幸狂曲第5番〈Girasole〉

富士明美

0 Prelude

悪魔は、夢を見ていた。


それは平凡でありきたりな。なんてことない、普通の家族の夢。


子どもたちが駆け寄ってきて、悪魔にぱっと笑顔を向ける。

ねえねえ、聞いて聞いてーー。


今日は難しいテストで100点を取れた、とか。

公園で思い切り転んでしまったけど、痛いのを我慢した、とか。


悪魔はぼーっとする。なぜこの子たちは、自分をこんなにも慕っているのだろう。



やがて厨房から、最愛のひとの顔が覗き、美味しそうな焼きたてパンを食卓に並べてみせた。そのひとは、いかにも嬉しそうな様子で言う。

おかえりなさい。冷めないうちにみんなでいただきましょう、と。


ああ、と思う。これが、これこそが、自分の求めていた幸せだったのだ、と。


このままずっと夢見ていたい。

儚い幻想でも構わないから。


ーー。

誰かが、悪魔の名を呼んでいる。

無視しようとしても、その声がそれを許さない。だんだん声がうるさくなっていく。


・・・・・・せっかく気持ちよく眠っていたのに。本当に配慮に欠ける。


悪魔は、自分を夢から起こそうとする不届き者を見逃すまいと、眩しそうに目を開ける。

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