第2話 神様の神生活(にゅーらいふ)始まりの刻

 キコキコキコ。長年連れ添っている自転車、相棒のスレイプニールを駆りながら学校までの坂を登る。スレイプニールを車庫から出した時は愛車がリアルな8本脚の白馬になっていて、こんなの乗りたくないッ!と念じたら自転車に戻ったのでそれに乗って登校している。同じノリで光の輪っかと背中の目も一旦消すことは出来た。出そうとしたら出せる。意外と便利だ、非常時の灯りにくらいはなるだろう光の輪っかと上裸じゃないと使えない背中の目!!使いどころどこだよッ!

「あー…課題やんの忘れた…だりぃ……」

キコキコキコ……パァンッ!!!!

「どわぁ!?!?」

急にスレイプニールがパンクして僕の身体が宙に投げ出される。まあ、光る白い翼(それも光る剣が連なって出来た無機質でなんか思ってたのと違うやつだ…もっと白鳥の羽的なの想像してた…)が背中から少し離れた虚空から伸びて僕の身体を浮かばせたのでズッコケずに済んだが。

「なんでまたこんな平地でパンクしたのか…誰かのいたずらか?赦せん…」

ズビシィピシャコゥッ!!愚痴った途端左前らへんの路地に雷が落ちて、男のものらしき野太い悲鳴が聞こえた。なんだなんだ、いたずらの犯人に天罰でも食らったか、しめしめ。いい加減意味のわからない状況に慣れてきてそのまま学校に到着。駐輪場で相棒に鍵をかけると茨のツルみたいなのが何処からともなく生え、その鍵を覆った。さてはこれ、盗もうとした奴が大変なことになる罠だな。

 あの後特に何も起きず平穏に1時間目の授業チャイムがなる。ガララ、と立て付けの悪いドアを開けて担任の、大人とは思えないせいぜい高校生くらいに見える若い女教師が無表情に入ってきた。

 ―ところで、誰しも1度は想像したことがあるだろう。学校にテロリストが侵入してきたら。あれやこれや格好いい自分の行動を夢想したことであろう。実際はなんの役にも立たなかった。

その女はどこからどう見ても俺の知っている担任だった。がテキストも何も持たず代わりに黒光りするゴツい携行用とは思えない機関銃を構えた"そいつ"はいきなりそれを俺達に向けて撃ち始めた。そしてすぐに、何が起きたか理解するまもなくまわりのクラスメート達は身体のパーツと大量の血を撒き散らしながら吹っ飛んで後ろの席の机に引っかかったりロッカーの上に首だけ乗っかったりと酷い有様が広がった。教室はあっという間に赤一色の、辺りでポタポタと飛び散った鮮血が滴る音と俺の周りを旋回する光剣の翼が奏でるチェーンソーのような音だけが響く地獄へと化した。。全く何も理解が出来ず自席の在った場所に突っ立っている俺を見て、"そいつ"は信じられないほど軽く口を開いた。

「あーっ、神が1人顕れたっていうから調べるのめんどくせーな全員ぶっ殺せば誰が神かわかんだろー簡単には死なねーしって思ってめんどくせーと思ってたらウチのクラスか最初の1回目で終わって良かったわ余計な被害も出ないから後処理も楽だろーウチってば雑だからまーた事後処理めんどくせーことになるかと思ったよ杞憂だったかめんどくせーあれ今何回めんどくせーって言ったっけ、どーでもいいやオマエは何が死ぬ条件の神かなーとりまさっさと死ねめんどくせーから」

まくし立てるだけまくし立てた"そいつ"はおもむろにスーツの胸ポケットから刃渡り20センチほどの柄が赤い十字架になっているナイフを取り出し、8俺の喉元を掻っ捌いた。

「か、はッ!?」

灼けるような痛みが喉に走る。やっと動いた光剣翼が閃き"そいつ"を両断した、かに思われた。そいつは俺の放った現実離れした攻撃にも眉一つ動かさず手元のナイフを軽く振る。と、それだけで、自分に都合良く世界が廻ると短い間に勘違いしていた俺の翼は一瞬で粉々に砕かれた。そして再び"そいつ"のナイフが視界の片隅に光って俺の首が胴から離れようとしていたその時、

バキィィィン!!!

「ったく無差別すぎンだろこの神殺し、気分悪ィ。裁界刃judgementqhrxleon

突如ガラスの割れるような音と共に虚空から目前に飛び出した白髪の男が、概念は頭に浮かぶが耳では聴き取れない何かを唱えると、"そいつ"は壁を突き抜け隣の教室まで吹っ飛んでいった。ガダンッ、荒々しい音を立て俺の前の机に着地した白髪のその男は、頭上に光の輪が浮いており、彼の身体よりも長い細身の蒼く輝く刀を手にしていた。

「よォ、新入り。オマエが今朝成りたてホヤホヤの神成りか?ならまァまだなンにも判らんだろ、ついてこい。」

―こうして何も知らない俺は、これまでの常識が通用しない世界へと引き摺り込まれた。

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