ようこそ我が異世界研究会へ!
河村大風
人は一日に二度死ぬことがあるらしい
とにかく、今日から俺の華々しい大学生生活が始まる!
はずだったぁ……。
なんと俺は異世界
一人暮らしのアパートから電車で学校へ向かいもうすぐで大学というところだった。駅で降りて歩いていたら高層ビルの上にあったデケェ看板が落ちて、それに潰されて死んだ。
そしてわけもわからず全身の痛みに悶えているうちにまるでアフリカのサバンナかのような草原のど真ん中に座っていたのだ。
「どうなってんだ、これ?」
思わずそう口にした俺だがその直後に異世界だということを確信することになる。なぜなら振り返るとそこにはプルルンと音が鳴りそうな水色の塊が転がっていたからだ。
この水色の物体……す、スライム? 動いてるし。ってことはこれ、もしかして異世界なのか?
まじかよ、本当にあるのか、異世界が。
あまりに突飛な状況ではあるが俺はその物体を指でチョンとつつく。その感触はまさに想像していたスライムの感触そのもので少しひんやりしていてとても落ち着く触り心地だった。
夢じゃない。この感触、この景色、俺本当に異世界に来たんだ。やった、やったーー、死んで良かったーー!!
クソみたいな現実から二次元の世界にこられたんだ!!
って今じゃねえよ!
いやまあ確かに俺はオタクだし異世界系のラノベもよく読むから異世界に行ってみたいっていう願望は大いにあるよ? でも今じゃない。どうせ転生するなら大学生活にドン詰まって首でもくくろうかってタイミングぐらいがちょうどいい!
俺の大学生活は? 高校時代に忘れてきた青春を謳歌するチャンスは? なんだよ神様、
”高校生で碌に友達もできなかった奴が大学を楽しめるわけないから異世界転生させてあげたよ!”
とでもいうつもりか!
怒りのあまり俺は無意識にスライムを強く握りしめた。
っていうか説明とかは。こういう時には誰かがガイド役になってくれたりするのが定番だと思うんだけど。
喋れるスライムとか女神様とか脳内に語りかけてくる天の声とか。というかこの異世界は俺の思うような世界なのか?
魔法とかドラゴンとかいるんだろうか。帰る方法があるなら早く帰りたい。もし俺がまた死ぬようなことがあるならその時にもう一度ご確認くださいよ。
空を見上げながらそう考え込んでいると目の前のスライムが今度は唸り声をあげはじめる。
……なんか、すごい獰猛な野獣の音なんだけどー、もしかしてスライム君怒っちゃった?
「グルルアアァァ!!」
心の中での俺の予想は見事?的中し、スライムはみるみるとその体を巨大化させて俺に襲いかかってきた。
こ、こんなのあんまりだああああ!!
すぐさま立ち上がって走り出そうとするが時すでに遅し。俺はそのままスライムに覆われて体内の液体に閉じ込められてしまう。
ゴボボッ!!
まずい息がっ。せっかく異世界にこれたのにスライムと合体エンドかよ。
くそっ、もっとチートスキルで無双させろよ。美少女たちとハーレムさせろよ。スライムに殺されるって末代までの恥だぞ、いや末代は俺か。って言ってる場合じゃねえ、なんとかしないと!!
