第17話

おっさん、本領を発揮する①

 ワイルダーと一度別れた洋一達は、一度ギルドに赴くことにした。


 冒険者というのは何につけても仕事を継続するのが重要と聞く。

 寝る場所と食べる場所は別に困ってなかったが、何につけても信用がない。


 今はまだ騎士団長の顔見知りということで通用してるが、間に貴族が入ってきたらあっという間にそれらは潰える。

 この国で騎士団という組織は貴族に頭が上がらないものなのだ。

 魔法使いの地位が高く評価されているから、力任せな騎士の立場は弱いとかなんとか。


「すいません、この依頼をお願いしたいのですが」


「はい、受け付けます。少しお待ちください」


「はい」


「お待たせしました。酒場のスタッフとしての依頼ですね。ギルドカードの提示をお願いします」


「はい」


 洋一とヨルダの二人分提示する。

 受付嬢は料理人兼テイマーと農家兼魔法使いというジョブを見て目を瞬かせる。


「あの、どうされました?」


「いえ、珍しい経歴だったので」


「この子がですか? それとも俺?」


「どちらもです。ですがGランクでしたら特に問題ありませんね。依頼は初めてですか? 期間内の仕事は依頼主からの裁量で報酬に色がつく場合があります。期間中の寝泊まりする場所はございますか?」


「そちらはアテがありますので」


「あらそうでしたか。新規冒険者向けのサービスプランもご用意してたんですが」


 そんなサービスがあるんだ。知ってたか? とヨルダに問うも、首を横に振られた。そりゃ知るわけないかと納得する。冒険者じゃなく騎士団に入隊してるのだ。

 こっちの事情に詳しいわけないもんな。


「すいません、先立つものも少ないので、そちらのサービスはある程度蓄えてからにしたいと思います」


「だね。お金を稼ぐために依頼受けるのに、先に使っちゃったら意味ないもん」


「………」


 受付嬢が何かを見定めるように洋一達を見つめた。


「あの、まだ何か?」


「ああ。いえ。そちらのお嬢様の口調が気になったものですから」


「え、オレ? ああ、この髪を気にしてんのか? とっくに廃嫡済みだから気にしなくていいよ。生まれは確かにそうだけどさ」


「失礼いたしました。貴族の方に何かご迷惑をおかけしようものなら、私だけでは責任を取れませんので。お連れの方もどこか信頼に欠けたので、不躾ながらサービスと申し上げましたが……」


「実はそんなサービスもとよりなかったと?」


「用意するのが平民の仕事、と過去に言われて罷り通ったのが現状でございますね。何かにつけて我々への損害は大きなものです」


「まぁ、貴族って特にわがままなやつ多いしな」


 オレは違うよ? とヨルダ。

 洋一は知ってるよ、と得意げな弟子の頭をわしゃわしゃした。

 そんな二人を見比べて、改めて不思議な関係だなと受付嬢が目を見開く。

 そんなことをしたらぶっ殺されても仕方ないのだ。

 だが貴族の少女はくすぐったそうにしながらも受け入れている。

 受付嬢にとっては衝撃的な映像だった。


「キュウン」


「おっと、出てきちゃダメだぞベア吉」


 洋一の肩掛けバッグの中からくぐもった声。

 そういえばテイマーだったなと受付嬢は思い出し、外に出しても大丈夫ですよと声掛けした。


 ならばと少し失礼しながらカバンの中から取り出した。

 一抱えぐらいの子グマがひょっこり顔を覗かせる。

 つぶらな瞳が愛らしいと思った。

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