第11話

藤本要の魔法大作戦①

「お前には何も期待しておらん。時が来るまで大人しくしているように」


 時、というのが成人を指す16歳なのだろうなと薄々感じる。

 父親から呼び出されたと思ったら、そんな釘を刺すようなことを言われてげんなり。


 食事はヒルダの強い希望で朝食に同席させてもらえるようになっていた。

 それでも食事のグレードは変わらない。


 硬いパンに胡椒の効きすぎたスープ。冷めているので皿に手を置いて温めてから口に運ぶ。ああ、美味しい。虫は熱で殺菌してこそだ。

 硬いパンは細長くスライスして焼いた。


 胡椒が強めにかかったスープにinすれば、クルトンに早変わりである。


 なるべく音を立てないように食べていたのだが、なぜかメイドたちや家族がヨウの方を注視していた。


「どうかなさいました?」


「今、何をした?」


「スープが冷めていたので温めました。パンは噛むのに厳しいから熱を入れてこんがり焼き上げました。おかげさまで美味しくいただけましたわ」


「【蓄積】の加護にそんな使い方ができるとは聞いておらんぞ?」


「言ったでしょう、お姉さまは外で努力なさってきたと。以前までのお姉様とは別人なのですわ」


 そりゃ、別人だからな。

 内心でぼやく。

 ヨウよりも、なぜか自分のことのように絶賛する妹が気にかかる。

 改心どころか、憑き物が落ちたかのような豹変具合であるからだ。


「ヒルダ、いつからその女と仲良くなったのだ?」


 実の娘にその女呼ばわりである。

 いや、別人だし一切血の繋がりはないんだけどさ。


「お姉様が帰ってきてからすぐですわよ。お姉様ったら、屋敷全体に解除魔法を仕掛けましたの。お父様はご存知なさらなかったですか?」


「屋敷全土に?」


 意味がわからないという顔をするワルイオス。


「そういえば、魔法化粧水の乗りが悪い時期がありましたね。それと関係があるのでしょうか?」


 化粧のノリが悪い時期があった。

 継母のギーボがワルイオスにそう訴えかける。

 化粧まで魔法なのかよ、と悪態をつくヨウの表情には一切言及がないのは、そんなことをしでかした張本人が我が家きっての落ちこぼれであると認めたくなかったからだろう。


「実際に見ないことには信用しようがないな。ヨルダ、見せてみよ」


「お腹が空くから嫌ですわ」


 ワルイオスの言葉に、要はあっけらかんと答える。

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