? ここを魂の間って言うくらいなんだから、今の俺は魂だけの状態なんだろう? なら、意識があるのはおかしくないか?」

「確かに、本来人であるアシキさんはこの場所で意識を保つ事が出来ません。ですが私からあなたに謝罪したい事があり、こちらで意識を保護しているのです」

「つまり神様パワーって訳か。……チッ、それだと何でもありになるだろうが」


 俺が悪態を吐くと、ミオネ=アウレリケと名乗った女性は悲し気に眉を顰めた。

 彼女を見ていると、なんだか段々疑わなくてもいいんじゃないかって気分に――いやいやいやいや! 一体何を考えているんだ俺!?

 確かに彼女はありえないくらいに美人だが! 美人だが!!

 怪しい人間の言葉を無条件に聞き入れるとか馬鹿のやることだろうがッ!?

 幾らなんでもちょっとした仕草で魅了されるとか情けなさ過ぎるだろう!


「困りました。では、どうすればあなたは私の言葉を信じてくれますか?」

「そうだな……。仮にも神を名乗るなら、ここにパンダでも出してくれれば……」

「パンダですか? それくらいならお安い御用です」


 パン。女性が手を叩くと、目の前にパンダが出現した。

 ――え?


「う、うぇえええええええ!? パンダ!? パンダなんで!?」

「どうでしょうか? これで私の言葉を信用してくれますか?」


 女性の言葉を一旦聞き流して、パンダへと近付く。

 そして。そろ~りそろり、と手を触れる。警戒させないように。


「本物じゃないか!」


 小声で叫ぶ。


 パンダは本物だった。本物の生きたパンダだ。

 白黒の毛皮に包まれた身体を撫でている掌からは、ちゃんと生き物の温もりが感じられる。作り物のような感触は一切しない。

 人に慣れているのか撫でていても警戒する素振りはない。

 バリボリと立派な竹を噛み砕いて食べている。


 本当にパンダを出したって言うのか。

 どうせ出せないだろうと冗談のつもりで言ったのに。


 女性に視線を向けると、にこにこと俺を見ていた。


「どうでしょうか? 私の言葉を信用してくれる気になったでしょうか?」


 彼女の言葉に、態度に。俺への悪意は見えない。

 俺は彼女に、結構ひどい態度を取っていたのに。

 なるほど女神か。彼女を表すのにこれ以上的確な言葉はない。

 彼女への尊敬の念が沸き上がる、が。

 ……まずは、やらなければならない事がある、か。


 無言で彼女――ミオネ=アウレリケさんの前に立つ。


「……犬童さん? 一体どうし――」

「すまなかった!」


 ガバッと。深く頭を下げる。


「え? え? ……え!?」

「ただ言っている事が俺の理解の範疇にないというだけで、あんたに酷い態度を取ってしまった! 大した根拠もなくあんたの言葉を突っぱねて本当に悪かった!」


 ミオネ=アウレリケさんの言っている事が到底受け入れ難い事だったとはいえ、それで悪態まで吐いていいという事にはならない。反省しなければ。にこにこと笑っていたその笑みの下で、彼女が傷付かない保証など何処にもなかったのだから。


 頭を下げたまま数秒が経つ。数十秒が経つ。数分が経つ。

 どれくらいの時間が過ぎただろうか。

 頭の上から、ふぅ、と息を吐き出す音が聞こえてきた。


「――頭を上げてください、犬童アシキさん」


 恐る恐る顔を上げる。

 すると、黄金色の瞳と目が合った。


「確かにあなたの態度は褒められたものではなかったかもしれません。ですがそのような態度を取らせたのは私の言葉です。あなたにも私にも悪いところがあった。それではダメですか?」

「……けど、それじゃあ俺に気が済まない」


 あくまで傷付けたのは俺の方だ。彼女じゃない。

 彼女の許しを得たとしても、その事実は消えたりしない。

 ……けれど。


「なら、神様として命令しましょう。あなたが私に対してひどい態度を取ってしまった事を、あまり重く考え過ぎないでください。私は気にしてませんから、ね?」

「……分かった。あんたがそこまで言うのなら」


 にこにこ笑顔な彼女の言葉を突っぱねる気にはならなかった。

 それが命令という体のお願いでしかないとしても、だ。


「よかった! これでようやく本題に入る事ができますね!」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

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