何度でも転生していつかあの娘と使命を果たします。え?人間限定じゃないの!?
無職無能の自由人
プロローグ
第1話 旅立ちソロ
俺の人生は失敗だった。誰が見たってつまらない物だっただろう。
努力は実らず、我慢を重ね、諦めが日常だった。
だがそれでも俺の人生だ。大切な物がたくさんあった。
そんなことをきゅうにおもいだした。
「かあちゃ~ん、ぼくおっちゃんやった!」
目を覚ませとつねられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そんな事があってから5年。
不思議な記憶を持ち、8歳のぷにぼでぃなのに大人並の体力と聡明でクレバーな頭脳を持つのが俺だ。
家は特に言うこともない辺境領の貧乏な農家。生きることに縛られて自由がない。ほぼ農奴みたいなもんだ。
日々生きるためだけに土を耕し、そのほとんどを掠め取られる。
農閑期には苦役があり、その対価は森で薪を作る権利だ。本当に救いがない。
だがみんなそれが当たり前だと受け入れている。親父もお袋も生まれた時からずっとそんな生活なんだとさ。周りの連中も仕方ねぇと受け入れている。
受け入れねぇ奴は穀潰し、身の程知らずの馬鹿たれだそうだ。嫌だねぇ。
「起きたなら水を汲んできておくれ」
「うん、分かってる」
かあちゃんの言葉に押され、今日もこの貧乏村で生きるために水を汲みに行く。水汲みは重労働であり8歳の俺に任せられた仕事だ。
徒歩で30分ほどの距離、水を入れたら自分の体重と同じ程度の水瓶を4つ同時に運ぶ。天秤棒2本に2個ずつ下げて4つだ。
俺は大人と競えるくらいの怪力だ。この程度わけない。とはいえ意味もなくこんなに沢山運んでるわけじゃない。
2つはウチの分、2つは隣を歩く鼻垂れ幼女ん家の分だ。
ぼろ切れにしか見えない貫頭衣に裸足、痩せた貧相なガキだ。なのに嫌な匂いはしないし薄茶色の髪はサラサラでついチラチラ見てしまう。きっと磨けば大層な美女になることだろう。原石だな。
だがそんなことは誰も気にしない。このガキももう少し大きくなったら重労働が課せられ、適当に結婚してずっと生きるためだけの労働に勤しむんだ。
それがこの辺境の当たり前だった。誰もがそうして生きていた。
俺はその中に馴染めなかった。不思議な記憶のせいだ。
最初は3つの頃、ぼんやりと違う人生が浮かんできた。それから3年、少しずつ記憶が鮮明になり、6つの頃にほとんど思い出したと思う。
俺は今とは違う人生を生きていた。こことは違う国、違う言葉、たぶん違う世界。
どこに出しても恥ずかしい人生だった。でもそれは俺の人生。
嫁も子供もいなかったが親兄弟は居た。金は無かったが飢える程でもなかった。俺はそんな人生を納得して生きていたんだ。
きっと下らない終わりを迎えたんだろうとは思う。だが終わった記憶がない、それが悔しい。何故か唐突に終わってしまっていた。思い出そうとすると頭がかゆくなって続かない。
わからないけど前のは終わって新しい人生になっただと?ムカつく、どうしようもないと分かっていても怒りが込み上げてくる。
「あんちゃん、どしたの?」
思い出し怒りでプルプル震えていたらアホを見る目でアホに見られていた。
「歩きながら魔法の練習してたんだ」
「すごい!さすがあんちゃん!」
嘘だ、そしてこいつはアホだ。磨いてもアホな美女にしかならんな。
「あんちゃんは力すごいのに魔法も使うのかー!あたしにも教えてー!」
「魔法は生まれつき使えるかどうかきまってるんだ。前に村に来た冒険者が言ってたろ」
当然俺には使えない。そんな才能あふれる人間じゃねぇんだ。
「あたしが使えるかどうかはわかんないじゃん」
確かに。でもそんなん俺にはわからんし。てか使えたら悔しいです。
「あんちゃんの力は魔法じゃないの?」
「これは俺が鍛えただけだ」
「うそだー!そんなの見たこと無いもん!」
たぶん本当なんだよなぁ。そう、今の力は前世の記憶の全盛期と同じくらいなのだ。毎日毎日稽古を積んだあの無駄な相撲道のな。
記憶がある程度戻った頃、すわチート転生かと勘違いしたもんよ。だが俺には魔力も無ければ特別なスキルも無い。この世界にレベルもステータスも無いのだ。
だが記憶が蘇るのと同時に、前世で学んだ事や前世で鍛えた力が身についていた。ぷにぷにお子様ぼでぃなのに力は底辺力士並なのだ。
一時は舞い上がったものだが、この力は掛け算ではなく足し算っぽい。つまり大人になってしまえばただの力持ち程度に収まるんじゃないか?
