第6話

おっさん、仕事へのこだわりを見せる①

「師匠、オレ【土塊】の新しい法則見つけちゃった」


「うん?」


 それはヨルダからの突然の申し出から始まった。

 洋一は話だけでも聞こうと作業の手を止め、弟子の言葉を待つを。


 内訳はこうだ。

 【土塊】とは、魔法によってどこかから土を直接手元に持ってくる転送系の技術ではないかと考えたヨルダ。


 かつて洋一と共に暮らした魔法使いのヨッちゃんが言っていた。

 魔法とはイメージである。

 それをヨルダにも教えたことで新しい見解を得たのがこちらだ。


 ヨルダは手をかざした場所に、イメージを練り込んだ新しい魔法【土塊Ⅱ】を使用。


 するとその場にあった土が捲れ上がって、ヨルダの手元に収まった。

 術を解けば土はドサドサとその場に落ちた。

 まるで掘り起こした形だ。


 得意気に胸を張る弟子に、洋一はなんて答えていいものかと思考を張り巡らせる。そこでその技術を活かせる仕事を紹介する。

 土いじりといえば畑だ。


「畑でも作るか?」


 そう、それ! と言わんばかりにヨルダは洋一の答えを待っていた。


 【土塊Ⅱ】で土を掘り起こす。

 水は【水球】でいいだろう。

 ただ、問題は何を育てるかである。


「オレ、いつも師匠が使ってるスパイスがいいと思うんだ」


「この果実か?」


 服を作る時に見つけた果実だ。

 口の中でピリリと痺れを起こすが、別に毒ではなく酸味と解釈した洋一はそれでシンプルな味わいのジェミニウルフの肉の味を引き締めている。


 ちょっとした調味料がわりだ。

 肉はただ焼くだけでも美味いが、毎日同じ味だと飽きが来るのも早いため、こうした味変を加えているのだ。


「確かに最近見かけなくなったものなぁ」


「でしょー? オレ一人で探しに行くのも骨だし」


 森の中はジェミニウルフの生息地だ。

 ヨルダが単独で行動するのはもっての外。

 乱暴者の騎士団もうろついている。

 出かける時はいつも洋一と一緒だった。


 でも、自分の能力でそれを増やせるのなら?

 洋一に他のことをしてもらえる。


 滝壺に魚を捕りに行ったり、ジェミニウルフを捕獲してきたりでもいい。

 鈍臭いヨルダだけでは不安なことも、洋一だけなら乗り越えられるだろう。


 特に今暮らしてる場所はヨルダにとっての安全地帯とも言えた。

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