第4話

 ―翌日の日曜日―


 いつもの早朝ランニングを済ませて、家に帰ると洗濯物を二階に干しに行こうとしている母さんとばったり会ったが、洗濯物のかごを床に置き母さんは急に言ってきた。


「おかえり拓磨、突然なんだけど今日は、隣町のショッピングモールに行くから。拓磨も付いてきなさい。」


 本当に唐突だったので、何故なのか疑問に思った。


「なんで、そんなところに行くんだ。母さん。」


「波瑠ちゃんの日用品を買いに行くのよ。」


 日用品を買いに行くと母さんは言ったが、それでもわからん。


「え?ここに来た時の段ボールの中に、日用品は入ってたんじゃないのか?」


「それ以外にも買うものがあるからって言ってたの。」


「うん?何を買うつもりなんだ?」


「さぁ、そこまでは波瑠ちゃんから聞いてないし。」


 そう言って、洗濯物のかごをもって二階に行こうとしてたが、まだ聞きたいことがあった。


「母さん、あと一つ疑問に思ったんだが、何で隣町まで行く必要があるんだ?」


「あ~、それは、波瑠ちゃんがここら辺だと高校生の誰かに会うかもしれないから、隣町にして欲しいんだって。」


「それで隣町まで行くのか。だけど、そこで誰かに会ったらどうするんだ?」


「そんなの、隣町のショッピングモール広いし、それに日曜日は人が多いから多分ごまかせると思うけど。」


 確かに母さんが言う通りで、隣町のショッピングモールは本屋やゲームセンター、雑貨屋があり、三階建ての大型ショッピングモールでしかも日曜日や祝日は特に人が多い事を思い出した。


「それより、この後早く出発しないといけないから、拓磨も早く支度しなさい。」


 そう言って、母さんは三度目の正直で洗濯物のかごを二階に持っていこうとしていたが、何回も聞いていた俺が悪いと思い、俺がそのかごを二階に持っていってベランダに置いた後、自室に戻った。


 服を着替えて、母さんは洗濯物を干しているから時間が掛かるだろうと思い、マンガを読んで待つことに。


 十分経った後、誰かの足音が廊下から聞こえ、「洗濯物終わったから、みんなも準備して。」と母さんが言っていたので、俺は出かけるために必要なものをもって、玄関へと行った。


 玄関に行くと陽葵と波瑠が靴を履いている。


「兄ちゃん。遅いよ。何やってたの?」


「母さんが洗濯物を干すのに時間が掛かると思って、マンガ読んで待ってたんだが。それにしても、二人ともいつもより早く出てきてどうしたんだ?」


「拓磨君。早くしないと渋滞になるかもしれないんだよ。日曜日なんだし。」


「そうだよ。早くして、兄ちゃん。」


 確かに日曜日なのは分かるが、俺には二人ともちょっと遠くに出かけられて興奮してるようにしか見えないのだが、そういう事にしておこう。


 そうして、三人とも車に乗り込み、早速隣町のショッピングモールへと出発した。


 そういえば、母さんが運転していて、気が付いたことがある。


「父さんって今日休みじゃなかったっけ?」


「お父さんなら昨日の仕事が大変だったらしく、まだ寝てるよ。」


「そういえばおじさん、昨日の夜『疲れた。』って何回も言ってましたしね。」


「ふ~ん。そう。」


 そんな世間話をしつつ、ショッピングモールに向かったのだが、段々近づく頃には、渋滞に巻き込まれていた。


 日曜日だから仕方ないのだが、ショッピングモールに着いたのは、家から一時間半過ぎていた。


「やっと着いたけど、車寄せに止めるからみんな降りて。」


「あれ?母さんは行かないの?」


 母さんだったら、こういうところに来たら陽葵と一緒に服とか見て買い物してから帰るはずなのだが、今日は違い、陽葵も聞き返していたが、


「お父さんを家に一人にさせるのも可哀想だし、あとでメールで私達が着いたら連絡するよ。」


 そう言い、母さんは車寄せに止まり、俺達は車から降りて母さんは家へとまた車を走らせて行くのかと思ったが、ふと何かを思い出したかのように助手席の窓を開けて、母さんは俺を呼んだ。