俺にやれるのは子どもの内から大人のように働く事だけなのだ。
日々の仕事を抱え、騒いで歩き疲れたガキを担いでやることも出来ない。ただ少し力が強いだけなのが俺だ。
そんな生活を続けて更に5年。まだガキだと思うんだが俺に独り立ちの歳が来たそうだ。
「俺は町に行くよ、丁度行商が来てるからアレといっしょに行く。上が二人もいるのに居残ってもしゃあないだろ」
なんて言いながら兄貴が居なくても村を出る気満々だったんだよなぁ。
だが何も波風立てる事もない、俺は仕方なく家を出て、家の人間も仕方なく見送るのだ。俺が家を捨てたわけじゃないし、俺が捨てられたわけでもない。そういうことだ。
「あんたが出ていくのはいいけどさ、あの娘はどうするんだい」
それを言うんじゃねえよかあちゃん。俺にはあの娘は勿体ねぇ。
鼻垂れ幼女はキラキラ髪の美少女にジョブチェンジしていた。
ずっと俺にくっついていたし、それを可愛く思いたくさん助けた。まぁ意識しちゃうのは自然だと思う。こんな田舎じゃ側にいる異性とくっつくのが普通だし、余ったら他所の村のやつと強制結婚だ。
俺も憎からずっていうか、普通に好きだ。ただな、俺はな、この世界が好きになれない。
俺にとって本当の世界は前世の世界なんだ。あちらの父母が俺の本当の父母であり、あちらの兄弟が俺の本当の兄弟なのだ。
なら、あの娘と結婚したら?それは本当の嫁なのか?もし奇跡が起きて帰れるとなった時、迷わずこちらを選択するのか?
……俺はあの娘と一緒にはなれない。
「よう」
「あんちゃん」
だが放置ってわけにもいかない。辛いが頑張ってお別れするんだ。
「俺は町に行くよ、元気でな」
さよなら、幸せになるんやで
「私も町に行くから一緒だね」
「ふぁ!?」
まて落ち着け、ここで流されてはいけない。
「俺は冒険者になるんだ、ずっと町にいるわけじゃないしお前を守ることも出来ない。それにお前はこの村のみんなが好きだろう?」
俺と違ってこいつは愛されキャラだからな。
「ん?私は町にいるおじさんの所に働きに出るんだけど?なにか勘違いしてない?」
にやにやしながら下から見上げてきやがる、すっとぼけた事を言っているが完全に確信犯だ。
だが俺には元々その気はねぇんだ、吹っ切れちまってるよ。
「べ、べべちゅに何も無いが?俺は明日もういくが?」
俺はクレバーに返した。
「行商のおじさん達と一緒に行くんだよね。じゃあ私、急いで準備しなきゃいけないから!」
振り返りもせず走っていきやがる。
「まったく騒がしいな、…そんなところも最高だぜ」
俺はその足で町を目指した。着の身着のまま金も無しに。
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