第1話

 今日も小学校からの友人と一緒に近場のショッピングモールで遊んでから家に帰ってきたら、いつもは早く帰らない父さんが家に居て驚いた。


 いや、それ以上に俺が帰ってきて父さんの背中に隠れるように女の子がいて突然父さんから言われた言葉にもっと驚かされた。


「おいおい、やっと帰って来たか。今日から家で同居するんだから、早く帰ってくるのが普通だろう。」


「…よろしくお願いします。須原拓磨すはらたくま君。」


 俺、拓磨は体が固まり今までの十五年間を何故か振り返っていたが、勉強はいたって普通だし、運動は中学校の頃に陸上部に入っていたからみんなからも早いと言われるぐらいで特にこれといって何もない普通過ぎる日常だったはずだ。

(この固まった時間0.3秒!)


 だが、楽しく遊んでから家に帰ってきたらいきなり俺の家で同居する女の子が現れるとか訳が分からん。


 女の子も親父の背中に隠れてるままし、どういったことで同居する様になったのか父さんに聞いて状況整理するしかない。


「父さん、早く帰ってくるのはいいんだが、何でその子が同居することになってんだ。」


「おいおい、先週の日曜日に話したはずだぞ。聞いてなかったのか?」


 先週の日曜日…。全然覚えていない、思い出せるとしたら居間で新作ゲームをやっててボス戦が全然攻略できなくて何回もやってたことぐらいしかないな。


「兄ちゃんは、ゲームやってたから聞いてなかったんだよ。」


 いきなり、父さんと女の子の後ろから声が聞こえて、顔を出してきたが妹の陽葵ひまりだった。


 ということは、陽葵にその子を紹介していたから父さんの後ろにいるのかとも思ったのだがなかなかこっちに顔出さないな。なんでだ…。


「ゲーム?拓磨、お前はいつも言ってるだろ。話は聞け、そうしないと…。」


「『いいところも聞き逃す。』だろ。今回は悪かったよ。」


「今回は、って何回も言ってるのに、まぁ説教してたら長くなりそうだし、それにいつまで俺の後ろにいるんだ。」


 また、聞いてなかったことに怒られそうだったが、どうにか回避できたな。


 しかし、?どっかで聞いたことあるような。


 そのようなことを考えていると父さんは少し右にどいて女の子の顔がやっと拝めるようになった。


「おじさん、いきなりどかないでください。まだ、心の準備が…。」


「だって、自分からでなさそうなんだもん。」


 父さんの(ちょっと気持ち悪い言い方と)強引なやり方におどおどしながらも怒っていたが、その女の子を見たら俺はとある奴の名前と顔を思い出した。


「はるって…。高本波瑠たかもとはるか?なんだ、久しぶりだな!」


「お、覚えてたんだ。久しぶり、拓磨君。」


 波瑠は少し照れながら話していたが、高本波瑠か…。うちの父さんと波瑠のおじさんが親友らしくて前はどっかであっては、夕方まで酒を飲んで楽しく話していたりしていた。


 その時に俺と陽葵を連れて、波瑠もいて、かなりの回数合って遊んでいた。


 始めて波瑠と合ったときも、人見知りでおじさんの後ろに隠れていたが、それが治っていなかったから、父さんの後ろに隠れていたのか。


 まぁ、最後に遊んだのは俺達が小六で、最近は父さん達も電話でやり取りしかしていないから忘れるのが当たり前なのかもしれないが、遊んだときは、俺も波瑠も陽葵も色んなことして遊んでいて、かなり楽しかったから忘れるわけない。


「兄ちゃん、覚えてたんだ。私も久しぶりだったから、少し話してて、一緒に住むって楽しそうだよね。」


「陽葵は、もう認めてるのかよ。」


「あったり前でしょ。前話したんだから。」


「拓磨君は、嫌だった?」


 波瑠は、困った様子で話してきたが、俺はそういうわけではない。


「いや違うぞ、ただ急だったから俺も驚いただけだから。」


「お前がちゃんと聞いてなかったのが悪い。」


 う、それもそうなんだが、急だと普通の人はこうなって当たり前だと思うぞ!?