「拓磨、これ渡しとくけど、昼になるまで中は見ないでね。」


 そうして、やけに軽い謎の封筒を渡されて母さんは帰ってしまった。


 中身が気になったが、二人が先にショッピングモールの方に行ってしまったので、俺は慌ててカバンの中に謎の封筒を入れて二人を追いかけた。


 ショッピングモールに着いて中に入ったのはいいのだが、二人ともそわそわしながら相談している。


「陽葵ちゃん、どこから回る?」


「そうだなぁ、近場から回った方がやっぱりいいと思うけど、それとも…。」



「そういえば、今日は日用品を買いに来たって聞いたが、何を買いに来たんだ?」


 何気に今まで聞くのを忘れていたことを聞いたが、二人は俺の事を忘れてどっかに行ってしまったので、俺も聞くの後でいいやと思い別行動することにした。


 俺もここのショッピングモールは久しぶりに来るし、しかもすごく広いのでどこに何があるのか分からなかったので当てもなくぶらついていた。


 適当にぶらついていたら、本屋が目に留まり、何もしないでぶらつくだけというのももったいないと思い、暇潰しに入ることにした。


 本屋に入って早速、マンガの本が置いてあるコーナーを探しに行き、見つけて好きなマンガの新刊が出ているのかを見たり、その後は雑誌を読んだりして、何も買わずに本屋を出た。


 本屋を出てまたどこかに行こうとしたが、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。


「おーい、拓磨君。こっちだよ。」


「兄ちゃん。どこ行こうとしてるの?」


 よく見ると陽葵と波瑠が俺の事を呼んでいる。


「なんで、お前らがここにいるんだ。そもそも俺は二人にここに行くって言ってないのに。」


「陽葵ちゃんが、拓磨君ならここにいるはずって言ったのよ。」


「兄ちゃんって、こういうところに来たらまずは本屋さんに行く事が多いはずだけど。どう、兄ちゃん。当たってる?」


 半分、探偵のような振る舞い方をしていたが、今回は適当に歩いて着いたから入ったという感じだったが、まぁ、陽葵の顔を立てるためにそういう事にしておこう。


「はいはい、その通りだよ。」


「フハハハ、兄ちゃんが行きたいところは全てお見通しだよ。」


「そうですか。」


 俺が言い返してつかの間、陽葵は波瑠の方を見て、聞いていた。


「波瑠ちゃん、当たってたよ。褒めて!!」


「ふふふ、陽葵ちゃん、すごいね。」


 波瑠は右手に持っていた紙袋を下に一旦置き、陽葵の頭をなでた。


 陽葵は凄くうれしそうでありつつ満足そうな顔をしていたが、それより波瑠が持っていた紙袋(しかも両手に大量にあるの)が気になる。


「それってなんだ?もしかして、波瑠が買いたいっていていた物か。」


「うん、そうだよ!」


 波瑠がうれしそうに左手に持っていた紙の色が異なる紙袋を少し上げて俺に見せてきたが、さっき下に置いたのは三袋、今左手に持っているのは二袋とかなりの量を持っているが。


