7.5日目のきみに会いたい

もちっぱち

第1話 厭忌

その日は雨が降っていた。


土砂降りの雨だった。

屋根からたまったバケツに

したたり落ちる音が響いていた。


今日は月曜日。

行きたくない。

布団から出たくない。

眠いわけじゃない。

外に出たくないわけじゃない。


学校に行きたくないだけだ。


いじめられているわけじゃない。


友達がいないわけじゃない。


とにかく月曜日という日が嫌いなんだ。


日曜日によく見る海鮮系の名前で家族構成されている

アニメを見ると明日は月曜日だと思い出してまう。


燃えるゴミの日でもある。

いつも母から、

学校行く前に捨ててと頼まれることも多い。


芸人さんが横一列に並んで手をあげて

お題に応えて面白かったら座布団をもらえる

あの番組も好きじゃない。


どうして、毎週日曜日にやるんだと嘆く。

面白い話されたら余計月曜日が嫌になる。


スマホのライン通知が何度も鳴る。

同じクラスの快翔かいとからの連絡だ。


いつも月曜日登校するのが嫌だと

アピールするためか必ず来いと言う

スタンプが毎週送ってくる。

ありがたいことなのか。

それでも学校に行きたくない。


澄矢とおや!!時間だよ。

 起きなさい!!」


母の祐有子ゆうこ

1階にあるリビングから叫ぶ。

その声に澄矢は反応しなかった。

だんだん階段を駆け上ってくる母の足音が

迫ってくる。

澄矢は起こされて、引きずり連れて

行かれるんだろうと考えた。

どうしても行きたくないと思った澄矢は

咄嗟に窓を開けて、ベランダに出た。

ベランダの縁に手をかけた瞬間、頭から体が

落ちそうになる。


(まじか。俺、こんなところで死ぬのか。)


予想もしない場所で頭から

庭のコンクリートに

落ちていくんだと予測して、

目を思いっきりつぶった。


祐有子の悲鳴が遠くでエコーがかかったように

聞こえてきた。



目を開けるのが怖かった。




◇◇◇




近所の芝生が広がった公園が目の前にあった。


これは夢を見ているのだろうか。

パジャマ姿ではない自分の体。

ジーンズとTシャツ姿だ。


だだ広い芝生の向こうには大きな川が流れていた。


吸い寄せられるように燈矢は、川の方へ歩いて行く。

目的はわからない。

ただただ、そこに行きたくなった。

雑木林を抜けたところにが海のような砂浜があった。


幼少期の頃、よく平らな石を見つけて

水切りをしていたのを思い出す。


川の水際には、白いワンピースを着た同い年くらいの

女の子がしゃがんで水面をのぞいていた。


初対面の人に話しかけるという行為は

学校でもやったことがない。

人見知りが激しい澄矢は、話しかけてもらうのを

待っている方だった。


「あの…。」


なぜか、その子に無意識に話したくなった。


「…?」


何も言わずにこちらに微笑んだ。


「そこ、危ないから。」


「ん?」


「だから、そこ。」


「あ、わわわわ!」


 しゃがんでいた体を立ちあがろうとした瞬間、

 女の子は体全部川の中に入ってしまった。

 澄矢は、急いで、女の子の下に滑り込んで

 服が濡れないようにした。

 うつ伏せの状態になったため、

 鼻の頭に擦り傷を負った。


「あ、あ、ごめんなさい。

 痛かったでしょう。」


「あ、いや、大丈夫。

 俺、石頭だから!!」


 遠くに置いていた小さなバックの中から

 絆創膏を取り出して、ぺたんと澄矢の鼻に貼った。


「あ、ありがとう。」


 石だらけの浅瀬で、ゴツゴツしていた。

 澄矢の着ていた服はびしょ濡れになっていた。


「うん、大丈夫。気にしないで。」


「あたし、水城雫羽みずしろしずは

 えっと、君は?」


「…俺は小早川澄矢こばやかわとうや

 高1。」


「澄矢くんか。高校生なんだ。

 そっかぁ、いいなあ。」


「え?水城さんは高校生じゃないの?」



「うん、ちょっとね。」


言いにくそうにこたえた。

隣にしゃがんで、平らな石を探した。

慣れた手つきで水切りをしてみた。


まさかの石は5回のジャンプをした。

雫羽は拍手をして喜んだ。


「すごい!!」


「だろ?」


 自慢気に返事した。

 さわやかな風がふき、白いワンピースを揺らした。


 それが雫羽との出会いだった。



 いつの間にか、モヤがかかって、

 景色が一変した。


 目を開けると、

 澄矢の家の庭で土砂降りの中、

 パジャマ姿で仰向けのまま寝転んでいた。


 母の祐有子にゆさぶって、

 声をかけられなければ

 ずっと目をつぶっていたようだ。


 夢だったのだろうか。

 実際の場所に瞬間移動したのか。

 澄矢は忘れられない不思議な時間を

 過ごした。


 


 



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