 まぁ、そんな事よりほかにも聞きたいことがあるからそっちを聞かないと。


「そ、そんな事より父さん。このことは母さんに言ってるのか?」


「日曜日より前にお父さんから聞かせれてたから、知ってる。」


 二階から母さんが降りてきたが、洗濯物でも片付けてたのかって、そういう事はどうでもよくって、本当に俺だけが分かって無かったのか。


「それより、さっき波瑠ちゃんと家に着いて、まだ車に荷物積んであるから拓磨、手伝え。」


「えっ、あー、分かったよ(?)荷物ってどのくらいあるんだー?」


「日用品ぐらいしか無いから、そんなにはないぞ。そうだなぁ、段ボール二個とスーツケース一つだ。」


 あまりにも唐突過ぎて頭が処理しきれず、棒読みの返事で返したが、これ以上うだうだ言ってたら怒られそうだし、止めとこう。


「父さん、私も手伝うよ。」


「おじさん、私も手伝います。自分で持ってきたので。」


「二人はいいよ。こいつ遊びに行って帰って来たし、無駄に体力あるから。」


「無駄にとか言うなよ。」


 確かに体力はあるが、無駄とか言われたくなかったが、父さんに言われて車に行き、段ボールやスーツケースを居間に置いた。


 スーツケースはそれなりに重かったが、段ボールのほうはそこまで大きくなく、みんなで運べば一回で終わる感じだったが、まぁ、波瑠も今日来たばかりで戸惑うだろうし、ゆっくりさせるか。


 そうして父さんと俺で荷物運ぼうとしたが疑問に思ったことを聞いた。


「なぁ、この荷物はどこに置いておくんだ。父さん。」


「あぁ、二階の空いてる部屋まで持っていくんだ。」


「え、そんな所あったけ?」


「…たく、この間の片づけを手伝わせた所だぞ。お前それも忘れてるのか?」


 たしか、先週片づけを手伝わされて様な気がするが、何となくやってたし、興味が無かったからあんまり覚えてないな。


「人の話を聞いてないのもあれだが、片付けたのも覚えてないのか。これだからお前は…。」


 その後、父さんが本格的に説教をしようとしていたが、荷物が片付かないし波瑠を待たせてるからと言い、話をそらし、また何とか説教を回避した。


 父さんは途中、近くのスーパーで夜ご飯買いに行くからと言い、母さんと二人で出かけて行った。


(説教の件は、どうにかなったな。)


 荷物運びを終えて階段を下りてる途中、居間の扉が開いてて、妹と波瑠が仲良く話している声が聞こえて来る。


「…っていうのがいま私たちの学校で流行ってるんだ。」


「そうなんだ!私のほうでは...」


 何だか、盛り上がってる感じで今は入っても話が分からないし、それに働いて喉も乾いてた所だから台所から飲み物を取って戻ろうと考えていたら、話題は俺の話になっていた。


「兄ちゃん、春休みのほとんど毎日遊びに出かけたり、家に居る時なんか一日中ゲームばっかりやってる感じで、今のところ高校の課題をやってる姿なんて見た事ないんだよね。」