「波瑠、何をそんなに買ったんだ?」


「何って、服だけど。」


「服!?服にそんなに紙袋が必要なものなのかよ。」


「それは、いろんな洋服屋さんを見て回って、別々な所で服を買うから、このぐらいは普通だと思うけど。」


 俺は、あんまり服とか興味が無いからその普通の感覚が分からなかった。


「それより、兄ちゃん、波瑠ちゃん、私さ疲れたから、服を買った紙袋をコインロッカーにしまって、どこかで休憩しない?」


「そうね。もうお昼だし、どこかの飲食店に入って昼食にしようか。」


 陽葵に言われて気が付いてスマホの時計を見たら、昼頃になっていて、そんなに時間がたっていたらしい。


 そうして、コインロッカーを探すため、ここから移動して見つけた後、昼飯をどこにするのか近場にあった椅子に座り三人で考えていた。


 昼飯を考えていた時、ふと昼なのに母さんたちが来ないことに疑問を持った。


「なぁ、父さんと母さんって待たなくていいのか?」


「それなら、おじさんとおばさんは夕方まで来ないって陽葵ちゃんのスマホにメール来たよ。拓磨君にも来てないの?」


「え?そんなの届いてたのか!」


 そんなことを言われて、メールを確認すると確かに母さんからメールが届いていた。


「兄ちゃん、父さんと母さんは久しぶりに二人っきりだから家でゆっくりする、とも書いてあったよ。」


「へ、へぇ~、そうなのかー。ん?待てよ。」


 それで、納得することが一つある。


 それは、最初にここに来た時に母さんに渡された謎の封筒で、カバンにしまった封筒を急いで探し、見つけて中身を見ると五千円と手紙が入っていて、その手紙を読んでみると、


「何々、『この五千円で美味しい昼食をみんなで食べてね。』だと…。」


 と書かれていて、なんで封筒を渡したのか、俺はやっと理解した。


「兄ちゃん、五千円あるの?じゃあ、美味しいところ行こうよ!」


「お、おうそうだな…。」


 でも、久しぶりに二人っきりになりたいからって、別に最初から言えば良かったんじゃ…。


 そんな事を思いつつも二人が立ち上がったので俺も立って、三人で飲食店を歩きながら探すことにした。


「ねぇー。どこにしようかな?兄ちゃん、波瑠ちゃん。」


「そうだね。拓磨君は何食べたい?」


「俺か?俺は、一階のレストラン街で探すより、みんな別々のものが食べれるフードコートで何かしら探すでも、良いんじゃないのかと思うんだが。」


 そう言ったが、二人はコソコソと話した後、波瑠は困っている様子でこっちを見てきて、陽葵は少し怒った様子で言ってきた。


「兄ちゃん、フードコートは却下だよ。」


「そうだよ。さっき、私達フードコートの前を通ったんだけど、お昼ご飯の時間だから物凄い混んでいたから、止めた方がいいと思う。」


 そうか、日曜日だから人が多いし、俺も出来るだけ落ち着いて昼飯食べたいのでフードコートは却下だな。


「それに、五千円貰ったんだから、もっと豪勢に行った方がいいじゃん。」


 陽葵も何気に良い物を食べたく、フードコートは却下したのだろう。


 そんな感じの陽葵を見て、俺も貰ったならパーっと使うかという考えになり今一番食べたいものを考えた。


「う~ん。じゃあ、俺はハンバーグが食いたい。かな。」


「だったら、一階のレストランでいいんじゃない?」


 普通にやっぱり肉が一番食べたかったから、陽葵はそれならという感じに言ってきた。


「本当はこの前オープンした、パンケーキ屋さんに行きたいけど今日は我慢するよ。」


「えっ、それって、あの有名なお店の!?」


 二人して盛り上がっていたが、


「時間もあるんだから、とっとこ行こうぜ。」


 と言って、二人を急かし、一階へと目指した。


 そんなこんなでチェーン店があって並び、時間も昼時混んでいると思ったが、客名簿を見ると二家族しかまだ書いておらず、店員さんもすぐに来て俺達は何とかすんなりと席に着くことが出来た。


 席についてすぐにメニュー表を確認したが、俺はもうハンバーグの口になっていたのであるのかだけを確認し、あったので今度は二人を待つことに。


 二人も決まったらしく、波瑠はたらこスパゲッティで陽葵はシーフードグラタンと俺の分も頼み、やはりチェーン店なので飯を頼んでくる時間がそんなにかからなく、すぐに食べることが出来た。


 波瑠たちと話をしながら飯を食べ、あっという間に店を出た。


 会計をして店を出て、近くにさっき二人が話していた多分パンケーキの店があって何気に見ると、行列が凄かったが、今更だが俺は肝が冷えた。


 は、ははは、そっちは見るのはもう止めて今日はまだ時間があるし、楽しむか。


 そうして、いつか来るかもしれない現実から目を背け、陽葵たちもどこか行くらしいのでまた別行動かと思って歩こうとしたら、陽葵は俺の事を呼び止めた。


「兄ちゃん。次に行くところ、兄ちゃんも来て。」


「へ、俺も?」


 陽葵に声を掛けられたが、この後は俺も今度こそ行きたい所が決まっていたので正直断りたかった。


 しかし、陽葵について行かないで、泣かれたりしても困るので、俺は仕方なく一旦ついていくことにし、楽しそうにしながら俺達をその場所へと連れて行った。

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