瞬間、薄暗いスライムの体内の中からわずかに外で何かが動くのをとらえた。
「現出、熱化、放射……。
そんな叫び声がスライムの中から微かに聞こえてくる。それと同時に俺を覆うスライムは黒板をひっかいたような不快な音を立てて俺を体の外へと吐き出した。
俺は大きく息を吸い込んで顔についたドロドロとしたものを拭いて凶暴なスライムの方を見やる。するとそこにはオレンジ色の炎に包まれみるみると小さくなっていくスライムの姿が見えた。
少しの間のたうちまわったあとそれは完全に姿を消す。俺はそれをなにが起こったのかと目を見開いてただ眺めていた。
「大丈夫か!!」
さっきスライムの中から聞こえたのと同じ声が後ろから聞こえてきた。振り返るとそこには3人の人の姿があり、1人は大きな剣を腰にぶら下げ、もう1人は分厚い本と木製の杖を持ちメガネをかけている。そして最後の1人は女でなにやら背中に弓矢を背負ってこちらに走ってきていた。
人だ。あの服装、絶対現代のファッションじゃない。多分、冒険者的な。助かった。それにやっぱりここは異世界で間違い無いんだ。
そう確信する俺に対しその3人は俺の目の前まできて手を差し伸べてきた。俺はまだ少しクラクラするがなんとかその手を取って立ち上がり3人の顔を見る。
「大丈夫か、お前?」
「ああ、ありがとう。あんたたちは一体?」
「俺らか? 俺らは冒険者だ。言ってもまだ詠唱破棄すらできない新米だけど……。俺はネビル・ジュード。こっちのメガネがニコラ・グリフィンでこっちがシャーロット・ユースだ」
ネビルと名乗るその男がそう言うとその後ろにいたメガネの少年がぺこりと頭を下げる。
「こんにちは、ニコラと申します!」
元気なニコラに対してシャーロットと言われた女はネビルの耳元でヒソヒソと何かを喋る。
「ちょっとネビル、まだどんな人かもわからないのに私の名前言わないでよ」
あの、めちゃめちゃ聞こえてるんですが。なんだよ、俺そんな見た目悪いか? 第一印象で人を判断すんなよこの野郎。
シャーロットに対し少し悪い印象を抱きつつも、目の前に現れたファンタジー要素に俺は心躍らせていた。
スライムの次は冒険者と。職業はネビルが剣士、ニコラが魔法使い、シャーロットが狩人ってとこか。がぜん異世界って感じになってきたな。
「あんた、名前は?」
ネビルが俺に問いかけてくる。
「えぁ? ああ、俺は界都。廻世界都だけど」
そう口にすると後ろにいたニコラが近づいてきて俺の顔をじいっと見つめた。
「カイト、不思議な名前ですね。それに真っ白な髪の毛に真っ赤な目……。まるで
真っ白な髪に赤い目?
ああ、もしかして転生して見た目も変わってんのか……。だからシャーロットも少し警戒してたわけか。ちょっと気になる、めちゃイケメンになってたりしないかな。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺、実は別の世界から転生して来たんだ」
「「え!?」」
俺の発言に3人は目を丸くしてこっちを見る。
「転生ってそれこそおとぎ話の話だろ?」
「ウチに聞かれても困るし! ねえニコラそう言うの得意でしょ?」
「ええ、そういう話は伝承である可能性もありますし、死から蘇る魔法というのも噂では聞いたことがありますよ!」
3人の反応を見るにこの世界でも転生というのはありえないような話のようだ。
「すみませんカイトさん。ぜひその話詳しく聞かせていただけませんか? こんな野原じゃなんですから街の店にでも行って! さあ、行きましょう!」
ニコラが目を輝かせながら俺に言ってきた。その勢いに俺は母の勉強の
そうだ、ここは異世界。もうなんの呪縛もない、とことん楽しまなくちゃな!
ーーーーーー
「……っていう感じでこっちの世界に来たんだ。それからスライムに襲われてあんたたちに助けられた」
ブリッグホンの飯屋、時刻が昼過ぎということもあり周りの客はまばらでカウンターの店員もどっかで聞いたこあるようなメロディーを口で奏でながら皿を洗っているなかで俺は自分がどのように異世界へ転生してきたのかを3人に説明していた。
「へぇー、チキュウねぇ。ぶっ飛んだ話だなオイ」
ネビルは店で頼んだ謎の飲み物をスプーンでかき混ぜながらそう言った。シャーロットは信じられないという顔をしながらこっちを見ているし、ニコラは何かメモのようなもの取りながらものすごい笑みを浮かべている。
「すごい、カイトさんの話が本当なら凄いことですよ! 命を、どんな形であれ復活させることができる魔法があるんですから!」
魔法、やっぱりこの世界では魔法があんのか。だけど転生は魔法なのか?