「え、拓磨君そんな感じなの?課題やって無くって遊んでばかりなんだ。」


「そうだよ。あと、私が学校から帰ってきてそんな姿見ると嫌味にしか見えなくって…あっ、いいこと思い付いた!」


 入るタイミングを逃してしまったが、俺の話と言っても愚痴の話かよ。


 それに陽葵が「いいこと思い付いた」って言ってるがそれを聞いてからでも入るか。


「波瑠さんにお願いなんだけど、兄ちゃんの課題を見てくれないかな?」


「何言っての陽葵ぃぃぃ!」


 流石に「いいこと」と言っても波瑠(俺)にも迷惑が掛かると思い、すかさず入ってしまった。


「あっ、兄ちゃん、荷物運び終わったんだ、お疲れ。」


「お疲れじゃない陽葵。何でそうなるんだ!?」


「どこから聞いてたか分からないけど、課題やって無いでしょ。」


「っ、い、いや、部屋でやってるけど?」


「じゃあ、どれくらい?」


 すごい圧力で返してきたが、俺だってやってるということを言わないと兄の威厳が無くなるから言ってやる。


「ふん、聞いて驚け!現国、数学、英語の三つ課題があるが、三つとも(自分的には)半分は終わってるぞ。」


「それで、波瑠さん駄目かな?」


「あれ?陽葵ちゃん?聞いてる?てか、聞こえてる?」


 妹よ。少しは、お兄ちゃんの話を聞いてくれないか。泣くぞ。


 そんな事を心から思っていたところ、波瑠はあたふたしていた。


「でも陽葵ちゃん、私と拓磨君は高校同じじゃないから課題どういうのか分からないよ。」


「っ!そうだぞ、陽葵。波瑠の言う通り俺達同じ学校じゃないから無理言うなよ。」


 波瑠のおかげで何とかこの場を乗り切れそうだが、陽葵?なんでそんなにっこりしてるんだ。


「大丈夫だよ。波瑠ちゃん。父さんに聞いたんだけど、兄ちゃんと波瑠ちゃんは同じ高校だって。」


 は?そんなのいつ聞いたんだよ。と思っていた所、俺より先に波瑠が聞いていた。


「え!そうなの!?それになんで、陽葵ちゃんが知ってるの!?」


「波瑠ちゃんが来るって聞いたときに両親に凄く聞いたんだよ。そしたら、波瑠ちゃんがどこの高校に受かったのかも言ってたからね。」


「拓磨君も聞いてたの?」


「兄ちゃん?あ~、兄ちゃんは、さっきも言ったけど、その時ゲームやってて、話が終わったとともに自分の部屋に帰ってたから聞いてないと思うよ。ねぇ、兄ちゃん?」


 陽葵、こっちに聞いても、陽葵が言ったようにゲーム途中で自分の部屋に帰ったから聞いてないぞ、だから、こっちに振らないで。


「そうなんだ。」


 なんか波瑠も悲しそうにこっち見てくるんだが…えっ、何?なんで悲しそうなの?


 俺は場の空気を変えようとと思いとっさに思い付いたことを口走った。


「そういえば、同じ学校ってことは、クラス一緒だといいな。」


 とっさに出てきたのはいいものの、なんだ、クラスが一緒だといいって、そんな事でごまかせるわけないじゃん。


「拓磨君、そんな事でごまかせると思ったの?」


「兄ちゃん、ごまかし方へたくそだな~。」


 やっぱりごまかせないよね。どうするか、と思っていた時、波瑠は、少し深呼吸をした後、悲しそうな顔をやめた。


「拓磨君、前もゲームやってたら人の話聞いてないときがあったけど、そういうところ変わらなくて良かった。」


「兄ちゃんは、昔っから本当に変わらないからね。」


「変わらなくて、悪かったな。」


 昔から変わらないのは一言余計かもしれないが、何とか機嫌が直ったのは良かった。


「だけど、拓磨君、そういうところ直さないと後々、後悔するよ。」


 まさか、波瑠にも注意されてしまうとは、直そうとは思うが、いつかは直ると思う。

 多分。………絶対に。


「まあ、この話は置いといて、拓磨君が言ったように同じクラスになれたらいいな。」


 やったぜ、まさか適当に話題振ったら、課題の話までそらすことができたし、このままなかったことに出来るのでは?と思い俺は全力でそのままその話題に乗っかることにした。


「波瑠ちゃんもそう思った?兄ちゃんの癖に良いこと言ったなと私も思ったんだよね。だって同じクラスって、いつでも休み時間に話に行きやすいし、文化祭や体育祭で一緒に頑張れるんだよ。いいなぁ、私も兄ちゃんたちと同じ学年だったらよかったのに。」


「癖とは何だよ。俺だって、ごまかしたとはいえ波瑠と一緒だったらいいと本当に思ってるんだぞ。」


「本当にそうだよね。」


 と、このまま話が(課題の件も)終わる流れであったが、


「まてまて、そういえば、兄ちゃんの課題見てもらうって話しだったんだ。」


 陽葵は忘れてはいなかった。


「ちょっ、課題のほうは忘れようか!!」


「駄目だよね。波瑠ちゃん?」


「うん、ちゃんと課題だけじゃなくて、予習もしておかないと高校始まってからのテストでひどい点を取っちゃうよ。だから、一緒に頑張ろう。」


「いや、ほんとにそれだけは勘弁してぇ~…。」


 俺自信が悪いのかも知れないが「明日から課題と予習」って、はぁ、もっと春休み最後の最後まで(課題を忘れて)あいつらと遊んでたかった。


 と思いながらも二人がまた別の話や昔の話で盛り上がっていたので、俺も(課題の話を忘れたく)混ざって話していた。


 そうしているうちに、両親の二人は帰って来て。


「今晩の夕食は、波瑠ちゃんも来た事だし豪勢にやるぞ。お前たち。」


 と、荷物で両手が塞がっている父さんがウキウキに言ってるが、母さんは呆れている。


「もう、鍋だし、お酒を飲めるからってそんなに騒がないの。波瑠ちゃん、ごめんね。お父さんがうるさくて。」


「いえ、うるさいなんて思ってませんよ。あと、鍋なんですね。急に拓磨君の家に同居することになったのにありがとうございます。」


 お辞儀までして丁寧に波瑠は話していた。それを見て母さんは少し微笑んだ後、頭をなでながら話し始めた。


「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。波瑠ちゃん。あと、同居ってなんだか堅苦しいし、ここは第二のお家って思って過ごしてね。」


