終わりは始まり

ゆうき

第1話

この季節は昼が長い。

高架の高速道路を走るリムジンバスの窓から夕景を見ていた。

バスはもう15分もすれば空港に着くはずだ。

車内では不思議と心が落ち着いていた。

夕陽が綺麗だったせいかもしれない。


空港に着くと待ち合わせたエントランスに君がいた。

今までと変わらない微笑みで僕を出迎えてくれる。

でも、それに微笑み返すことはもうできない。


言おうと決心していた言葉を告げる。

「夢は終わったよ」

彼女に聞こえるか聞こえないかくらいの呟き。

静かに言葉を放ったのは最後の優しさか、卑怯さ故か、どちらでももうよかった。

とにかくここで終わりなんだ。


彼女は一歩前に出ると僕の拳を包んで握り締めた。

貼りついたような彼女の微笑みの代わりに手に震えが伝わる。

「わたしたち、まだ、やり直せる」

そう言おうとした彼女の言葉を目を閉じ首を横に振って封じた。


どれほどの時間がそのまま過ぎたのかわからない。

お互いの距離はもう埋まらない。

失われた時間がもし戻ってくるのならば、それを二人で丁寧に紡ぎなおせたら、こんな夕暮れにはならなかっただろう。

終わりが来るときにどちらか一方だけが全面的に悪い、なんてことは少ない。

それぞれに罪を重ねてきた、その結果が今日だ。

重ねてきた日々は贖罪されなければならないわけでもない。

贖罪できないという方が正しいのだろう。

ずっと、ずっと、消えない想いを抱きながらこれからを生きることがせめてもの贖罪なのかもしれない。

願わくば彼女の分は僕が背負おう、そんな気障なことが叶うわけもなく、無言の時間が過ぎていく。

そう、さっきも彼女は期せずして嘘をついてしまっているじゃないか。

やり直せるはずがないことはクレバーな彼女の方がよくわかっているはずなんだ。


保安検査場へと促すアナウンスが僕らの心の静寂を破った。

「行くね」

彼女の手を離すと僕は振り返らず歩き始めた。


機内に入り窓際の席に座り外を見る。

夜の帳が降りた空港の光が美しい。

あのターミナルビルに彼女はまだいるのだろうか。

既に空港駅から帰宅し始めていて欲しいな、そう思う。


身体をシートに預けて目を閉じると先ほどの彼女の微笑みが甦る。

この先、何度、この表情を思い返して生きていくのだろう。


動き出した飛行機は滑走路へ向かっている。

もう、これで、この地に来ることもないだろう。

見慣れた風景を惜しむ気持ちにもならず、ぼんやりと眺めている。

心が止まっている。どうすることもできない。

そんな僕の心をあざ笑うように飛行機は滑走路を暴力的な加速で走り始めた。

言葉にならない「サヨナラ」を心の中で呟いて、僕は眠りに落ちた。





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