地球じゃそんなもんあるわけないし、こっちの世界の力が世界を超えて俺に掛かったとか?
転生についての疑問は尽きないながらも俺はそれよりも異世界の魔法の話を聞きたい欲求で満たされていた。
「いやそれよりも魔法について教えてくれよ、こっちの世界のさ! MPとかあんのか? 闇魔法とか、ザラキ的なアバダケダブラ的なのもあったりすんの?」
「ちょっと待ってよ。
俺の問いに対しシャーロットがそう言った。
「ああ、魔法の魔の字もない」
「うげえ。魔法がないなんてサイアクじゃん。傷も治せないし、メチャ不便じゃん?」
魔法の代わりに科学があるからそこまで不便じゃないんだが、ここでそんなこと言おうもんなら後ろにいるニコラがめちゃくちゃ食い付いてきそうだから言わないでおこう。そう思いシャーロットの言葉を流しつつ俺は魔法について教えてほしいと3人に言った。
「それなら僕が!!」
顔をめちゃくちゃに近づけてそう言うニコラ。陽の気が強すぎて体が消し炭になりそうになりながらなんとかありがとうと言葉を繋ぐ。
「まずはエーテルについてですね!」
エーテルか、エーテルって言ったらよくゲームとかで使われる言葉だよなあ。なんでそういうのが一致するんだろ?
「エーテルはそれはこの世界を満たす魔法の素となるエネルギーです。凝縮するとクリスタルとも呼ばれる緑色の美しい結晶となったりもします。地域によって別の名称もありますがとにかくそのエーテルが僕たちの魔法、ひいては生活を支えていると言っても過言ではありません」
空気と一緒にそのエーテルってのも存在してるってことか。わかりやすくてよかった。でもちょっと待てよ、
「よく考えたら俺魔法使えんのか? 世界間で体の構造が違ったりしそう」
「多分大丈夫です。別世界の人なんて今まで会ったことないですから断定はできませんけど」
「なんで?」
「実は人はそれぞれエーテルを取り込める量が決まってるんです。一般的には魔力と言ったりしますが、その魔力が極端に低い人はただその場にいるだけでエーテルの許容量を超えて中毒症状が出るんですよ。それが今の所カイトさんにはそれは見られませんし……」
おお、魔力っ!!
魔力=MPって感じか。もうゲームまんま。初めて魔法を発想したやつはこの異世界にでもきたのか、ドンピシャじゃんか。ただ、中毒症状ってのはリアルだな。もっとこうファンタジーな感じの方がいいんだけど。
「なあ、その許容量ってわかったりしないのか? なんか計測器みたいなさ」
「あるわよ」
俺の問いに対しシャーロットが肩掛けのバッグから黒色の石を取り出し俺に渡してくる。
「魔光石。その名の通り魔法とかエーテルに触れるとその量に応じて白色に発光するの。これをちょっとの間握っとくだけでオッケー」
「へぇ」
シャーロットの言葉に対しニコラが不満げな表情を見せながら訂正する。
「シャーロットさん、なんか自慢げに説明してますけどそれ僕のですからね! それにその魔光石加工されてなくて正確には測れません! せいぜい、二人の魔力のどちらが上かがわかるくらいですよ」
あ、そうなの。なんだ、もし正確に測れたら
"ば、バカな! こんな数値上級魔法使いレベルだぞ!?"
的な展開できたかも知んないのに。いや、今はそれより魔法だ。魔法を使ってみたい!