「はい、これからよろしくお願いします!」


 波瑠は、お辞儀を終わりにして嬉しそうに返事をしていた。


 そして、波瑠のプチ歓迎会が始まったのだが、父さんは、酒を飲んで酔っ払って絡んでくるは、母さんと妹は、俺の言わなくてもいい昔の話を波瑠にしてるし、(まぁ、波瑠が楽しそうに皆と話しているのはいいんだが、)父さん、俺にばっかり絡んでくるし、挙句の果てには酒を飲み過ぎたのか泥酔して、ダイニングテーブルでうつぶせて寝るって。


「お父さん、全く仕事の忙しすぎて久しぶりのお酒を飲むのはいいけど、限度を考えてよ。」


「ははは、父さん、飲み過ぎ…、だよ。」


 そういう妹は、波瑠が家に来てからずっとはしゃいでいたらしく、疲れたのか眠たそうに話している。


「陽葵ちゃん、大丈夫?眠たそうだけど。」


「大丈夫、だよ。もっと、波瑠ちゃんと、お話しする。」


「もう、陽葵も眠たそうにしてるなら、さっさとお風呂入ってからにしなさい。」


 母さんがそのようなことを言ったら、急に陽葵が眼が冴えたようにして、波瑠にある提案を持ちかけていた。


「お風呂!そうだ、波瑠さん一緒に入ろうよ!!」


「えっ!一緒に⁉」


 急な提案だったから波瑠も驚いていた。陽葵は、いいでしょ?お願い。という目で波瑠を見ていたが波瑠は戸惑いながらも少し考えて。


「やっぱり、恥ずかしいし、今度じゃ駄目かな?陽葵ちゃん。」


「えぇ、今日が良かったんだけどな…。じゃあ、私ひとりで入ってきま~すぅ…。」


 そう言って、トボトボと風呂場のほうに行こうとしていた。妹の様子を見かねた波瑠は、「う~ん。」と唸りながらも諦めた様子で妹を呼び止めた。


「陽葵ちゃん、今日だけだからね。」


「本当に!波瑠ちゃん!!」


 波瑠がそう言った途端に妹は、風呂場に行こうとしていた足を止め、波瑠のほうへ行き、嬉しそうに手を掴んでいた。


「じゃあ、背中洗いっこしようね!波~瑠ちゃん♪」


 さっきまで眠たそうにしていたのに急に元気になるは、しょぼくれるは、何かと忙しい妹である。


 そっちは楽しそうにしていたが、俺は自室に戻ってゲームをやろうかなと思っていた矢先に母さんが引き止めてきた。


「拓磨には、悪いんだけど。お父さん少し起こして自室に運んでから、お皿運びとお皿洗い手伝ってくれない?」


「はい?なんで俺が?」


「陽葵も今お風呂に入らせないと寝ちゃいそうだから、拓磨にしかできないのよ。お願い。それに、手伝ってくれたらお小遣い上げるから。」


 いつもは妹が手伝っているが、妹も寝むそうだし、まったく、母さんはしょうがない人だな。


 決してお小遣いの為ではないが、父さんの肩を軽くたたいて起こし始めた。


「お~い、父さん起きろ。そして、自分の部屋で寝ろ。」


「う~ん、まら、おれは、眠くないぞぉ~。まだいけるぞ~。」


「何言ってるか分からないぞ。父さん。」


 父さんを無理やり立たせた後、背中から推して運ぶことにした。


 父さんは、途中途中、壁に寄りかかって寝ていて、その都度起こしていたが、ほんの少しだけ酔いがさめたのか、自分から階段を上がって勝手に自室へと戻っていった。


 そのまま、俺は一階に降りて今度は皿運びと皿洗いを手伝い。


 途中まで皿洗いが終わった頃、妹と波瑠が風呂から出てくる音がした。


「あと少しだから、拓磨。出来るね。」


「えっ、母さんどこ行くんだ?」


「どこって、お風呂だけど。」


「いや、な…。」


 何でと言いかけた時、母さんはいつ取りに行ったのか分からないが、ポケットから小遣いを出してきた。


「これ、要らないの拓磨?」


「いや、やらせていただきます。お母様。」


 よく見ると万札とまでいかないが、五千円札をちらつかせていたのでやるしかなく、あのお金と今までの小遣いで丁度新作のゲームが買えるのでより一層やる気を出して皿洗いをする。


