第10話 神装飾『ギフト』


 今までアルテミス様とワイワイと話をしてきたが、急にこれからの世界という現実を突きつけられ言葉も出なくなってしまった。


 このままこの世界でのんびり過ごしているとあんな未来が訪れてしまう。脳内に家族やライラさんの無惨な姿が浮かんでしまう。


 …一体どうすれば


 そう思った矢先、アルテミス様が座り込み落ち込む私に、目線を合わせるようにしゃがみ、声をかけてきた。


「そう落ち込まないで、イヴ…今見せた未来はこのまま行けばの未来…だけどあんな未来を変える希望もあるんだ。そ•れ•は〜…」


 アルテミス様はそう言うとニヤッとした目で私のことを見てきた。その視線はあたかも『君だよ!」とばかりの視線をしている。


「…もしかして…わたし……ですか?」


 答えると、アルテミス様はニコッと笑顔で返してきた。


「ピンポ〜ン!大正解!!、、、イヴ…君はこの世界のたった1人私が力を与えられる人類なんだ。ゼノンの力に対抗するには、そんじょそこらの力じゃダメなの。本来、神が直接世界に干渉することはないのだけれど、私の見てる世界で好き勝手されるのは気に食わないからね。だから私と全世界で1番相性のいい君をこの世界に呼び、私の力を託すことにしたんだ。この世界を救ってほしいってね」


「そんな勝手な!!、、、それに…私に…そんなことができるのですか?」


「…ふふん!…そりゃできるよ……イヴはこの私と相性バッチリなんだし、私の力をあげるんだからできないはずはない!でもそれにはまず、私の修行を受けてもらうことになるんだ…私ね。4大陸に1箇所ずつこの世界の繁栄のために力を貸しているの。でも今は緊急事態…イヴにはその力を1度1つに集めてもらって、この世界の中心にある『アルテミス神殿』まで来てほしいの。そこで私の修行を5年受け、打倒ゼノンを目指してほしいんだ」


「…5年も…ですか?」


「そう…5年。イヴの今の体では私の力を受けきれないの。さっきまで私の弓を持ててたでしょ。あれはあなたが成長して私と似た背格好になって私との相性が抜群状態だから持てたんだよ。だからこれからの計画としてはね。今から1年以内で私の貸している4つの力を集めてもらって、神殿で体が成長するまでの5年間の修行…そして合計約5年半くらいでイヴを神の認めた子『神子イヴ』へと成長させる。ゼノンの侵攻は6年後…きっとギリギリ間に合うはずだからね」


 アルテミス様はそう言うとタオル一枚の私の前で指をパチン!と鳴らした。


 するとタオル一枚だった私の格好は一瞬で緑基調のドレス風の戦闘服に変わり、背中には子供サイズの小さな弓と片手剣が装備されていた。私が未来の世界に行っている間に作ってくれていたみたいだ。


「それは神装飾ギフト。私がイヴのために直々に作った特別製の服に武器だよ。その神装飾はイヴと一心同体…一緒に成長してくし、すっぽんぽんだったり、別の服を着ててもいざというときには神装飾に一瞬で変わってくれる優れものだよ」


 …すっぽんぽん


 アルテミス様の発言に私は反射的に胸を隠し、ジトっと睨んだ。


「大丈夫!今は何もしな〜いよ。あ、そうだ最後に…」


 アルテミス様は「私とキスでもする気か!」というような距離感まで詰めてきた。


「ア、ア、アルテミスさま!?、、、」


「イヴ…ちょっと右目だけ閉じて〜。は〜いウインクぅ〜」


 迫ってくるアルテミス様に言われるがまま、私は右目を閉じ、ぎこちないながらもアルテミス様に向けウインクをした。


 すると…


 …あれ、何か変な感覚がする


 何かはわからなかったが何か私の中に流れてくる感覚がした。その何かは不思議と嫌な感覚はなく、なぜだか少しばかり強くなった感覚を覚える。


「それは私の力の一角だよ。ゼノンに対抗するための光の力…さっきも言った4箇所のうちの1つ。それはこの祠でね。今、それをイヴに渡したんだ」


 アルテミス様はそう言うと、持っていた手鏡を私に見せてきた。私は見せられた手鏡を覗くと、ウインクで開いていた左目。私の左目は青い眼光から赤い色へと変わり、その左の赤い目にはアルテミス様の紋章がうっすら記されていた。


 …すごい


 そう思った矢先だった。


 …パァァァ


 急に手鏡を見せていたアルテミス様の体が粒子と共に光り出した。


「ごめんね…イヴ…そろそろ時間みたいだ…こうやって話せるのもここに置いてあった私の力のおかげ。それを今、イヴに渡したからもうここには力は残ってないんだ。…イヴ?…君にはこれから迷惑をかけるね…やってくれるなんて聞いてもないのに私の勝手な独断でこの世界に転生させちゃってごめんね…でもきっと勝ち取った未来は今まで以上に楽しい世界になるはずだから…」


 光の中、アルテミス様はずっと笑っていた。


 アルテミス様はこんな変態さんだが、私に未来の世界を見せてくれ、世界のために動こうとしてくれている。私も9年間この世界で生きてきたが、この村の人たちが大好きだ。


 だから私は、そんな大好きなみんなを守りたい。


 私はアルテミス様に答えた。


「いえ…私も9年間ではありますが、楽しく生活させてもらってます。そんな大切なみんな…ううん、この世界…アルテミス様が見ているこの世界を全力で守りたいと思います」


「そっか…ありがとう、イヴ…それじゃあしばらくの間お別れだけど、私の力を集めてくるその日を楽しみにしているよ…またね…」


 アルテミス様は別れの言葉を告げると、粒子と共に消え、同時に私は元の祠へと帰ってきた。


 …さて、まずは…


 私は祠から出ると、事の経緯を話すためまず大婆様の所へと戻ることにした。

 

 


 

 

 

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