霧の中の遠き書架

青村司

奇妙な店

 今日は休日だった。


 いつもの街。地方の、数年前にリニューアルされた商店街を貴方はぶらついていた。

 道は広く、それほど高い建物もない。レンガと御影石風のタイルが敷かれた歩道を歩いてると、貴方はふと見知らぬ店を見つけた。


 アンティークな雰囲気のある、洋館をそのまま小さくしたような外観の店だった。


 ガラス張りのブティックと、コンクリート打ちっぱなしの現代風な無国籍料理店の間にあって、その店はひどく浮いていた。

 しかし、道行く人は誰も見向きもしない。


 貴方はその店が気になり、扉を引き開けた。

 ベルの音と共に店内に入る。


 扉を閉めた途端、外の喧噪が消えうせた。見た目はアンティークだが、案外防音はしっかりしているのかもしれない。

 中を見回す。

 店の外観と同じ、アンティークな雰囲気の棚には小物が並んでいる。

 雑貨店だろうか。

 しかし、品揃いがひどく不自然に感じた。

 中世から残っているようなオルゴールの横に、金属を繋ぎ合わせた未来的なデザインの球体が置いてある。どういう原理か、少しだけ宙に浮いて虹色の雷を放電していた。


 奥の方を見る。幾つかの本棚がある。フィルムカバーのついたIT技術書のような本もあれば、百年単位の昔からあるような革の装丁の本もあった。


 最奥のカウンターには、小柄な影が見える。少女のようだった。

 少女は赤毛で、屋内なのにベレー帽を被っていた。ベレー帽の下から、巻貝のような、羊の角のような飾りが出ている。紺と白の学生服のような装いだが、この辺りの学校の制服ではないようだ。

 熱心に本を読んでいるようで、こちらに気付いた様子はない。

 貴方は、少女の邪魔をしないようそっと本棚に近づく。本棚の中に、自らを主張するように前に迫り出した一冊があった。

 辞書のように分厚い本だった。装丁に金と銀の縁取りがある。


 本に手を伸ばす。


 と、少女が気付き、顔を上げる。

 髪の色と同じ、赤い瞳だった。

 そんな瞳の人間がいるのかと、貴方は驚く。

 少女に気を取られた瞬間、本が意志を持っているかのように貴方の手の中に収まった。

 本がひとりでに開く。風が吹いているかのようにページが捲れる。

 視界が、赤で覆われた。本から、赤い煙のような何かが噴き出してきたのだ。

 少女が何か言ってるのが聞こえたが、言葉として聞き取れない。

 意識が遠のく。

 耐えきれず、貴方はまぶたを閉じた。




 気付けば、全く別の場所だった。


 意識を失っていたのは、どれくらいだろうか。それこそ瞬きのする間、数瞬程度にしか感じてないが、まるで違う場所にいると思うと、何時間にも思えて不安になる。

 手には、先程見た金と銀の縁取りの本を持ったままだった。

 周囲を見回す。

 赤黒い霧ばかりしか見えない。足元も、コンクリートのように固く平坦であることは分かるか、霧ではっきりと見えない。


 背筋に悪寒が走る。

 視線を感じた。


 感じた先、背後の上の方を見上げる。

 影が見えた。

 巨大な影。

 背には三対六枚の羽根が見えた。


 声にならない。声も出せないまま、貴方は本を取り落とす。

 目も離せない。

 影の巨人の頭の辺り。二つの丸い光。目と思われるその光が、こちらを見下ろしている。

 身体が強張る。

 巨人の目には、確かな悪意、嘲弄と侮蔑、そして殺意を感じた。


 貴方は─────────。



 A.勇気を振り絞り、巨人に殴りかかる

 B.大声で助けを求める


(AかB、どちらかを選び、選択したエピソードをお読み下さい)

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