火炎魔神と水竜少女の魔王軍幹部録

スピの酢

最強火炎魔神と水龍少女の出会い。

第1話 最強幹部と魔王を超えうる力

人間の国よりはるか東の地、雷が鳴り響き豪雨が降り止まない魔族の地の最奥地で


人間だけを入れないようにし、入ったとするならその人間を原子レベルにまで分解する強力な結界が張り巡らされている城が存在している。


その城とは人間と敵対する魔族の勢力の根城であり、魔族を統べる王”魔王”がいる場所であった。


魔族の軍団がはびこっている魔王城の最上階、魔王が鎮座する魔王の間で魔王直々に呼び出された魔族がいる。


「魔王様。お呼びでしょうか。」その魔族は頭の炎を揺らして玉座に座る魔王に片膝立ちで忠誠を表す。


「ああ”バルファク”来てくれたか。我が魔王軍最強の”炎”の魔神よ。」


魔王がそういったようにこの魔物は現魔王軍最強の幹部であり二つ名は”火炎魔神イフリート


その最強幹部のバルファクは魔王が纏う覇気に怖気づくこともなく要件を聞く。


「魔王様。どのようなご要件でしょうか?」


魔王も深刻そうに答える。「バルファク、要件と言うのはな...」その瞬間周りの空気が魔王の覇気でヘビに睨まれたカエルのように震える。


だがバルファクはそれを気にも止めていない。部下だから当たり前だと思うが本当のところは...


「...外の雨いつまで降るのだ?」


「あと3日はこの調子らしいですよ。」


「まじでかぁ〜3日天日干しができぬのはきついのだぞ...」


この会話を聞いての通り、この魔王は覇気を出し威厳を見せて言うことがしょぼいのである。


毎度毎度”重要なことを告げる。魔王の間まで早く来るのだ”と呼び出しておいて


こんな感じで”雨はいつまで降るのだ”とか、”いいダジャレを思いついたぞ”などなど...


しかもこんな話を5時間とか平気でするので


魔王様との距離感が気の良い親戚のおじさんとあまり変わらないものになってしまっている。


しかも時折”ついでに”とか言ってめちゃくちゃ重要なことを言ってくるからたちが悪いし、


正直めちゃくちゃめんどくさいので他の幹部に押し付けようにも


魔王様が俺を名指ししてくるので押し付けようにも押し付けれないところも更にたちが悪い。


そうして魔王様がどうでもいい天気の話をしてから3時間後・・・


「だからナメクジは塩に弱いのだぞ。あとついでにハイドロタウンの様子を見てきてもらう。」


出た。ついでにとか言って重要な偵察とかの任務を言ってくるやつ。


ナメクジの話からのタイミングも意味もわからないし、いい加減にして...ん?いや待てよ。確か...


「魔王様。ハイドロタウンは建物の半分が水没した都市ではありませんでしたか?」


「うむ。そうだが?」


水没廃都ハイドロタウン。魔王城の南に位置する建物の半分が水没している都市で、距離はそんなに遠くない。歩いて10分ほどで着く。


かつては昔も今も貿易の中心地となっている人間の王国”貿易国アルビナス”と対の存在として栄えていたらしいが


今から500年ほど前、突如豪雨が降り続いて今のように半分が水没したことで都市の機能は完全に停止し人は消え、今は我が魔族の領土となっている。


ちなみに魔王様によると”あの時の豪雨は我のおじいさんが降らしたのだ。”とか言っていた。


なんのためにやったのか真偽は不明である。


私は魔王様の意図がよくわからないでいた。わざわざそんな水没した廃都市に様子見する必要もないだろうに


「魔王様。ハイドロタウンに行く意味が理解できません。教えてください。」


魔王様は少し頭を抱えて話してくれた。


どうやらハイドロタウンに魔王様を超えうる魔力を一瞬感じ、


その魔力の原因を探るべく3人ほど上位魔族を昨日の昼から派遣したのだが未だに帰ってこないらしい。


上位魔族が3人も苦戦する相手で魔王様を超える魔力を持っている可能性があるやつともなると


魔王軍の危機なのである。私は魔王様の計画のなさに呆れる。


「はぁ…?その魔王様を超えるかもしれないやつと戦えと。」


魔王は元気よく答えた。「うむ!その通りである!」


その通りである!じゃないですよ魔王様。普通にやばいじゃないですか…


でも他の幹部達も仕事で忙しいでしょうし、


それに無論そんなこと魔王様の前では言えないので頷くしかない。


「分かりました。今日の昼にでも行ってきます。」


渋々俺は承諾する。その時魔王様が今まで聞かなかったことを突然聞いて来た。


「そういえば色々聞きづらかったのだがお前は大丈夫なのか?雨が降っているときは力が弱まったり…」


俺はたしかに炎の魔神。魔王様が疑問に思うのも無理はない。


…魔王様は俺が幹部になって50年の付き合いだというのに一体俺の何を見てきたのだろうか?


もちろん俺の返事は決まっている。


「大丈夫です。雨、蒸発させて行くので。」


「そっ…そうか。ならいいのだ。」魔王様はとても気まずそうだったがそんなことは一ミリも気にしない。


「では魔王様、失礼します。」


そうして俺は魔王様の部屋を出る。


俺が出ていったあと魔王様は一人呟いていた。


「…まぁわかってはいたのだが水が蒸発するほどの熱気を常時展開なんて我でも1分が限界だというのに。」


魔王は自分を超える可能性に少し戦慄する。


「薄々気づいては居たのだがあやつの魔力は我よりも格段に高いようだな。少し可愛そうだがあやつならあの"竜"の相手もできよう。無事に帰って来るといいが…あやつを信じるしかない。」


そんなことはつゆ知らず俺は雨を蒸発させながら


"水没廃都"ハイドロタウンへ向かうのであった…

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