 皿洗いが終わり片付けた後、疲れて居間で少しスマホをいじっていると母さんが風呂から出てきた。


 綺麗に皿が片付けられているのを見て、にっこり笑った後、何も言わずに五千円を渡してきた。


 俺も今日の事でどっと疲れが出てきたから、風呂に入った。


 風呂から出て自室に戻った後、時間を見てみると十時を過ぎていた。


 疲れてはいたが、まだ十時過ぎだし、ちょっとゆっくりしてからゲームでもするかと思っていたら、ドアからノックする音が聞こえる。


 父さんと母さんは自室で寝てるはずだし、妹と波瑠は、さっき妹の部屋で話声が聞こえたからこっちには来ないだろう。


 そう思って扉を開けると扉の前には誰もいなかったが、少し外に出て右横を見るとパジャマ姿の波瑠が壁に寄りかかりながら立っていた。


「波瑠、どうしたんだ?」


「陽葵ちゃんと少し話してたんだけど、途中でやっぱり疲れちゃったらしく陽葵ちゃん寝ちゃったんだけど、まだ寝たくないなと思って、その…。」


 最後の方はとぎれとぎれだったが、要するに妹も寝てまだしゃべり足りないから俺の所に来たって感じか、そうだな、俺も丁度暇だったからいいか。


「いいぞ、風呂出て暇だったし、立ち話もなんだから、部屋に入れよ。」


「!うん、お邪魔します。」


 そうして波瑠を部屋に招いた。


 波瑠は、なんだかそわそわしながらも俺の部屋のあたりを見渡していているが、前にも入って、そんなに変わっていないはずだがそれでも、本棚や勉強机を興味津々に見ていた事に少し恥ずかしい。


「拓磨君の部屋、前とあんまり変わらないね。」


「そりゃ、当たり前だろ。」


「フフ、そうだよね。」


 そして、波瑠は部屋を一通り見た後、座る場所を探していたから、床に座らせるのもこの時期まだ少し冷えると思い、ベッドに座らせた。


「あ、ありがとう。」


 俺は、目の前にある勉強机の椅子に座り、話そうとしたが、今日はいろんなことが立て続けに起きてたし、まず何から話そうか考えていたら、波瑠も何も言ってこないから、少しだけだが沈黙になった。


 夜の静けさのおかげでなのか考え事がまとまり話し始めた。


「いや、波瑠が今日突然来るから戸惑ったし、同居って聞いて本当に驚いたぞ。それにしてもなんで、今日からなんだ。」


 急に話し始めたから波瑠は少しびっくりしていたが、答えてくれた。


「お父さんの会社の都合で、かなり遠いとこに職場を異動しなくちゃならないことになったんだけど、私はもう高校こっちで受かっちゃってたんだ。それで、急だったからと言って、お父さんが考えていた所、拓磨君のお父さんに頼むことにして、事情を話してみたら『いいよ』ってことで日付決めて今日になったらしいよ。」


「それでか、ま、確かに父さん達かなり仲良いから、頼みやすかったのか。でも、学校同じなのは驚いたな。」


「私も本当に驚いたよ。」


 全くという感じで波瑠は言っていたが、俺は日曜日に聞いてなかったし、波瑠のおじさんは言うのを忘れていたんだろ。


 そんな事を思っている時、口にした。


「そういえば、ちゃんと言ってなかったと思うんだが、今日からいつまでか分からないが、よろしくな。波瑠。」


 そんな普通なことを言いながら、握手のつもりで右手を出したが、波瑠は両手でぎゅっと握りしめてきた。


「うん!よろしくね!!」


 今日、久しぶりってこともあってからか、最初は親父の後ろに隠れて少しおどおどしていたが、今はそのことも無く、しっかり俺の目を見て明るく返事をしてくれた。


 その後、前に俺と波瑠と妹で三人でいろんなことで遊んだ話やショッピングモールで父さんたちが会う約束をして、そこでいろんなところを三人だけで回った話などの思い出を話して盛り上がっていたらすっかり十一時半近かった。


「もういい時間だし、また明日話そうぜ。」


「そうだね、私も疲れちゃったし自分の部屋に戻るね。」


 波瑠は少しあくびをした後、扉の方へと向かった。


 扉を開けた後、こっちを振り返って。


「それじゃ、おやすみね。拓磨君。」


「あぁ、おやすみ。」


 手をひらひらした後、ゆっくりと扉を閉じた。


 俺も今日の事で疲れたし、ほんの少し(一時間ぐらい)ゲームをしたら寝ようとして、机に置いてあったゲームを手に取ろうとしたらまた扉がゆっくり開き、半分の所で波瑠が頭を出して言ってきた。


