第6話 予言の子

「それでは話を始めようかのぉ」


 私が羊羹を食べ終えると大婆様は真剣な面持ちで話を始めた。


「まずじゃが、イヴよ、ワシがこの世界を守ってくださっている女神アルテミス様の予言を聞けるということは知っておろう?」


「はい、もちろんです。お母様からアルテミス様の予言のおかげでこの世界は救われていると教えられています」


「うむ、そうじゃ。古くからアルテミス様の予言があるからこそ、この世界は今の今まで平和を保ってきておるのじゃ。そして…」


 大婆様は懐から一冊の書物を取り出し、私の前にポンと出した。


「これは…なんですか?」


「これはのぉ、ワシがアルテミス様の予言を聞き、書き記しているいわば予言帳じゃ。ここにはワシが物心ついた時からアルテミス様から頂いた予言を書き記しておる」


 大婆様は私に予言が書き記された予言帳を手渡しで渡してきた。


 私はそのまま大婆様から渡された予言帳を受け取ると「失礼します」とパラパラと予言帳をめくった。


 するとそこには大婆様の言う通り、日付と何がこの世界に起こってきたかが事細かに書き記されていた。


 …すごい、こんなことまで予言できるんだ。


 予言帳を見ていくとちょっと楽しい気持ちになってしまい、私は次々とページを一枚一枚めくっていった。


※ ※ ※

 

 しばらく予言帳のページをペラペラとめくっていくと、私はとあるページを見つけ手が止まった。そこには。



 ○○××年 ○月×日 イヴ・ローレンヴェルグ 誕生



 …ん?これって…

 

 見間違いじゃない。何度目を擦っても変わらない…私の生まれた日がこの予言帳に記されている。予言帳をパラパラとめくってきたが、今まで個人の名前というのは誰一人として載ってはいない。


 それだけではない。なぜかわからないが私の誕生のページから私の事しかこの予言帳には書かれなくなっていた。そして最後のページにはこう記されている。



 ○○××年 ○月×日 イヴ・ローレンヴェルグ 9歳 ホルンの村を旅立つ



 なんで旅立っちゃってるの!?全く意味がわからなかった。家族と順風満帆に過ごせて私が、なぜこの村を旅立たなければいけないのか…皆目検討もつかない。それにこの日付…予言帳が示す私が旅立つであろう日にちはなんと明日ということになっている。


「大婆様!!、、、一体これは!?、、」


 私は思わず大婆様の方へ身を乗り出してしまった。いきなり旅立つなんて予言を言われても正直言って困ってしまう。それになぜ予言帳の最後の方は私のことしか載っていない。それが気になった。


 だが、私の言葉に大婆様は下を向き俯いてしまった。


「すまぬ。ワシにも詳しいことはわからんのじゃ。じゃがおぬしの生まれる前からこの予言は始まり、それからはほぼおぬしのことしか書かれてはおらんのじゃ。そして旅立つという予言を聞いた後から全くアルテミス様の予言が聞けなくなってしまったのじゃ」


「………」


 私はページをさらにめくると予言帳の言葉に怖さを覚えた。ここに記してある日付、出来事。思い返していくと、書かれていること全てを私は行ってきた気がした。


「おぬしのことなのじゃが、生まれる前からアレンとアイナには伝えておった。おぬしたちの子供はアルテミス様の予言の子であり、9つの年に旅に出ると。じゃが、それでも2人は自分たちの子供がほしいと言いおぬしのことを産んだのじゃ。2人もこの事は覚悟していたじゃろう」


 大婆様の話を聞きなぜお母様が寂しそうな顔で見送ってくれたのかがわかった気がした。お母様もお父様も私の旅立ちの日が近いことを知っていたのだ。


 ただ。


「なぜ今になって私の予言を教えてくれたのですか」


 わざわざ予言の話をしなければ私は旅立つなんてこと一切考えなかった。


「それはのぉ…」


 そう言うと大婆様は私の持っている予言帳の一文を指差した。


 そこには。



 ○○××年 ○月×日 イヴ•ローレンヴェルグ


 ホルンの村長に導かれ女神の祠を訪れる。



 私が旅立つという一文の前にそう書いてあった。


「この一文…この一文を絶対におぬしに伝えなければならない。そう何かがワシに告げ、体を動かすのじゃ」


 …そんな、オカルトみたいな話が…


 そう思った時だ。私の中に頭痛のような痛みが急に襲った。



     ーー女神の祠を訪れなさいーー



 誰だか知らないがそう告げてるのはわかった。これが大婆様が感じたものかどうかはわからないが、どうやら私はその祠に行かなければならない。そんな使命感が私の中に生まれた。それに誰だか知らないが私の事を呼んでいる。


「大婆様…」


「行くのかい?」


 大婆様は察してくれたのか、優しい笑みを浮かべた。


「はい、すいません大婆様。私は今すぐ予言書に書かれている女神の祠に行かなければならないみたいです」


「そうかい…気をつけて行っておいで」


 私は大婆様の話に「はい」と答え、大婆様の家を出た。女神の祠の場所は頭痛と共に伝わってきた。


 私は1人女神の祠へと向かった。

 

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