腐男子がカクヨムでBLを書き始める話
千織
第1話 好みの話を探すのが大変だから、自分で書くことにした
武田源次郎。
昭和生まれでも、オーバー70歳を思わせる名前だが、俺は28歳だ。
「ゲンちゃんは、ゴールデンウィークどこか行くの?」
職場のマダムから聞かれた。
「何の予定も無いですね。どこも混んでるし」
若い時は、飲み会やら旅行やら活動的だったが、このブラック会社に入ってからは、仕事してネットサーフィンやって寝るだけの毎日。
すっかり遊び方を忘れてしまった。
友人たちも結婚していて、子どもが産まれているとなると気軽に誘えない。
会えたとしても、共通の話題が無い。
子どもの話は正直つまらないし、あちらも彼女すらいない俺に家族の話をするのは気が引けるようだ。
こちらはこちらで、せっかくの幸せ家族モードにブラック会社の愚痴を聞かせるわけにはいかない。
彼女、欲しくないの?
と、言われると、昔は話を合わせて「誰か紹介してよー」なんて言っていたが、実際、”彼女”にはあまり興味がなく、今となっては「ブラック会社で時間が無くて、恋愛する暇が無い」と会社のせいにしている。
そうすると、こう言われる。
「あんまり呑気にしてると、タイミング逃すよ」
わかってる。
わかってるよ。
仕事と恋愛、どっちが優先?
うん、デキる奴は、どっちもちゃんとやってたことは知ってる。
別に、恋愛をないがしろにしてるわけじゃないんだ。
関心が薄くて、どうしたらいいかわかんないんだよ。
会社の30後半の先輩は、仕事もできるし、優しいし、イケメンだ。
でも彼女がいない。
男の世界では、後輩なら可愛がられ、先輩なら慕われる人気の人なのだ。
だが、”彼女”となると、意外といない。
人の振り見て我が振り直せ……
先輩を見ていると、恋愛や結婚はスペックじゃない、とわかった。
が、もう遅かった。
本来磨くべきところの磨き方がわからず、他の人が当たり前に楽しく笑い合ってるようなことが出来なくなっていた。
♢♢♢
インドアなりに趣味があるかと言えば、ない。
本を読むのも疲れる。
テレビを見るのも疲れる。
スマホゲームも飽きる。
そうなると、人と話す話題がなくて、会話に入るのも難しくなってくる。
ただ、唯一、好きなものがあった。
それは、ボーイズラブを読むことだ。
姉二人が腐女子で、家にはたくさんのボーイズラブ漫画があった。
一応段ボールに隠されていて、親の目につかないようになっていた。
なんとなく、その”見てはいけない感”に惹かれて見てしまったのだ。
別に、最初からすごくハマったわけではない。
そのジャンルには抵抗は無かったという程度だった。
それでもなんだかんだで読み続けていた。
ある日、姉たちの会話から、高校生の俺と、俺の親友でカップリングされていた時は驚いた。
三次元も腐女子の領域とは。
しかも家族で。
腹が立つほどではないし、だからといって親友を意識してしまうようなBL展開はなかった。
腐男子というほどハマらず、ゲイでもない。
自分は一体何に欲情するのか、それすらイマイチ分からなかった。
そんな環境だったが、それはせいぜい高校生くらいまでで、大学以降はとんとボーイズラブに触れることはなかった。
再燃したのは最近だ。
無料で読める漫画が増え、さらに素人が書くネット小説に触れるようになり、適当に読んでいるうちに広告が出てくるようになったのだ。
しばらく見ないうちに、どの漫画も絵のレベルが上がっていて驚きだ。
可愛かったり、かっこよかったり、絡みのシーンもこちらが心配なくらいちゃんと描いてある。
すごい時代になったもんだ……。
そう思っているうちに、すっかりネットの漫画や小説にハマってしまった。
♢♢♢
だが、ここで問題が出てきた。
こんなに作品があるのに、好みのものが少ないのだ。
単なるエロは嫌だし、だからといっていつまでも絡みが始まらないのもだるい。
カップルが成立すると、その先に興味が失われる。
カップルが成立してから、また不安定になるのは嫌だ。
あんまり暗いのは嫌だ。
そんなスパダリは流石にいないだろう。
などなど、自分が偏食だということがわかり、せいぜい1巻を読んで終わりになってしまうのだ。
そしてまたネットの海に潜る……
どれもすごいクオリティだとは思うが、バッチリ好みかと言われると、なかなか無い。
彼女のいない俺にとって、唯一性欲を感じられる場だというのに、逆にイラ立ってしまう。
そんなとき、小説投稿サイトのカクヨムに出会った。
他の投稿サイトだと、エロがキツすぎて読みづらかったが、カクヨムはR15だったので安心だ。
R15がちょうどいい28歳もどうかと思うが。
早速見ていくと、やはり、性的描写ばかりでない、人間関係全体を書いている作品が多くて好感がもてた。
だが、好みのものを探す苦労は同じだった。
しかもカクヨム内でのBL比重は小さい。
どうやら、カクヨムは男性がやや多いらしく、かつ年齢層が大人なので、BLキャッキャ層自体が少ないのだ。
閲覧するサイトを変えれば済むのだが……。
が……
なんとなく、カクヨムの雰囲気が好きだった。
普通の人が、これだけたくさん物を書いていることに驚いた。
プロになる予定で無くても、良い作品を生み出そうと腕を磨こうとしている人が多い。
BLではなかったが、すごくいい話にも出会えた。
小説を書いたら、楽しいんだろうか……
趣味が欲しかった俺の頭に、そんな言葉が響いた。
好みの作品が無いなら、自分で作ればいい……
そう思った俺は、腐男子作品を書こうと思いついた。
徹底的に自分に都合の良いBLを書くのだ。
誰に見せるわけでもない。
自分が楽しむための作品だ。
もし一人でも読んでくれる人がいたら、奇跡だろう。
そんな気軽な気持ちだった。
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