「陽葵ちゃんに最近拓磨君は夜更かしするって聞いたんだけど、まさか今しようとしてなかったよね。」


 妹がそんなこと言ったのかと思いながら、とっさに手にあったゲームを隠した。


「し、してないぞ、そんな事。ちょっと机整理した後、寝よかと。あははは…。」


「ふ~ん。」


 ちょっと疑いの目で波瑠は俺の事を見ていたが、多分ごまかしただろう。


「夜更かししないでちゃんと寝てね。」


 まさかの見破られていた、昼間言っていた癖が出ていたのか。


 そうして、やっと扉が閉じて、波瑠が自分の部屋に帰る足音が聞こえた。


 流石に注意された後だし、明日もいつも通りの早朝トレーニングやるからなと思い、なんだか急にどっと疲れた体を休めるため、ゲームもやめて結局俺は寝ることにした。


 本当に今日はいろんなことがあったなと思いつつ、布団に入ったら、すぐにその後の記憶が無くなるような眠りへと…。




 そして、次の日から課題をあまりやって無かった俺の自業自得で、残り少ない春休みが終わるまで課題をやることになる。


 この後も中学校の友人たちとの遊ぶ約束があったのだが、スマホのメールで友人たちに断ると友人達もやっていなかったらしくいろんな奴らから、「あ、やっべ。」「すっかり忘れてた。」「須原、よくやる気になったな。」とのメールが返ってきた。


 やっぱり、な。


 あいつらも俺も受験勉強で必死になってやってたけど、終わった後だから課題のこと忘れたいという気持ちになっていたようだ。


 みんなも「今から必死にやらないと。」「初日から怒られるとか嫌だ。」「ほんと、教えてくれてサンキュー。」という感じにやる気になっていたので、俺もその日から課題をやる気が起き始めたが、途中からさっぱりわからず、どうにか波瑠に(すっごく分かりやすく)教えてもらい課題も終わって、あっという間に入学式前日になっていた。




 俺は、明日の入学式に備えて、ベッドでだらっとゲームをしていたら慌ててる波瑠が突然ドアを開けて部屋に来た。


「ちょっと同居に関することなんだけど、拓磨君の家に同居している事は、あんまり皆に言わないでほしいから、その…」


 との、ことだった。


「ノックしないで入ってきたから、ビックリしたがそれで入って来たのか。」


「やっぱり、変な噂がたつのも、拓磨君とかに迷惑がかかるのも嫌だし…」


 波瑠の言いたいことは分かったが、それでも俺は伝えて起きたいやつがいる。


「確かにいろいろとあるかもしれないけど、一人だけには言ってもいいか?」


「ん?どうして?」


「いや~、疑問になるのは分かるんだが、そいつとは仲良いし、何か隠し事してもすぐにばれるからなぁ。あと、今まで課題やってて伝えるの忘れてたから。」


 駄目かもしれないが、聞いてみると少し考える素振りをして、


「それなら、いいよ。」


 と、なんか以外にもあっさりと答えてくれた。


「本当にいいのか?」


「その人って前から仲いい人で、そんなにみんなに言い触らすような人?」


「いや、そいつ口が軽い奴じゃないから大丈夫だと思うぞ。」


「なら、いいんだけど、私も拓磨君に言われて、に言わないといけなかったの忘れてたから。」


 波瑠も(俺の課題のせいかも知れないが)忘れていたのか。


「とにかく一番重要なのは、いろんな人達にバレて大騒ぎになることだけは、嫌だからそこのところ本当に気を付けてね。」


「分かったよ。」


 確かに(俺はどうでもいいとして)波瑠に迷惑をかけるのは、どうかと思うので、それになる事だけは絶対避けないといけない。


「あと、学校では、名前も高本でいいからね。」


「あっ、確かにそれもそうかもしれないな。なんだか、色々と面倒くさいな。」


「面倒くさいとか言わないの。話はこれだけだから部屋に戻るけど、明日は寝坊しないでね。」


 さっきまでの慌てているのが話したことによって抜け、いつもの落ち着いている波瑠に戻った。


「ああ、日課の早朝トレーニングをするから大丈夫だ。波瑠の方こそ、寝坊するなよ。」


 そんな話をした後、波瑠は明日に備えるために自分の部屋でゆっくりするらしく戻っていった。




 そんなこんなで入学式当日、俺はいつも通り朝六時に起きて、トレーナーに着替えた後、外に走りに行った。春先でまだ外は少し肌寒かったが、一時間ぐらい走っていれば途中で暖かくなるんだからと言い聞かせて外へと走りこみに行った。


