尾高惇忠著 和声課題50選 著者レアリザシオン篇と課題篇 のススメ

大矢千穂

第1章 バス課題22曲の実施した感想

作曲家、故尾高惇忠(おだか あつただ)先生の著書、和声課題50選という和声課題集が全音楽譜出版社から出ています。和声課題というのは、メロディライン或いはベースラインに音を書き足して音楽として完成していく練習のことです。この本は、課題篇と、レアリザシオン篇に分かれています。課題篇は問題集、レアリザシオン篇は尾高先生による解答例(範例)集です。課題篇が別冊になっているので、和声を勉強する学生さんは解答例集を先生に預けて、なるべく答えを見ずに問題を解く事も出来ます。課題集の序文に、まず答えを見ないで問題を解く事が尾高先生から推奨されています。なので課題の音楽的技巧のネタバレにならない様に、1番から50番までオススメして行こうと思います。今回のオススメは22番迄になります。1番から22番迄は日本語ではバス課題と呼ばれるベースラインの書かれた課題、それ以降は22曲有るソプラノ課題つまりメロディラインが書かれた課題、最後の6曲はアルテルネ、アルテルネの意味はバス課題とソプラノ課題の混じった課題です。22曲ずつのバス課題とソプラノ課題は、尾高先生は難易度順に並べたそうです。又、課題を解答例に近づける(似る様にしようと努力する)のは良い事ですが、似ていなくても音楽的に素晴らしくすることを求められています。尾高先生の在籍していたパリ国立高等音楽院の和声学クラスは作曲科志望の学生だけでは無くピアノ、弦等色々な専攻の学生がいて賑やかだったそうです。1つの課題についてクラスの、何人かの学生がそれぞれ違う解答を持って来て、勉強し合うのはとても楽しく有益なことでしょう。


1番 バス課題

 和声課題を解く時、まず見なければならないのは調号です。調号を見て、課題全体からその課題は長調なのか短調なのか、何調なのかを判断します。和声課題の多くは途中で転調します。転調している部分はその長さがある程度長かったり、短かったり一瞬だったりします。全体の調が長調か短調なのかも転調の仕方からで分かる場合もあります。また、多くのバス課題の場合、課題の曲のやや終盤に、長い音価の属音があります。保属音です。最後には主音の保属音がある場合があります。これ等の事は和声課題の縦の響き、ハーモニー、和声的なヒントになります。

 縦の響きに対して、横の流れ、メロディライン、旋律を作るヒントは主題的なモチーフを探す事です。楽曲を構成する主要な「要素」、中心となる、メロディの動きつまり楽句が有るのかを探します。特に目立つ要素が無かったりする場合も有ります。曲を構成する主要なモチーフがある場合、主要モチーフは冒頭にある場合が殆どです。その冒頭の主要旋律を要素Aとし、曲の途中から課題のベースラインに出るもう一つの主要旋律を要素Bとし、冒頭の主要な旋律(A)の上方に重ねてBの主題を書く手法は、和声学の色々な教科書に載っています。又、要素の扱い方として有名なのは、主要な冒頭旋律を他のパート(ベースラインに対して上のパートの、テノール・アルト・ソプラノ)で模倣して(真似して)テノール、アルト、ソプラノの順に遅れながら次々とバスに継いで主要旋律を歌う様に書く手法も、「階梯導入」として有ります。階梯導入は譜面を見ると曲の出だしが階段の様に見えます。

 曲の中程に、ゼクエンツ、反復進行が有るのは、和声課題ではよく有る事です。同じ様な音型(モチーフ)が連なっていたら、反復進行である事が多いです。

 これ等形式的な事柄と、後は細かい和声学の規則に従い和声音、非和声音を効果的に使い、課題に指示されているアーティキュレーションにも沿う様に音楽が進む様に課題を実施(解く)して行きましょう。


2番 バス課題

 Allegroというテンポの指示なので、速め、快速なテンポで演奏される事を想定します。和音の変わる単位を細かくし過ぎると、和音が重くなり快速なテンポで演奏するのに無理が出て来てしまいます。

