完璧王子と記憶喪失の伯爵令嬢

月乃

プロローグ

「また、必ず会おう。そのときは……」

「ええ、楽しみにして待ってるわ。約束よ」

そう言って彼女は笑っていた。あの日、俺たちは帰り際に約束を交わした。口約束に過ぎなかったが、ずっと待っていてくれると信じて…。


 俺ジェラルド・フォン・リーベルトは勉学、芸術、運動等何でもできる完璧王子と言われている。実際には完璧…というわけではないが、そう言われるように努力し続けた。それは、第1王子という立場上、誰よりも優秀でなければならない。周囲の期待に応えられるように…というのが理由の半分である。もう半分は彼女に相応しい男になって、いつの日か迎えに行きたいからである。

 

 10歳のとき、常に周囲の求める通りに振る舞わなくてはならない日々にうんざりした俺は王宮を抜け出したことがあった。王宮内には緊急時に王族が使用するための秘密通路というものがある。その秘密通路は王国各地に張り巡らされており様々な場所に行くことができる。生まれてこの方、王宮の外の世界を見たことがなかった。王宮は息が詰まる。気分転換に外の世界でも見てみたいと思い、秘密通路を使い、抜け出したのだ。秘密通路は一度迷ってしまうと出られない迷路のような場所で、手前から奥まで幾つもの通路に分かれていた。どの通路に進んだらどこに辿り着くのかは分からなかったので、とりあえず1番手前の通路を使うことにした。その秘密通路を出ると王都シュテルンだった。シュテルンには屋台がたくさんあり、賑やかで、活気のある都市だった。そこで彼女…銀髪の少女リリーに出会ったのである。リリーと過ごす時間はとても心地良く、楽しかった。リリーは俺を明るく照らしてくれて、心が洗われるようだった。俺はそんなリリーに惹かれていったのだ。


しかし、あれから10年リリーに再び会えることはなかった…

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