「じゃあさ、今すぐできる魔法とかないの?」
「え? ああ、色々ありますよ。一番わかりやすいのだと
「おお! 炎属性魔法か!」
「僕の真似をしてくださいね。……現出、熱化。ファイア!」
その言葉に反応してニコラの手のひらに小さな魔法陣が現れその上にサッカーボールほどの炎の玉が現れる。
その火炎は理科の実験とか炭火の焼肉で見るような炎よりもより暖かく、より美しく写って見えた。そう、それは目的という不純物のない純粋な炎、ただの炎だった。
「すごい……」
思わず声が漏れる。その反応が新鮮だったのかシャーロットもニコラもどこか嬉しそうな表情だった。
「おいおい、店で火事起こすなよ」
少し冗談っぽくそう言うネビルも笑みを浮かべていた。
「さあ、カイトさんもやってみてください」
いよいよだ。こうなったらとことん楽しもう。俺の新しい異世界ライフ、この炎で景気付けだ!
では魔法初体験、行かせていただきます!
ニコラに言われた通り、頭の中のイメージを膨らませて神経を手のひらに集中させる。
「いくぞ、ファイ……」
と、言いかけた瞬間に全身の力が抜ける。
え?
と同時に突然、右肩から左の腰にかけて鋭い痛みが走る。口の中に血の味があふれて、思い切り吹き出し、胸のほうを見ると服から大量の血が染み出して麻色だった服が真っ赤に染まっている。
周りの客は悲鳴を上げパニックを起こし店の外へと逃げだし、3人は倒れ込む俺を支えて静かに降ろしてくれた。
どいう言う事だ、刺された、だれに?
辺りを見回しても凶器は見当たらない。ネビルの剣も鞘に収まったままで俺を切れるわけがない。
「カイト!! お前、一体何が!? まさか
「このままじゃカイト死んじゃうじゃん、どうにかしてよニコラ!」
「無理です……この傷じゃあヒールも間に合わない!」
「そんな……」
3人の動転した声が聞こえてくる。3人も状況を全く理解できてないらしい。
なんでだよ、せっかく異世界満喫できると思ったのに。神様、俺、1日に2回も死ぬほど悪いことしたか?
こんなのあんまりだ。
俺は思考することすらままならなくなって最後に3人の顔を見てそっと目を閉じた。
――――――――――――――――――――――――――
「……ません、すんません」
弱弱しい声が聞こえる、老人の声だ。
どうなった、神様の声か?
目を開けてみるとそこにはごく普通の見た目をしたおじいさんいて、困り顔を浮かべて俺のほうを見ていた。
「どいてくれんかね。そこに座り込まれちゃあ掃除ができんよ」
どうなってんだ掃除? 別に天国ってわけじゃない。もしかしてだけど、
「ここってどこですか?」
「何言ってんだい、東京の
基教市……、東京ってことはここは元の世界。どうなってんだ、転生の転生? そんなことあるか?
「いやこれは夢だな、うん。浮き足立ってみた夢だ。とにかくこれで俺の大学生活は保証される、それで十分だ」
「ぶつぶつ何言ってんだい?」
どうやら心の声が漏れてしまっていたようだ。俺はすいませんと一言、言って立ち上がり時間を確認する。
8時50分、入学式は9時だから急げばまだ間に合う!
スマホでマップを開き大学の方へと走り出す。
ビュン!!
なぜだろう、人がものすごいスピードで俺の方へと過ぎ去っていくんだが。っていうか道路の原付がいつまで経っても視界から外れない。というより並走している。俺は困惑してすぐに立ち止まった。
まだ夢の中という可能性は、ないな。周りの嘘だろ、みたいな視線がグサグサと刺さってくる。こんなの中学の合唱コンクールで緊張しすぎてぶっ倒れた時以来の感覚だ。
普通なら一回死んで異世界に転生、で終わるところだが。なるほど、2回死んで元の世界に戻ってくることもあるのかあ!
いったい俺の体はどうなってしまったのだろうか。
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