第17話 強子の葛藤


強子は人間を刺してしまい落ち込んでいた

俺、十兵衛は強子にどんな言葉をかけたらいいか分からないでいた。

そんな俺達によくない報告がやって来た。


死者退治人の雑用係からの報告だ


「強子さんが刺した黒子ですが、死んだそうです。」


強子はうなだれた

全身から力が抜け、希望が断たれた感じだった。


「私、これからどうなるのかしら?

 人間を殺したからには罪に問われるの?」


雑用係の人が言った


「死者を庇ったものは、死んでも自業自得とされます。

 強子さんは罪には問われないでしょうね。」


強子は自虐するように笑った


「なにそれ、罪を問われた方がマシよ。

 人を殺してなにもなしなんて、死者みたいじゃない。」


俺は言う


「強子は死者とは違う、あれは事故だ。

 不幸な事故、強子に黒子を殺す気はなかった」


「でも!!」


「とにかく、、今は休むんだ

 家に帰ってゆっくり休むんだ。

 休め」


俺たちはその日解散した

強子は家に帰ってゆっくり休む事になった。




数日間、強子に連絡しようとしても連絡が取れなかった

だから心配して俺達は強子の家にやって来る


チャイムを鳴らすと、おじいちゃんが出て来た


「なんじゃ?」


「強子…さん居ます…居るか?」


死者退治人業界では家族ぐるみで敬語は使わないはずだ。

雑用の人は使っていたけど、それは退治人と雑用の職能の差だろう。

おじいさん相手にも敬語は使わないようにしよう


「居るが、部屋に引きこもって居る。

 誰とも会いたくないそうだ。」


「じゃあ部屋の前まで行っていいか?」


「…十兵衛と灯じゃな?孫から話は聞いている。

 いいぞ入るといい」


俺たちはおじいさんに案内されながら

強子の部屋に向かう


「強子はわしとばあさんに、嬉しそうに話していたよ

 死者退治人の友達が出来た、一緒に死者退治した

 一緒にカラオケで歌った、ゲームした。とかな…」


「「………」」


「わしには死者退治の事は分からん。

 だから強子を励ます事が出来るのは、お前らだけなのかもしれん

 強子を頼むぞ」


そう言っておじいさんは、強子の部屋らしき部屋の前に俺たちを連れてくると

去って行った


俺は強子の部屋を叩いた


「強子、聞こえてるんだろ?」


返事はない


「あれは事故だった、あれで落ち込むのは分かる

 俺だったとしても同じく落ち込んでいただろう。」


俺だったとしても落ち込んで引きこもっていたかも知れない

いや、俺の場合引きこもるなんて親が許してくれないだろうけど。


「だがお前には使命がある、死者を倒し人を救う使命だ。

 殺してしまった人の分も、お前は人を救う使命がある」


「…人を救う使命?」


声が部屋の中から聞こえる


「そうだ、だから死者退治を続けるんだ。

 そして人を救う、それがお前の使命なんだから。」


強子は部屋から少し顔を出した


「死者を退治すれば、黒子の件の罪滅ぼしになるかしら?

 少しは、罪を滅ぼせるかしら?」


「あぁ、罪を滅ぼせるさ。だから頑張って死者退治を続けよう。」


強子は部屋の扉を閉じた


「少し、心を整理させて。

 大丈夫、次の死者退治の時は行くわ。」


「分かった、心を整理する時間が必要だよな。

 俺たち今日はとりあえず帰るから」


強子が俺の言葉で、少しでも心を整理出来ればいいんだが。


「待ってるからね、強子!!」


灯が叫んだ


「………」


強子の返事は聞こえなかった。

でも今出来ることはない、今は去る事だけだ




自宅にて、俺はお父様に聞いてみる


「お父様は死者退治の最中、死者を庇う人間を殺した事がありますか?」


「…答えたくない質問だな。」


「俺の仲間が、死者退治の最中

 死者を庇った人間を殺してしまいまして。」


「強子だな、話には聞いている。」


強子の件、伝わっていたのか

さすがは名家の当主、情報網がある。


「…俺もある、死者を庇う人間も居るからな」


「お父様も、あったのですか」


「仕方ない事だと割り切ろうとして居るが、それでも

 死者殺しと人殺しは違う、割り切れるものではないな。」


お父様でも割り切れない

なのに小学生の強子が割り切れるだろうか?


「いつか乗り越えるべき壁だ、強子はそれが早く訪れただけだ。」


早く訪れただけ


「お前も覚悟しておきなさい。

 死者を庇う人を殺す事になる覚悟を」


死者を庇う人を殺す事になる覚悟。

俺はしたくないな、こんな事言うと甘いと思われるかもだけど


いくら死者を庇うとは言え人間は人間だ

絶対に殺したくない




私強子は部屋にこもりながら考える

死者を倒し人を救う使命


でもあの人間は死者を庇った

それに対する罪滅ぼしに、死者殺しは罪滅ぼしになるのだろうか?


確かに死者は人を殺すけど。

あの2人は仲良しそうだった。


「ううん、何を迷っているのよ私。

 死者は両親の仇でしょ、退治しなきゃ」


退治しなきゃ、ダメなのよ

死者は人を殺すから、死んだ両親のためにも、世間のためにも


「明日から、引きこもりはやめよう。」


前を見て死者退治を開始しよう。

せっかく2人も励ましに来てくれたんだし

いつまでも落ち込んで引きこもってられないわ。




そうと決まれば、私は茶の間に降りて行った


「おばあちゃん、ご飯出来てる?」


「おぉ、強子かい?出来てるよ、ようやく食べる気になったのかい?」


「うん」


ご飯を食べなきゃ死者退治も出来ないからね

食べて元気出さなきゃ。

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