第4話 両親


「は〜い。お掃除終了!お疲れ様でした」


 お母様の言葉にほっと胸を撫で下ろした。いつもこれが終わった後はどっと疲れが出てくる。お母様曰く、ある一定の年齢までいけばくすぐったくなくなってくるらしい。


 子どものころはいろいろと敏感なところもあるため過剰に反応してしまう子もいるようだ。私もその1人のようだ。


 ただ獣人にとって五感は、死活問題になりうるため毎日こまめにチェックしないとダメとお母様から口酸っぱく言われてきた。こればかりは我慢するしかない。


 お母様は私にかけていた縛る魔法を解いてくれて、料理を作ってくれているお父様の方へと向かうため部屋のドアを開けた。


「あぁ〜いい匂い。イヴ?もうすぐご飯ができるんじゃないかしら?一緒にお父さんのところにへ向かいましょ」


 そういうとお母様はこちらに優しい表情を向けた。私もその表情に答えるように、バッと立つとお母様と一緒にお父様のいる食卓の方へと向かった。


 ※ ※ ※


 食卓に向かうと、肉とスパイスの香ばしい匂いが部屋中に漂っていた。ネコ科好物の肉ということもあり、匂いだけでよだれが出てきてしまいそうだ。


「お?イヴ。母さんの耳掃除は終わったのか?もうちょっとで準備が終わるからな。少し席について待っててくれ」


 そう言われた私は、いつもの定位置の席へと座ることにした。続くようにお母様も私の隣に座った。


 お父様に待っててくれとは言われたものの、もう何点かテーブルには料理が並んでいる。つまみ食いをしたいところではあるのだが…


 隣にはお母様…昔、つまみ食いをして、こっぴどく怒られたことがあり、その時はお肉禁止を言い渡されてしまった苦い経験がある。ネコ科にとって肉禁止というのは苦痛でしかない。それからはどんなにお腹が減っていても、合図があるまでは食べないように心掛けている。


 ただ。


 …暇だなぁ


 この世界には携帯があるわけでも、テレビがあるわけでもない。ただ人と話したり、ぼーっとしてるしか手がないというわけだ。


 …ふむ


 そうだ。ここで私のこの世界での両親についての紹介をしたいと思う。


 まずはお父様。


『アレン•ローレンヴェルグ』


 種族は人。赤毛でガタイがすごく良く、180をゆうに超える大男である。現役バリバリの時は、この世界の中心にある王都でも一騎当千の力を持っていたようで、剣一本で並大抵の大物も討伐できてしまうという強者だったそうだ。私が生まれてからは現役を退いてしまったようで、たまに私に剣術を教えてくれたりする。ちなみにローレンヴェルグ家の料理も担当してくれている。


 次にお母様。


『アイナ•ローレンヴェルグ』


 種族は獣人。モデル レオ。私と同じ長い翠玉色の髪をしていて、身長も160後半くらいはある。私が言うのもなんだが、モデルさんのような体型だ。私の狩りの師匠でもあり、弓の修行を一から十まで教えてくれたり、命を奪うということもしっかりと私に叩き込んでくれている人生の師匠でもある。普段は優しいけど怒るととてつもなく怖い。


 お母様に聞いた話だが、2人はドラゴン討伐で一緒になったようでお父様の一目惚れだったそうだ。本来お父様くらい強い人間であれば相手にはいろんな人がいただろうが、お母様を見た時からこの人を守りたいという思いで王都を出てこの辺境の地まで来たらしい。


 もちろん今でも仲は良く、夜な夜な「あん、あん、」聞こえてくる喘ぎ声は本人たちには言わないようにしている。


 いずれ私には兄弟ができるんだろう。これだけはなんとなくだがわかる。


 そんな両親の紹介をしていると、テーブルの上に料理が全て並べられた。日も沈んで、晩ご飯には絶好の時間だろう。


 私はフォークを手にトントンとテーブルを叩き、まだかまだかと待った。だがそんな姿を見かねてかお母様がこちらを向き、口を開く。


「イヴ。はしたないわよ。フォークトントンをやめなさい。それに尻尾、あっちこっちにフリフリするんじゃないの」


 お母様の言葉にビクッとしてしまい、「ごめんなさい」と誤った。それを見てお父様も笑っていた。


「ははははっ!いいじゃないか今日ぐらい。イヴの手柄なんだろう。少しくらいやんちゃなくらいが子供らしくていいじゃないか」


 …お父様ぁ


 まるで聖者のようなお言葉。お父様は本当に私に優しくしてくれる。私のスーパーヒーローだ。


 だったのだが…


「お父さんもイヴを甘やかさないで。イヴはこれから立派なこの村の狩人になるの。それに王都最強のあなたの娘が、ちゃらんぽらんでいいはずがないでしょ!?」


「…………」


 お父様、、、意気消沈。料理を運ぶ時の肩にポンとされる仕草で「イヴ、ごめんよ」というのが伝わってくる。


 その仕草に心の中で「はぁ」とため息が生まれてしまった。


 だが心配することは何もない。喧嘩のように見えてしまうかもしれないが、この両親はすごく仲がいい。すぐにケロッとして食事タイムが始まるのがこのローレンヴェルグ家のいいところでもある。


 きっとこのあと、ごめんなさいの夜の営みが開催されるのだろう。私は耳栓をして今日は寝ようと心の中で決めた。

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