5.いらない子(1/2)
前書き(お詫び)
すみません、以前5話を一度投稿してましたが、話の展開が早すぎて感情移入しずらいなと思ったので、書き直しました。そのため、展開と構成が若干変わっています。申し訳ありません。
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陰キャ(7)
「……ただいまー」
俺は玄関で靴を脱ぎながら、そう呟いた。
スタスタと歩いていくと、ばあちゃんが台所で晩御飯の準備をしていた。
「お帰り風太。あんた、今日はずいぶんと帰りが遅かったじゃないか」
「んー?ああ、ちょっと野暮用があってさ」
「なんだい?含みのある言い方だねえ」
「大丈夫、寄り道してただけだよ」
台所の脇を通って、通りすがりにリビングへ目をやる。そこでは、ソファに座ってテレビを見ているじいちゃんがいた。
「ただいま、じいちゃん」
「……ん」
「何見てんの?それ」
「……ん」
ああ、ダメだ。これ以上話しかけるのは止めとこう。じいちゃんは映画やドラマが大好きで、集中して見る時は全然人の話を聞かない。
とりあえず自分の部屋に行くことにした俺は、リビングを通りすぎて、家の奥へと進んでいった。
がちゃり
奥にある俺の部屋についた俺は、鍵を開けて扉を開けた。ベッドに鞄を放り投げて、その横に仰向けになって寝転んだ。
「ふーーーー……」
天井を見上げながら、俺はお腹に溜まった息をゆっくりと吐いた。
「…………………」
俺はこの時……学校の保険室でやった、黒影さんとの会話を思い出していた。
『……なるほど。じゃあトイレにいたら、同じクラスの人が入ってきて、君の悪口を言っていたと』
『……うん』
『誰か分かる?それ』
『あ、あまり聴き馴染みのない声だったから、相手までは誰か……』
『…………………』
『ごめんなさい……こ、こんなこと、白坂くんに話しても、迷惑な……だけなのに……』
『何言ってるんだよ黒影さん、全然迷惑なんかじゃないよ。話してくれて、ありがとうね』
『……うん』
『ちっくしょう、誰だ一体?』
『あ、あの、白坂くん。犯人捜しとか、そ、そういうのは大丈夫だから』
『ええ?で、でも、君は陰口を言われて傷ついたんだろう?なら、そのことは伝えないと!また同じようなことされちまうよ?』
『い、いいの……。逆恨みを買う方が、もっと怖いから。そ、それに、こういうのは……慣れてるし』
『…………………』
『ありがとう、白坂くん。授業を休んでまで、私のそばに……いてくれて。それだけで、本当に私、嬉しいから……』
「……はあ。くそっ、モヤモヤするぜ」
個人的には、陰口を言った犯人を特定したいところだけど、いかんせん探しようがない。悪口を言ってた奴らの声を聴いたのは黒影さんだけだから、その彼女が特定できないとなると、かなり難航する。
話し方からなんとか予想して探るしかないが、黒影さんから聴いた感じだと、どこにでもいるフツーのギャルっぽいんだよな。
(……黒影さん)
俺は自分で思っている以上に、今回の件に関して怒っていた。
だって、午前中までは珍しく黒影さん、笑ってくれてたんだぜ?俺も彼女とずいぶん打ち解けてこれたなって思えて、嬉しくなったんだ。
そんな彼女が泣きそうな顔になっていたのは、本当にショックだった。悔しくて仕方なかった。
(なんか俺……できないかな。彼女にできること……)
こういう陰口とかは慣れてるって黒影さん言ってたけど、こんな嫌な状況に慣れる必要なんざ、どこにもないんだ。
戦争でたくさん人が死ぬのが当たり前になって、人が死ぬことに何も思わなくなるのと一緒だ。慣れなくていいことなんだ。
俺ができることなんて大してないかも知れないけど、ちょっとでも何かできたらいいなって思う。
「…………………」
慣れなくていいこと……か。
へっ、我ながら耳の痛い話だな。
毎日毎日会うごとに、彼への想いが強くなる。
日を重ねるごとに、彼のことを考える時間が増えていく。
「へ~!じゃあ、黒影さんは漫画全巻持ってるの!?」
とある日の、お昼休み。この日、私は珍しく教室でご飯を食べていた。だって、お昼休みの時間も、彼のそばにいたかったから。
「う、うん……。外伝も、ちゃんと集めたよ」
「やばー!あれめちゃくちゃ多くない!?すげーね!本編は14巻くらいだけど、外伝がめちゃくちゃ多いから、めっちゃ集めるの大変なのに!」
彼はいつも、私の話を聞いてくれる。いつだって私の話に、耳を傾けてくれてくれる。
どんな話も、楽しそうに聞いてくれる。それがすごく、嬉しくなる。
「おーい、白坂ー」
そんな私たちの会話を割って、一人の男子が訪ねてきた。白坂くんは「どしたー?」と言って返事をした。
「今からさ、バスケしに行かねー?」
「バスケ?」
「おう、今日はバスケ部の昼練がないから、体育館使えるんだってよ。ハジメとかユウキも来るぜ?」
「…………………」
白坂くんはほんの一瞬だけ、私の方をちらりと見た。そして、また男子へ目を向けて、申し訳なさそうにこう言った。
「わりぃ!今日俺、昼は用事あんだわ。先生から呼ばれててさ」
「おいおい、お前何したんだよー!さてはカンニングでもやったか?」
「まさか!この100年に一度の天才様がそんなことするわけないだろー!?」
「ははは!誰が天才だよ!まあいいや、仕方ねえ。時間が空いたら来いよなー」
「おー、わりぃな」
そうして、白坂くんは去っていく男子に向かって手を振った。
「……し、白坂くん。今日……用事あるんだね」
「ん?へへ、ごめん。あれ嘘なんだ」
「え……?」
白坂くんはどこか照れ臭そうに、鼻の頭を掻いていた。
「な、なんで嘘を……?バスケ、したくなかったから……?」
「ええ?いやほら……今日は黒影さんが教室にいるからさ。せっかくだし黒影さんと話したいなって」
「!」
「いつもさ、お昼休みってどこに行ってるの?図書館とか?」
「……そ、そう。本読むの……好きだから……」
「そっかー!いいな、俺も今度図書館行こうかなー!」
白坂くんは本当に無邪気な顔で、そう笑っていた。
……も、もう。
なんで、そんな。
やだ、すごいドキドキする。
わ、私と……喋るために、友だちからの誘いを断ったなんて……。
そ、そんな……そんなに大事な話なんて、私……話せないよ。絶対バスケしてた方が楽しいよ。
「…………………」
ああ……でも、でも。
本当に嬉しい。
こんなに自分を優先してもらったことなんて、一度もなかった。
こんなに自分に興味を持ってもらえたことなんて、一回もなかった。
なんでこんなに、優しくしてくれるんだろう。
だめ、好き。
好き好き。
ああ、好き。
「…………………」
「黒影さん?」
「え?」
「どうしたの?何かあった?」
「う、ううん!な、な、なんでも……ないよ……」
私は、自分でも分かるほどに、顔が真っ赤になっていた。頬も耳もおでも、何もかもが熱かった。
白坂くんと一緒にいると、私は……もしかしたら、ここにいていいんじゃないかって、そんな風に期待を抱いてしまう。
もしかしたら、私だって誰かに必要な人間になれるんじゃないかって、そんな希望を抱いてしまう。
日を増すごとに、膨れ上がる恋。
でもそれは、儚くはじけるシャボン玉のようなものなのかも知れない。
それを悲しいくらいに実感したのは、6月5日……。ちょうど梅雨入りした頃だった。
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