 課題の冒頭に2小節の休符があるので、冒頭を工夫します。主題的な要素が有るか探して、幾つか主題的な、はっきりとしたモチーフが有ったら冒頭から使い、目立つ主題が対位法的に組み合わさるかも調べましょう。曲(課題)の最後の部分は、主音の保属音です。


3番 バス課題

 小節の変わり目は同じ和音が続く事が無い様にしたいので注意しましょう。減七の和音の内部変換は小節の変わり目でも良いので使いましょう。掛留音やサブドミナント系の和音、七の和音等も効果的に使いましょう。


4番 バス課題

 課題の中盤に、やや音価の長い休符が有ります。そこの部分には工夫が要ります。要素A、要素B以外の要素Cがあったり、要素Dまである場合や、要素を少し変化させたり、反行型を使ったりする場合もあります。モチーフの拡大型という手法もあります。


5番 バス課題

 課題の中盤にやや長い休符があり、それ以外にも休符が課題中に幾つかあるので工夫しましょう。音楽的に、和音進行も自然になる様に心掛けましょう。終盤の、カデンツに向かって、カデンツが自然に終結を感じさせる様に和音進行を持って行きましょう。


6番 バス課題

 Andanteの3拍子。和音の内部変換、非和声音で、内声の動きも美しくなる様に心掛けましょう。


7番 バス課題

順次進行のモチーフを効果的に活用しましょう。内声の動きにも注意しながら。途中の二箇所の休符と、その間にある音をよく考えて課題の中間部を実施しましょう。アーティキュレーションにも注意しましょう。


8番 バス課題

要素を如何に駆使するかというより、それも大事ですが全体的な音楽の流れ、和音の密度のバランスにも注意しながら仕上げましょう。


9番 バス課題

始めの調性が何調なのかを忘れずに中間部を仕上げましょう。最後まで、調性のまとまりが無くならずに。


10番 バス課題

一見シンプルに見えますが私は解くのに苦労しました。中間部の要素の使い方、和音進行がどうなっているかに注意して、内部変換等も上手く使いながら終盤のフェルマータ前後が不自然にならない様にしましょう。


11番 バス課題

要素は、簡単に見つかれば良いのですが、簡単に見つからないと苦労します。見つからなかった場合、音楽的にまとまりが有る様に工夫しましょう。バス課題の全体の構成を良く見て考えましょう。


12番 バス課題

アンダンテということを考えて和声付けをしましょう。要素の性格を考えて、ごちゃごちゃにならない様にシンプルにするのも方法です。


13番 バス課題

アレグロの、生き生きとした課題。中間部が難しくなっています。中間部の2小節に渡るEs音をどうするかも課題です。


14番 バス課題

14番から後のバス課題は、芸大の試験に出された課題です。この課題は遠隔調まで、転調が劇的な課題です。


15番 バス課題

14番と同じく、転調を繰り返すので、今何調かを見失わないように、自然な転調をしましょう。


16番 バス課題

器楽的なスタイルの課題。音楽的センスが問われます。要素も探しましょう。保続音に入る前の転調、ごちゃごちゃにならない様に。


17番 バス課題

要素の扱い方によって、色々な実施が出来る課題。グループレッスンで、人数がいて、色々な実施があれば楽しいかも知れません。


18番 バス課題

Andante espressivo。美しい課題。美しく仕上がると良いです。モチーフの特徴を生かして。


19番 バス課題

順次進行の動きを基としたモチーフなので、対位法的な処理が出来ると良いです。


20番 バス課題

途中の転調が難しいです。転調も難しいのですが上3声、対位法的な要素も含めた、いかに美しく旋律を作るかが問われます。渋い雰囲気の課題。


21番 バス課題

美しいゼクエンツにする為には工夫と思考が必要です。ゼクエンツが1つの、課題におけるポイントになります。


22番 バス課題

内声が寂しくならない様に、バランス良く仕上げましょう。小節数がそんなに多くないので簡単と感じる方と、難しいと感じる方がいるかも知れません。


尾高惇忠先生の課題集は、教育的価値があるだけではなく、芸術性の高い物、芸術的価値の優れた作品だと思います。皆さん是非、課題をやってみましょう。

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