第8話
おっさん、旨みを引き出す仕事をする①
騎士団は意外と話のわかる相手だった。
洋一は手に入れたチリペッパーで何を作ろうかと拠点に戻る。
「師匠、おかえりー」
「ただいま、ヨルダ。いい子にしてたか?」
「うん、今朝植えたのも芽が出てたよ」
「え?」
洋一は理解できないとばかりに聞き返す。
今朝植えたのがもう芽が出てた?
聞き間違いかな? と思い何度聞いても同じ答え。
「そ、そうか」
「うん、きっと畑が良かったのかも。師匠が言った通りに寝心地が良かったんじゃないの?」
ベッドに見立てたのが良かったのか?
はたまた別の要因か。
何はともあれ、ヨルダのやる気が潰えないなら良かった。
「それよりも師匠、何か嬉しそうだね?」
「実はそこで騎士と出会して」
「えっ」
ヨルダは心配そうな顔で洋一を見た。
つい最近騎士に襲われたばかりである。
「安心しろ。ちょっと話を聞いただけだ。ヨルダを探してるとか、そう言った話は聞いてない」
肩に手を置いて、大丈夫だと安心させてやる。
「そうなんだ。それでお話って?」
「なんか、ヨクハエール?という薬草を探してるって聞かれたから、知らないと答えた」
「師匠でも知らないんだ?」
「俺が知ってる知識は料理だけだからなぁ。そのついでに、俺の干し肉を羨ましそうに見てきて……」
「あげたの?」
洋一がニッと笑う。
「誰があげるかよ。干し肉一つとっても俺の技術の集大成だ。ただの生肉ではあんな味にはならない」
「知ってる。あれは天国の味がするんだよなぁ」
「だから、物々交換だ」
そう言ってチリペッパー、唐辛子を差し出した。
それに納得のいかない顔。
ヨルダにとって、チリペッパーは辛いだけで、大して美味しくない香辛料であるようだった。
「師匠、騙されたんじゃない?」
「バカだなぁ、ヨルダはこいつのポテンシャルを理解してない」
「ポテンシャル?」
「ああ、こいつはただ辛いだけじゃない。肉の味を最高峰に高めるのにも一役買うんだ。見ていろよ?」
洋一はジェミニウルフの腹肉を角切りにしていく。
そこに森に生えてた分厚い葉っぱの表皮を剥いてから包み込む。
「これは何をしてるの?」
「最近見つけたんだが、これは俺の知ってる昆布と同じことができるっぽい」
「コンブ? ってのが何か知らないんだけど」
「良くスープに入れてる葉っぱだが、これを入れてると入れてないじゃ明確に味に差が出てくる秘密の隠し味だな。茹でてよし、肉に挟んでよし。そのまま食べても美味しいとまさに万能食。ただし、食い過ぎると髪の伸びが早くなる。ちょっとおかしな効能がある」
「ねぇ、師匠……」
ヨルダが神妙な顔になる。
「なんだ?」
「もしかして、これが薬草だったりしない?」
ヨルダが指をさす。
肉を挟んでる葉っぱ。
摂取しすぎると、髪が伸びやすくなる。
騎士団の探してる【ヨクハエール】の特徴と一緒ではないか、と。
「まさかぁ」
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