 いつもの日課の四十分走りこんで、家に戻ると七時頃になっていたので学校の支度をしないと思っていたら、まだ誰も起きていなかった。


 特に波瑠は、昨日寝坊しないでって俺に言っていたのにも関わらず、起きていないなんて。


 俺は、急いで起こさないとまずいと思い、急いで二階に上がって波瑠の部屋に入ろうとして、ドアノブに手を掛けた時だった。


「兄ちゃん、波瑠ちゃんの部屋に入ろうとしているの?」


 今起きたのか、まだパジャマ姿の陽葵が話しかけてきて、ドアの前に手を出してきた。


「入学式に間に合わなくなるだろう。だから、今から起こすから、ちょっとどいてくれよ。」


「確かに起こさないと間に合わなくなるけど、兄ちゃんが部屋に入ると波瑠ちゃんがびっくりするし、怒るかもしれないよ。」


「はぁ、なんでだ?」


 何でそんな事を陽葵は言ったのか分からないでいると、陽葵はあくび交じりに溜息をしていた。


「女の子は、男の子に寝顔を見られるのを嫌がるものなんだよ。」


「そうなのか。」


(俺は、別に寝顔見られても気にしないが。)


「そういうものなの。だから、私が起こすから、兄ちゃんはジャージ脱いで支度してきなよ。」


 陽葵に急かされるように背中を押されて、俺は自分の部屋に戻された。


 別に起こすぐらいだったら俺でも出来るはずだが、さっき怒られるって聞いたし、確かにそれなら陽葵に任せたの方がいいのかと思い、ジャージを脱いでさっさと高校の制服へと着替えた。


 俺が支度を済ませて部屋を出た時、波瑠の部屋からガタガタという音がしていた。


 何してんだと思った瞬間、先に妹が出てきて、次に支度を終えた波瑠が出てきた。


「ごめんね。拓磨君、遅くなっちゃって。」


「いや、悪くはないが…」


 急に出てきた波瑠だが、波瑠の制服姿を見るのは初めてで俺は珍しそうに見入っていたら、急に戸惑い始めた。


「ど、どうしたの?何か変なの付いてる?」


「別にそういうわけではないんだが、なんか波瑠の制服姿って初めて見るから新鮮だなと思って見てたんだ。」


「そ、そうなんだ。」


 手の指をイジイジさせながら、何か言いたげそうにしていた。


「で、どうかな?」


「どうかなって。変じゃないし、似合ってるぞ?」


 特に意味がない一言を言ったはずなんだが、波瑠は、すごく喜んでいた。


 別に普通に言ったはずだが、そんなに喜ぶことなのか?


