葬儀屋はかく語りき。

静沢清司

プロローグ

第0話

 一陣の風が吹いた。

 夏の前に吹き込む、じめっとした生ぬるい風。

 けれど、こんな日にはよく合う。

 もはや爽快だ。

 聞こえる。木々の葉が擦れあう音。

 山の向こう、たった一度だけ鳴った雷の音。

 町を走る救急車のサイレンの音。

 研ぎ澄まされた聴覚が、それらをはっきりと聞いていた。


 ──ねえ、ちゃんと落ちるかな。


 乾いた笑いをこぼして、少女は言った。


 ──落ちるんじゃないよ。


 隣の少女がかぶりを振った。

 微笑んだときのまなじりがかわいらしい。


 ──空を見上げれば大丈夫。きっと、翔べるよ。


 ふたりの少女は互いを見つめながら、こっくりとうなずき合った。

 彼女のあいだには、赤いつながり。

 強い風が吹き込んでも、雷が落ちても、決して離れることはないという証そのものだ。


 ──翔べたら、いいな。


 ふたりのどちらかがそうつぶやいて、

 次に吹き込んだ風を合図に、

 落ちていった。

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