変わり者剣士と銀麗の彼女

感覚派図書館

プロローグ:美しい銀



 雰囲気だけの静謐さが不必要であった。それと言わんばかりな美しい銀色の髪を持つ少女が真夜中の森を地から地。飛ぶ様に駆け抜ける。熱い。構わない。確かなことだ。それは解る。

 先の視界。ままならないが、鬱蒼としている暗い森を自らの直感と木々のわずかな隙間から差し込む月明かりだけを頼りに走っている。絶えまなく目に入ってくる汗を彼女は手で拭い続けなければならなかった。

 いったいどこに向おうというのだろうか? それは走り続けているわたし自身も知らないことだった。ここではない場所にへと自分がとにかく向かわなくてはならないということ。分かることはただそれだけだった。見知らぬ誰かにわたしが必要とされている。少女にとってはそれだけで充分に走り続ける理由になった。

 その最中に生い茂る草で隠れていた石を勘で避けた。だが次の石に対応出来ず、少女が足を引っかけた。頭をかばいつつ、草花にこけた。ダイブして舞い散った花びらが月夜の下で青白く照らされた。

 傷の具合も確認せずにすぐに立ち上がると少女は息を整えつつおざなりに急くように再び走り始める。

 苦痛に顔を歪めながらもいよいよ森を抜けそうなとき、少女は目にたまっていく熱い涙を感じた。だが、すぐに目を覆っていたものが乾いていく。少女は小さく微笑むと、よりいっそう足を速めた。




(続く)






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