記憶喪失のフリをして悪役令嬢を乗り切ります!

うんぽこ

記憶喪失1日目

5月の連休を迎え、今日こそは24時間寝てやるぞと楽しく惰眠を貪っていた午後。

突然、ガタガタと激しい揺れに不快感を覚えた。地震、とは違う。


「ん…」


なんだか体が締め付けられているような窮屈さを覚える。

確か寝た時はお気に入りのジェラピケという名の、ヨレヨレの中学校の時のクラスTシャツに、パンツというとんでもなくオシャレな恰好で寝たはずだが…。

とてつもなく胃が苦しくなり、嗚咽を漏らす。


「うぅ…」


何かがおかしい。目を開けていないが分かる。いつもの自分の部屋の匂いではなないのだ。なんか、カビ…?木の匂い…?とにかく目を開けるのが怖い。

うっすらと片目から開けてみようか…?いや怖いな。

音はガタガタという音だけが鳴り響いている。もしかして、私は誘拐されたのだろうか?

状況を把握したい気持ちと恐怖の気持ちが混ざり二の足を踏んでいると、突然声が聞こえる。


「おい、狸寝入りか?本当に嫌になるな」


男の声…やっぱり…誘拐されたんだ。そう確信した。


よし…と一息つくと、勇気を出して両目をかっぴらいた。

こういうのは勢いだ。0か100かしかないところがお前の短所でもあり、長所でもある。ただし、ほぼ短所だ。と上司にはよく言われたものだ。


勢いよく目を開けたものだから、私の向かいに座っている男は体を少し跳ねこちらを見ている。

こちらからもマジマジと見つめ返す。赤みが抑えられたショートのブラウンの髪、少し吊り上がった緑の瞳、口は大きすぎず少し品のある小さめの口。というか外国人…?改めて知り合いではないことを理解する。意を決して、誘拐について尋ねてみることにした。


「…クッソイケメンだなおい(あんた、誘拐犯?)」


思っていることと言いたいことが全くの逆になっているが今のところそんなことは

些末な問題と言える。美は世界を救う。私はたった今美に浄化されたところだ。


私が誘拐犯を疑ったことで、相手は呆気に取られた表情になったあと、苦虫を嚙み潰したような、それでいて軽蔑するかのような表情になった。


「…今度は何を企んでいるんだ?気持ち悪い。」


と吐き捨てた。


…あ、こいつないわ。俺様系イケメン本当にナシ。各種イケメンの中でも俺様系だけは地雷中の地雷。唯一の地雷を踏んでくるとは逆に奇跡なのか?

現状把握に協力してくれそうでもないし、一旦こいつは無視することにしよう。


そんなことよりも、今の状況の整理をするべきだ。

真っ先に分かったのは、どうやらここは馬車の中ということだ。どうりで激しく揺れているわけだ。こんな乗り物考案したやつは一体誰なんだ?寝たくても眠れたものじゃない。新幹線が恋しい。


そして、胃の不快感の原因。少し視点を下にずらしたところ、とんでもなくゴテゴテしたドレスを身に着けている。

これは多分コルセットの締め付けによるものだ。こんな重い布を纏って筋トレでもしているのか?なんだこのギラギラ光っているダッサいピンク。このリボン。いつの時代のドレスだよ。と脳内でツッコミと批判をひとしきり終える。



…さてと、見て見ぬふりをしたいと思い、目を逸らしていた恐ろしいことがもう一つある。


絶対に胸のブツがでかくなっている。

4バストは上がっている。おかしい。日頃から豆乳を飲んだ効果がここで突然現れたというのか?神よ…


恐る恐る腕を見てみると、どう見ても白い肌に華奢な腕をしている。




もしかして、もしかすると…




「これ、私じゃない?????」


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