聖剣を抜いた結果、封印されていた魔物たちが現実世界に溢れ出たので勇者となって退治する話

さい

第1話

 十年前──


「いいか、平一」

「なんだよ、じいちゃん……」


 じいちゃんの寝室である和室にて、正座をしている俺に向かってじいちゃんは言った。


「絶対に倉庫を開けるでないぞ」


 またこれか。

 よくじいちゃんは俺にそんな話をしてくる。

 一体、なぜじいちゃんがそんなことを言ってくるのか、俺にはよくわからない。


「わっ、わかってるって。でもじいちゃん、なんで倉庫を開けちゃダメなんだよ?」


 ずっと気になっていたことだ。


「それは秘密だ」


 ただ、教えてくれることはなかった。


 倉庫に入っては行けない理由。

 いつかその理由がわかる日が来るのだろうか。



『ピピピ……朝だよ、朝だよ』


 スマホから流れるアラーム音により、俺こと榛原平一は目を覚ました。


 ふあ、と大きなあくびをした後にスマホを手にして自室から出て、階段を降りてリビングへと向かう。


「じいちゃん、おはよう」

「ああ、平一、おはよう」


 リビングには白米に味噌汁に焼き鮭と朝の和食の光景が広がっていた。


 じいちゃんが作ったご飯を食べ、歯磨きをし、制服に着替えて俺はじいちゃんに言う。


「んじゃ、行ってくるじいちゃん!」


 外に出ると、黒髪ショートカット、セーラー服姿の女子高生が一人立っていた。


「遅い、平一! 一分遅刻だよ!!」


 一分って……。

 それくらいいいじゃないか。


 なんてことを思ってしまった。


 彼女の名前は倉本加奈。

 保育園からの幼馴染だ。


 俺にだけキツく当たってくることがあるけど、俺はそんな彼女が好きだ。


「はいはい、ごめんごめん」

「一分も遅刻したんだから、お昼ご飯くらい奢ってよね」

「まじか」


 一分で昼飯を奢る。

 逆に考えると、加奈と一緒にご飯を食べることができる。

 まあ、俺からしてみてはラッキーだ。


 加奈が学校へと向かうため、歩き出した。

 俺もまた加奈の後に続いて加奈の横を歩き出した。


 靴箱につき、ローファーから上靴へと替えるその時。


「よっ、平一」


 声をかけられた。


「おはよう、雄大」


 こいつの名前は門真雄大。

 イケメンでお調子者。

 それでいて中学からの俺の親友だ。


「それから、加奈ちゃんおはよう」

「おはよう、雄大くん」


 二人は俺にとってとても大切な人であり、宝物だ。


 偶然にも二人ともと同じクラスだけど、いつかは別々の道が来る。

 とても寂しいものだ。


 けどまあ、今はそんなこと考えないで楽しく過ごしていこう。



 放課後、家に帰り、掃除を始める。

 いつもの日課だ。


 うちはじいちゃんと二人暮らしをしていている。

 この家は榛原家代々から受け継がられてきた歴史ある屋敷だ。


 二人しか住人がいないから、寂しい場所だけど。


 箒を手に持ち、外掃除を開始した。


『◎△$♪×¥●&%#?!』


「ん?」


 ふと、声がした。

 謎の声だ。

 男とも女とも捉えられる奇妙なな声。


『◎△$♪×¥●&%#?!』


 なんだなんだ?

 幻聴……?


『◎△$♪×¥●&%#◎△$♪×¥●&%#!!!!』


 疲れてるのか?


 きっとそうだ。

 とっとと掃除を終えて寝ると……。


『ソウコ、セイケンヌケ』


 全身から冷たい汗が溢れ出た。


 ドクンドクン、と心臓の脈が聞こえる。


 どこからだ?

 どこから声がしやがる。


『ソウコ!!』


 なんだよ倉庫って。

 

 この時、昔、耳にタコができるほど言われてきたじいちゃんのことを思い出した。


 "絶対に倉庫を開けるでないぞ"


『ワガハイヲタスケテクレ、ソウコデセイケンヲヌイテクレ!!』


 ゴクリ、と唾を飲み込む。


 倉庫に一体何があるんだ。


 わからない。

 ただ、とんでもないことが待っている。

 それだけは理解できた。


 なんだか緊張と同時に好奇心が全身を襲っていく。


 ギュッと、両手に拳を作った。


 開けよう。


 じいちゃん、ごめん。

 倉庫を開けるよ。


 俺は倉庫に向かって歩き出し。


 厳重に、これでもかというほどに大袈裟な量の南京錠たちを見る。


 いやいや、入れないだろ。


 鍵がどこにあるかすら知らないのだから。


『ヨクキタナ、カギヲアケヨウ』


 ガチャッ。


「なっ!?」


 一瞬にして南京錠たちは解かれ、地面に落ちた。


 何が起きた?


 理解に脳が追いつかない。

 やはり、倉庫の中に何か不思議なことがある。


 余計に俺は倉庫の中に好奇心が湧いた。


「よし、開けるぞ」


 俺は倉庫のドアノブを掴み、回した。


 後にこの行動が全ての始まりとなることをこの時の俺は知らない。

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