魔力に嫌われた女剣士と魔法で呪われた少女〜魔法を使えない無能にして最強の剣士〜

代永 並木

始まり

金無し女剣士

「金が無い……」


銀髪の女性が酒場で一番安い料理をつつきながらため息をつく

名はクロナ・ヴァイス、貧乏な冒険者

この酒場で一番安い料理だけを食べるのはクロナ以外居ない

皆酒を飲み様々な料理を食べている


様々な人々の依頼、国からの依頼を纏めるギルドと言う組織がある

そのギルドから資格を得た依頼の請負人が冒険者と呼ばれている


「明日は少しでも報酬多い依頼やるかぁ。まぁ私のランクだと余り多くないけど」


冒険者にはランクがある

6〜1級まであり冒険者ランクもしくは信用度ランクと呼ばれている

依頼には難易度の高い物、危険な物が存在する、その為ギルドでランク分けを行っている


クロナのランクは5、下から二番目

6級は新人用のランクであり実質一番下のランク

簡単な依頼しか受けられない

料理を食べ終わり安い宿に泊まる

早起きして向かう為に早寝をする


翌日、食事を取り支度をして朝早くからギルドへ向かう

既に冒険者の何人かがギルドの施設の中に居た

冒険者達は依頼の書かれた紙、依頼書が貼られている掲示板を見ている

クロナも5級の依頼書が貼られている掲示板を見る


「複数の依頼受けるかな……いやぁでも時間足りるかなぁ……あれ」


1つの依頼が目に付く

魔物の討伐依頼であった

危険な依頼の多くは魔物討伐の依頼であり基本4級以上のランクを持つ冒険者がやる依頼

だが魔物の中でも弱い魔物のそれも討伐数が少ない依頼に関しては5級でも受けれる

すぐに手に取り確認する


「人数1人以上……行ける!」


5級の魔物討伐依頼は基本2人以上でないと受けれない

そしてランクを上げるには討伐依頼を一度達成する必要がある

クロナはソロ冒険者、とある理由からパーティを組めずずっと討伐依頼を受けれなかった

すぐに受付に行く


「この依頼を受けます」

「魔物討伐ですね。分かりました。期限は3日以内、証明は魔物の体の一部を」

「はい」


手続きを終えて正式に依頼を受ける

すぐに施設を出て魔物の出る場所へ向かう

大通りの左右は民家が並びその手前では屋台が並ぶ、屋台には食べ物や小道具、布等が値段の書かれた札と一緒に置かれている

民家をそのまま店にしている所もあり扉の横に看板が置いてある

冒険者や一般人、騎士など様々な人々が行き来していて大通りは賑やか

王都を守る為に建てられた城壁に設置された門

2人の門番が立つ城門を抜ける

城壁の外は魔物が闊歩している

外に出た瞬間から危険性が一気に上がる

城壁付近の魔物は騎士団と呼ばれる王都を守護する人々が見回りをしている為魔物の数は少ないがそれでも商人や新人の冒険者が襲われる事が多々ある


「この魔物は確か森の中だったかな」


魔物は種類によって住む場所が大きく変わる

今回の討伐依頼の魔物は王都の東にある森に生息している

東の森へ向かう


「2体なら余裕かな。まぁギルドの依頼だからかな」


人々が出す依頼では難しく5級に依頼を回せない場合、ギルドが難易度を調整して依頼を出す

その為比較的簡単に出来ている

今回の依頼は特に最低人数1人、難易度が低く設定されている


東の森に着き森の中に入る

青々とした草木が生い茂っている

クロナは東の森に薬草取りの依頼で何度も足を踏み入れている為、道を覚えている

順調に奥へ進む

周りを見渡して魔物を探す

暫く周りを見渡すが魔物どころか動物や虫の声すらしない


「静か……珍しい」


いつもなら虫の声がしたり魔物や動物の姿が見える

しかし、今日は一切姿が見えない

違和感を感じるがそのまま奥へ進む

魔物との戦闘経験が多い者なら即危険だと判断する状況だがクロナは経験が浅く気付いていない


「……けて! ……れかぁ!」


森の奥から声が聞こえる

距離が遠くはっきりとは聞こえない

ただ少女の声だと分かる

こんな魔物が居るような森で大声を出す事は危険行為、普通なら有り得ない


「誰か危険な目にあってる!? 声の方向はあっちだね」


クロナはすぐに声のする方へ駆ける

草木を掻き分けて真っ直ぐ声のした方向へ向かう

走る、一分一秒でも早く着く為に


そしてクロナは木々の隙間から魔物を見つける

遠目から見ても大きく感じる

視線を動かし声の主を探すが見つからない

少女の居る場所は丁度クロナの位置からは確認出来ない


……見えない、ここからは見えない位置?


