第2話 早くも9年後


 そんな赤ちゃん生活から9年がたった…


「イヴ。息を殺してちゃんと狙うのよ…」


 耳元でお母様の声が聞こえてくる。目の前には大きな『ビックブル』大きな牛の獣がのそのそと歩いている。私とお母様はビックブルの頭上。木の上から弓を引きビックブルを狙っていた。


 しばらく歩いているのを観察していると、ビックブルの弱点であるお尻部分が狙いやすいところまで来た。間違いなく絶好の位置だ。


「今よ!」


 お母様のかけ声と同時にビックブルに向かい2人同時に矢を放った。


 すると見事ビックブルの弱点に2人の矢は命中し、ビックブルはグロテスクな声を上げ最後は千鳥足のような仕草をしつつも、ゆったりと倒れていきその大きな体は力尽きていった。


「やったよ!!、、お母様!!」


「ふふっ、よくやったわねイヴ。あなたももう立派な狩人ね」


 ふとビックブルを倒した嬉しさに笑みがこぼれてしまったが、そんな姿を見て、お母様も私の頭を撫でてくれた。


 人に撫でられる。元々『人間』だったころには全く嬉しいとは思わなかった行為だが、今の姿だと妙に撫でられるのを嬉しく感じてしまう。それゆえか今はお母様に撫でてもらうために生きているまであるかもしれない。


 ただなんでこうなってしまったか。それは村に帰ってから説明しようと思う。


「ほら、イヴ。最後の仕事。ちゃんと教えたわよね」


 撫でながらではあったがお母様は私へと優しく声をかけてくれた。


 お母様の言葉に私も「はい」と答え、口に2本、指を入れると森の中に大きな指笛を鳴らした。


 最後の仕事。それは狩りが終わった後に合図として、指笛を鳴らすことだ。これによって待機していた仲間が駆けつけ、討伐した獲物を竜車で運んでくれる。これが私たちの一般的な狩りの流れだ。さすがに男だけでもきつい時があるのに女だけというのは無理がある。そのため狩りをする時は、待機組と討伐組に分かれて行うというのが、村のルールとして存在している。


 しばらくしていると、ズシンズシンとした地竜の足音とガタゴトとした車輪の音が近づいてきた。音に方に目を向けると、竜車の中から大柄な男性がこちらに向かって大きく手を振っているのが分かった。


 …お父様だ!


 本当はお父様とお母様で狩りをしているのだが、最近は私の教育ということでお父様がバックに回ってくれていることが多い。


「おと〜〜さまぁ〜〜!」


 竜車から手を振ってくるお父様に私も大きく手を振り返した。するとお父様も私に答えるように、ニコッと笑顔で大きく手を返してくれた。


「ほら、行くわよ」


「はい!」


 私はお母様が差し出してくれた手を取り、一緒にお父様が乗る竜車の方へと向かっていった。


※ ※ ※


 村へと戻ると私はすっかり体が汚れてしまっていたため、水浴びしてきなさいとお母様に言われ、村の近くの川まで来ていた。


 村にもお風呂というものは存在するのだが、水浴びをする者の方が多いらしく、よくお母様と川まで来ている。最初こそ抵抗はあったが、9年も生活していれば嫌でも慣れてくるというものだ。お母様曰く、これがこの村での生活というものらしい。


 余談ではあるが、ちゃんと男女別で浴びれる場所が決まっており、破った者には厳しい罰がある。今のところ罰を受けてる人間に会ったということはない。


「あぁ〜〜、、きもちいい〜」


 岩場の間から流れてくる湧水を体に当てながら心の声が漏れてしまう。


 そういえば、私の9年間まだ誰にも話せていなかったので今、話そうと思う。


 まず単刀直入に言うとここは異世界だ。


 それはさっきまでの話、狩りの話を聞けば「そんなの知ってるよー」と察すると思うかもしれないが、一応までに。


 ただ私がなんでこの世界のお呼ばれしているかは、9年もの間生きてきたが未だにわかっていない。


 そして今私の住んでいるこの村は『ホルン』ここはこの世界の中心から西に位置する『ロザリー大陸』そのさらに西にある山の中の小さな村で、そこでは狩りをしたり、家畜を育てたりといわば、元の世界でいう農業をこなしながら生計を立てている。そういう感じの村と言った方がわかりやすいかもしれない。


 そこの村の1つの家庭の1人娘として生まれたのが、この私『イヴ・ローレンヴェルグ』だ。


 自分でいうのもなんだが、容姿は元の世界の数倍以上はいいと思っている。


 腰まで伸びる翠玉色の髪色に、青い瞳。胸は……まぁ成長中ということで。お母様も結構なものをお持ちなので、まだ9歳だし発展途上ということで。


 それとこれは私も驚いたことだし、撫でられて喜ぶや人間だったころと言った話に繋がるものではあるが、この私なんと、人間ではないのだ。細かくいうと人ではあるが人ではない。早い話私は『獣人』と言われる人種なのだ。


 獣人と言えば耳に尻尾がお約束みたいなものだろうが、もちろん私にも付いている。私は獣人のお母様と人間のお父様の間に生まれているのだが、この世界ではハーフというものが存在しないらしく、個性のある種族の方をとって生まれてくるというのを聞かされた。

 

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