俺の召喚魔法がおかしい 〜雑魚すぎると追放された召喚魔法使いの俺は、現代兵器を召喚して無双する〜

木嶋隆太

第1話

 

 俺はさっきまで、日本の地方の高校に通う、普通の高校生だった。

 今は異世界に召喚された普通の高校生だ。うん、普通じゃないことはわかっている。

 俺の目の前には美しい女性がいる。この国の、王女様だそうだ。


「勇者様方には、これより魔王を討伐してほしいのです」


 勇者様方。つまりまあ、召喚されたのは俺だけではない。クラス全員だ。

 クラスメートの反応は様々。

 異世界召喚に沸き立つもの、家に帰りたいと泣き出すもの、状況がさっぱり掴めていないもの……などなど。


 俺は、どちらかといえば沸き立つものだ。こういったジャンルの作品は好きだったからな。

 それに、めっちゃ可愛い王女様に涙目でうるうると頼まれたともあれば、そりゃあ俺も男子高校生。やる気になってきてしまうものだ。


 地球に戻る方法は今の所判明していないらしいが、これはあくまで契約魔法であるため、魔王を討伐してくれれば、その契約も解除され、元の世界に戻れるはず……と言われた。


 結構無茶なお願いだ。

 帰る方法は定かではないが、俺たちはわりとやる気になっていた。異世界召喚された際に、皆が力を与えられたこともあったからだ。

 俺だって勝手に、自分がヒーローになれるかもと淡い期待をしていたものだ。


「これから、皆さんの能力を確認していきます。こちらに並んでください」


 王女様の声に合わせ、俺たちは神官のようないでたちの男性の前に並ぶ。

 異世界召喚された俺たちは何かしらの力が与えられているらしい。


 最初の一人が、手から火を放ったのを見て、期待が高まっていく。俺だけではない。それまでどこか懐疑的だったクラスメートたちの気分も高まっていく。


 クラスメートたちが、続々と火を出したり、水を出したりと異世界的な超常の力を顕現していく中、俺の得意魔法は――。


「え!? 召喚魔法ですか!?」


 そう。俺の能力は召喚魔法だったらしい。

 世界に数名しかいない鑑定魔法を持つ人に見てもらった。

 一応、自分の能力なら自分で調べられるのだが、自己申告では不確定要素もあるため、鑑定魔法で調べてもらっている。


 俺の眼前には、『シドー・トヨシマ レベル1 召喚魔法 収納魔法』とは表示されている。


 この収納魔法に関しては全員が持っているらしい。いわゆるアイテムボックス、便利なやつだ。


「召喚魔法って、凄いんですか?」


 寄せられた美しい王女様の顔にか、はたまた自分の能力がチートなのでは? という思いからか、バグバグと心臓が高鳴る。


 もしかしたら、俺が本当に異世界でヒーローになれるかもしれない……!

 今その瞬間、王女様の眼差しのすべては俺に向けられた。


「召喚魔法といえば、この勇者召喚の魔法陣を作った偉人と同じ魔法ですよ……! 彼は、ドラゴンやフェンリルといった最強種の魔物を召喚、使役し、魔王の軍勢を退けたとされています……! しょ、召喚魔法を、使ってみてください!」


 それはもう、期待と尊敬が入り混じり、俺に体を寄せてくる王女様。

 おっぱいが当たっている。露骨な色仕掛けだとは思う。ただ、それに拒否できるような強い心は持ち合わせていない。


 俺はそれはもう鼻の下を伸ばしながら、召喚魔法を発動した。

 俺の足元に魔法陣が出現し、片手に出現したのは――。


「……ハンバーガー?」

「……」


 クラスメートの誰かがそう言った。

 そう。俺の片手に現れたのは、ハンバーガーだった。それも、俺が大好きなビッグマッグだった。

 え? ドラゴンは? フェンリルは? 期待していた俺はもちろん、期待してくれていた王女様も俺からすっと離れ、


「……ゴミじゃん」


 冷たく言い放たれた。

 ゴミ。ゴミと言われた。

 俺にしか聞こえない声で、俺にしか見えない見下した目で。


 正直言って興奮したね。



 そんなこんなで俺はハンバーガー召喚士としてクラスメートたちからは少しだけ喜ばれた。

 あくまで、少しだけ。王城で用意された食事に比べれば、俺のハンバーガーではとてもではないが太刀打ちできなかった。

 一部のジャンクフード好きの人たちから、たまに召喚を頼まれる程度。

 まあ、友達が少しできたことは嬉しかったが、王女様の判断では使えない勇者、と判断されてしまった。


 皆が訓練に励む中、俺は毎日ハンバーガーを召喚してはアイテムボックスにぶち込む日々。

 訓練に参加しなくても良い、と言われたため、俺は魔力が持つ限り非常食を集めていた。

 なぜか。

 俺が、王城から追い出されそうだからだ。

 親しくなったクラスメートの田中くんが、教えてくれた。


 王女様が、俺を切り捨てようとしているのを話していた、と。

 田中くんも別にそこまで立場的に良くはないため、強くは言えなくてごめん、とも話してくれた。


 なので今は非常食を用意していた。幸い、アイテムボックスの中に入れておけば腐らないからな。

 毎日訓練していたからか、おにぎりとかも召喚できるようになっていた。

 これでまた少し友達が増えはしたが、王女様の評価が上がることはなかった。

 

 ひたすら、非常食を集めながら、王城にある書庫などを見て、この世界の情報を集めていった。


 その結果。この異世界召喚が結構怪しいものだとわかった。

 魔王から国を守るための戦いと言っているが、明らかこれから攻め込もうと準備をしているように感じる。

 守るより、攻め込む方が被害は多くなるだろうし、命の危険も増えるはずだ。


 現状、俺はハンバーガーといくつかの食品しか召喚できない……と思われているのだから、さっさとここからは退散したいと思っていた。


 そんなことを考えていると、王女様から呼び出された。

 相変わらず美しいのだが、俺を見る目は明らかに見下していた。

 いやあー、興奮するね。


「シドー・トヨシマ……様。戦力にならない人間の教育を行う時間はありませんので、あなたには手切れ金を渡しますのでどこかで自由に生活していてくれませんか?」


 様、とつけるのも面倒な様子で、王女様は俺の名前を言って、当面の生活費である金貨30枚ほどを渡してきた。

 一応お金を持たせてくれたのは、彼女らが勇者を何もせず追放したと思われないためだろう。


 もちろん、俺も願ったり叶ったりだったので、残念そうな演技をしつつ追放された。


 俺は、俺の方法で元の世界に戻るための手段を見つけるつもりだ。

 なるべく、早めに戻りたい。

 我が家は父が亡くなってからというもの、生活に困窮しているわけで、俺のバイト費がなくなってしまえば、妹たちの生活が大変だろうからな。


 俺はアイテムボックスに、もらった金貨30枚をなげこんだ。

 あと、こうなるだろうと思っていたので、城内で余っていた世界地図ももらっていたので、これでひとまずは大丈夫だろう。


 最低限、親しくなった田中くんと佐藤くんにだけは別れの挨拶を行い、俺は王城を離れていった。

 俺はアイテムボックスに大量に入れてあるビッグマッグやマッグシェイクを取り出し、街へと向かって歩きだした。

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