草木を掻き分けて飛び出す

丁度魔物の背後を取った

しかし、すぐに周りを見渡して少女を探す


「誰か来たの? 助けて!」


声がする

魔物の後ろから聞こえる


「あぁ、助ける!」


返答して剣を抜く

魔物は武器を持つクロナを危険と看做して振り返る

真っ黒な2m以上ある巨体に太っているかのような大きな腹が更に図体を大きく見せている

手には大きな斧を持っている


……斧に血は付いてない、なら無事かな。確認したいな


斧を見て血が付いていない事を確認する

血が付いていないという事は恐らく少女は斧で襲われてはいない


クロナは見合った状態で少し後ろに下がり横にも数歩移動する

少女の姿を視界に収める、一瞥して傷が無い事を確認する


「危ないから少し離れた方がいいよ」

「はい!」


助けに来て戦闘に巻き込む訳には行かない、少女に声を掛ける

少女は言われた通り離れて木の裏に隠れる


魔物が斧を大きく振り上げる


「危ない!」


力を込めて勢いをつけて斧を振り下ろす

ガキッン

武器同士がぶつかった金属音が辺りに響く

そして大きく斧は弾かれその衝撃で魔物はよろめき数歩後ろに下がる

クロナの持つ剣が砕け散る、その場に捨てて別の剣を抜く


……両断は無理、大き過ぎる


「何が起きたの……」


少女の目ではクロナが何をしたか見えなかった

見えたのは衝突の一瞬の後に斧が弾かれ剣が砕けた所


……あれは魔法? 身体能力を高めたの? でも魔力を使ってるようには見えない。でもあれは魔法じゃないと


少女はクロナが魔法を使ったのだと判断する


2本目の剣を構えて地を蹴る

素早く接近し踏み込んで魔物の胴体を2回切り裂く

深い傷だが背中には届かない

再び剣が砕け散り破片が地面に落ちる

3本目の剣を取り出す

クロナは5本の剣を持ってきていた


……後3本、足を切って首を切る


少し下がり剣を大きく振りかぶる

そして横薙ぎに振るう

狙いは足、巨体を支える両足を切り裂く

肉も骨も一撃で断つ

足は胴体程大きくは無い、一撃で切断する

足を切断された魔物は後ろに仰向けで倒れ込む

起き上がろうにも足を失い起き上がれない

4本目の剣を抜いて胴体に乗り首を素早く切断する

魔物は絶命し動かなくなる

4本目の剣も砕け散る


……後1本……2体倒せるかなぁ。この魔物ってそこそこ高く売れたはずだけど……持っていけない


ナイフを取り出して討伐証明に使える体の一部を回収して袋に入れる

魔物の身体は素材として高く売れる

しかし、大きな魔物となると持っていくには馬車や荷車、高価な魔道具が必要になる

金が無くソロで活動しているクロナは何も持っていない

そもそも今回この巨体の魔物を倒す予定は無かった


「君大丈夫?」

「は、はい! 助けて頂き有難うございます」

「間に合って良かったよ。街まで護衛しようか?」


王都まで安全とは言えない

少女は武器を持っているようには見えない

魔法をメインに使うとしても杖は使う


「い、いえ、そこまでして貰う訳には」

「気にしなくていいよ。私も戻る予定だし」

「依頼を達成したんですか?」


少女はクロナを見た目と戦闘技術から高ランク冒険者だと判断する


「いや……魔物居ないし剣1本になったから無理かなぁと思って」

「主が現れたから隠れたのかも知れませんね」

「主?」

「知らないんですか? この魔物はこの森の中で主と呼ばれる魔物なんですよ」


魔物には縄張りが存在する

縄張りを支配する魔物の事を主と人々は呼ぶ

クロナが倒した魔物は東の森の最も強い魔物


「森の主が居るって噂だけは聞いてたけどこの魔物がそうなんだね」


……主は一番強い魔物、まぁここの魔物は比較的弱いしこんなものか


「はい、それでこの魔物はどうするんですか?」

「後でギルドの回収業者に頼むかな」

「私が運びましょうか?」

「運べるの?」

「神秘の箱を持ってます」

「それならお願いしたいかな」


神秘の箱、大きな荷物などを運ぶ時に使える魔道具

高価だが優秀で冒険者がよく使う

少女は魔道具を使用する

箱が開き魔物を吸い込み終わると元の姿に戻る


クロナが護衛をしながら王都へ向かう

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