第4話 組手と友情


俺は道場の組手で負けなしであった。

自分より年上の中学生ぐらいの男。

自分よりさらに年上の高校生ぐらいの男にも余裕で勝っていた。


そんな事もあり、俺はちょっと道場にがっかりしていた。

この道場のレベルはこんなものなのか?

ここじゃライバルが居ず、俺を高められないのではないか。と…


そんな夏のある日灯が言い出した


「私十兵衛と組手したいな、私以外相手にならないだろうし」


先生は慌てて言った


「しかし、組手は同性同士やる決まりで…」


灯は笑顔で言う


「大丈夫だよ、間違って私の胸とか触っちゃっても。

 私怒らないし。」


灯は準備運動しながら言う


「だから戦わせて、私以外には十兵衛の相手は出来ないと思うし。」


「分かりました、秋田(灯の苗字)さんがそこまで言うならいいでしょう」


こうして俺と灯の組手が決まった




この前戦った剛田とその取り巻きは、こちらにも聞こえる声で話す。


「剛田君、灯って強いの?」


「灯は男子とは戦ってないはずだから、分からねぇが。

 戦った女子は1発で倒れてるな。」


「それって、強いって事?」


「女子の中では1番って事だろ、俺たち男子に勝てるかは置いておいて。」


「じゃあ剛田君にも勝った、十兵衛に勝ったら」


「…その時は灯が1番って事になるな、女子が1番って嫌だな」


剛田は叫んだ


「おいてめぇ!!十兵衛勝てよ、俺に勝ったんだから

 女子なんかに負けたら承知しねぇぞ!!」


俺は手をあげて余裕アピールして見せる


「大丈夫だ、俺は女子には負けないよ」


灯の組手は見てないが、女子は女子だろう

男子のレベルには及ばないはず




俺と灯は正面から向い合った


「手加減した方がいいかな?」


「しなくていいよ、バカにしないで。」


先生は言った


「組手開始!!」


俺は笑いながら言う


「そちらからどうぞ、好きに打ち込んできていいぜ」


灯は笑顔で言う


「じゃあ遠慮なく。」


灯の右ストレートが俺の腹に当たる


「ごへっ!!」


俺は一撃で地面に座り込んだ。

お、重い…


門下生たちの声が聞こえる


「す、すごいパンチだ」


「一撃であの十文字が沈むなんて」


灯は軽蔑したような表情で言う


「その程度?がっかりだよ

 十文字で男子で1番強いって言うから、もっと強いと思ったのに」


がっかり?俺が女子に一撃で負けて

がっかりされる、だと?十文字の俺が?そんな事あってはならない


「るどりゃぁ!!」


俺は立ち上がった。


「私のパンチを食らって立てるんだ?やっぱり男の子だね。

 女の子より頑丈だ。」


俺は気合いを入れ直して言う


「男だからじゃない、十文字だからだ。

 十文字家の誇りにかけて俺は立って居る。」


俺は頭を下げた


「お前が女子だからと油断した事は謝る」


そしてすぐ上げた


「だからもう油断はしない、本気で行くぞ。」


俺は手足に霊力を込めた

俺は素早く灯の腹を殴る


「きゃう!!」


灯は道場の壁まで吹っ飛んで行く


門下生たちは騒ぐ


「道場の壁まで吹っ飛んだ」


「す、すげぇ」


俺は灯に問う


「大ダメージだろ?降参するか?」


灯は腹を押さえながら言う

少しきつそうだ


「じょ、冗談きついよ。

 やっと君の本気を引き出せたんだ、まだまだこれから。

 始まったばかりなんだから」


「そうかい、ならここからはずっと俺の…」


「ここからは私のターンだよ!!吹っ飛ばしたのが運の尽き!!」


灯はそう言うと、手の平を開いて霊力を飛ばして来た

俺はそれをかわす


道場の壁が壊れる音がした

後ろを見ると道場の壁が壊れていた。


「なっ!!霊力を飛ばした。」


先生の驚く声が聞こえる


「霊力の放出は高等技能、あの歳でそれが出来るとは。」


灯は笑顔で言った


「私の技は霊力の放出、私の真価は近接戦より遠距離戦にある。

 吹っ飛ばした事、本当にミスだったね。後悔させてあげるよ」


そう言うと灯は霊力を放出しまくる

たくさん霊力波を放ってくる


俺はかわそうとするが、全部はかわしきれない

一部腹に当たる


「がはっ!!」


俺は腹を押さえる、壁を壊すだけあって

なかなかの威力だ。


灯は笑った


「降参していいよ、私が吹っ飛んで遠くにいる状況じゃ。

 何も出来ないだろうし」


俺は笑った


「あはは、あはは」


「何が面白いの?」


「いや、俺はこの道場が退屈だと思って居たんだが

 お前のような強者が居てうれしくてな、戦いを楽しめて」


「戦いを楽しむ?君は負けそうだけど」


「俺は負けねぇよ、なぜなら勝つ策があるから」


勝つ策があるから、俺は負けねぇ。

まだまだ全然ピンチじゃねぇ。


俺は灯に突っ込んだ


「突っ込んで来る!!バカなのかな?

 霊力の波動で迎撃をすれば」


灯は霊力の波動を大量に放って来た


「オラオラオラオラオラオラ!!」


だが俺はそれをすべて、霊力を装備した拳で弾いた


「全部弾かれた!!」


俺は笑顔で言った


「瞬発力はお父様との戦いで鍛えてるんでな。

 全部かわしきれなくても、弾くぐらいはできる」


俺は灯の目の前に到達した


「ひっ!!」「ここで手を抜くのは失礼だよな」


俺は灯の顔面を、霊力を込めて思いっきり殴った


「ごへっ!!」


門下生が騒ぐ


「顔面行ったぁ!!」「女子だぜ、相手は」


灯は気絶した


俺は笑顔で言った


「勝ったぜ、剛田」


「けっ…」


剛田は悪態をついた

勝っても自分を負かした俺の勝利だし、そこまでうれしくないんだろう。




しばらくして、灯が気絶から覚める


「はっ!!私は…」


「お前は俺と組手して、そして負けた。」


「私負けたんだ…悔しい、道場で無敗だったのに。」


俺は笑顔で言った


「勝ちはしたけど、お前みたいなつえぇ奴、お父様以外で初めて会った。

 すごくワクワクする戦いだった」


「ワクワク?」


「だから友達になろう。これからは一緒に修行して

 また組手をしよう」


「…友達になるのはいいけど、今度は私が勝つからね!!」「上等だ、今度も俺が勝ってやる」


こうして俺に新たなる友達が出来た

今世初めての女子の友達だ、男子の友達はナンパ野郎が同級生に居るけど

初めてのまともな友達だ。

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