 少し疑問そうにしていたら、それを見ていた陽葵も俺の事を見て、何か理解したかのように溜息交じりに俺の耳元で話し始めた。


「兄ちゃん、ちゃんと考えてから発言した?」


「いや、最初に変じゃないかなって聞かれたから、そのままの感じで言っただけなんだが?」


 陽葵は、余計に溜息をついて、バカだなという感じで俺の事を見ている。


 別に変なこと言ってないだろ。


 そんな事より、自分のスマホで時間を見た所、(俺のせいもあるが)七時半を過ぎていた。


「それより、見てくれ。時間がまずいことになって来たから、そのまま学校に急ぐぞ波瑠。」


「うん?いや、全然間に合うはずだよ。だって、ここからは、二十分ぐらいで着くんでしょ。それに八時半までに学校に着いてれば大丈夫だよね。」


「いや、確かに通常授業は、八時半までに着いていればいいんだが、今日は、入学式で八時までに学校に着かないといけないって、入学式のしおりに書いてあっただろ。」


「あれ?そうだっけぇ…。」


 少し波瑠は固まった後、入学式のしおりをカバンから取り出し、思い出して顔が青くなり慌てだした。


「そういえば、そうだった!じゃあ、このまま学校に行かないと間に合わないってこと?」


「そういう事だ。それに二十分ぐらいといっても、信号とかに引っかからなければの話で引っかかったらまずいんだから。もう行くぞ。」


 そんな話をした後、波瑠の手を引っ張って、二階から降りて、玄関で慌てて靴を履いた。


「兄ちゃんたち、朝ごはん取らなくて大丈夫?」


「いや、今日は俺も波瑠も時間のことを忘れてたから、今日だけしょうがない。」


「そう、だよね。それに私の寝坊の件もあるし。」


 話しながらも靴を履き終えて、他に忘れ物が無いか波瑠に聞いて、無いとのことで急いで玄関のドアを開けた。


「じゃあ、行くね。陽葵ちゃん。」


「うん。二人とも、いってらっしゃーい!」


 陽葵の見送りを聞いて、玄関の扉を閉じた後、急いで学校へと歩き始めた。


 途中、波瑠は、バテたりして、俺も歩幅を合わせながら歩いたりしたが信号もあまり引っかからず、学校にはどうにか七時五十分過ぎには着いた。


 早速だが、体育館前にクラス名簿が張り出されているって入学式のしおりに確か書いてあったはずだから波瑠と一緒に行ってみると、少しだけ生徒がいて、みんなも自分のクラスを確認している。


 俺は、自分のクラスを探しているとどうにか見つかって、波瑠も見つけたらしく、どうやら俺と波瑠は同じクラスだった。


 波瑠は嬉しそうにガッツポーズをし、先に昇降口に行ってしまった。


 俺は、もう一つだけ確認したいことがあるが、時間もあまりなかったからあきらめてクラスに着いてから後にでも確認するしかなかった。


 そうして、波瑠は昇降口に居るのだろうと思って合流しようと行くと、そこにはいなく、そういえば昨日言っていた、クラスメートにバレない様にする為なのか、先に行ってしまったらしい。


 波瑠もいないから一人で教室に向かい、教室の後ろのドアが開いていたから入ってみるとみんな見知った顔同士なのか結構ガヤガヤとしていた。


 教室の見取り図が黒板に張り出されていて、見た所縦五列の横七列であり、俺の席は、ど真ん中の前から三番目であった。


 俺も自分の机にカバンをおいた後、俺の席からあたりを見渡し、廊下の方に目をやっていると後ろから誰かに肩を軽く叩かれた。


 まさかと思い、振り向くと俺が知っているが立っていた。


「よう、拓磨、同じ高校なのにクラスまで一緒とはな。」


「おいおい、俺も何でクラスまで一緒になるのか不思議でしかないんだが、見沼むぬますすむ。」


「おい、そんな冷たいこと言うなよ~。」


 そうこいつは、小学校の頃からの付き合いでもあり、春休みの最初の頃からほぼほぼ毎日遊んでいたやつでもある。


「まあ、何はともあれ、これから一年間よろしくな。拓磨。」


「そうだな、進。よろしく。」


 そんな感じで、進も春休み途中からあっていなかったから、話したそうにしていた。


「しかし、急に拓磨がメールで課題の事を言い始めたけど、課題終わったのか?どーせ、出来てないよな。」


「お前、俺のことバカにしているようだけど、課題なら終わったぞ。」


「何!?お前が課題を終わらせたって?」


 進が急に大きな声を出し、周りの皆も「何だ?」という感じでこっちに注目していた。


 進も周りの皆が俺達のほうに注目しているのを見て、大きな声を出し過ぎたと思ったのか、咳払いをした後、普通の声で話を戻した。


「信じられないんだが、何したんだよ?」


「何って、言われてもなぁ。」


「何だよ。言え無い事なのか?」


 進は、まだ質問を終わりにする気は無かったようだが。


 しかし、進が疑問に思うのは当たり前な事だし、最初から言うつもりではあったが、ここでは言えなかったため、進に近くに寄れという手振りをして、進には近くまで寄ってもらい小声で話した。


「その事なんだが、クラスの人がいないところで話したいんだが…。」


「なんだ?小声になって。ここでそんなに話せない理由があるのか?」


「それは、手伝ってもらった奴に言われてるからな。」


 昨日はあまり深く考えていなかったが、もしも、こんな所でクラスメイトに波瑠や俺達の同居がバレて、波瑠が困るようなことになってしまったらと負の感情が頭によぎり、思わず目を別の方へと逸らしてしまったが、俺が真剣に話している様子が伝わったのか、進は、頭をかきながら。


「分かったよ。後で絶対に教えろよ。」


 進はそう言ってくれたので、俺はホッとし、進が分かってくれる奴で助かった。




 そうして、進とまた別の話をしていたら、担任の先生らしき人がクラスに入って来て、入学式の流れを伝えて、体育館に名前順で列になっていくように指示された。


 クラスの皆も戸惑いながらも廊下に出て並びだし、みんながまとまったら先頭の奴らが歩き出した。


 ここから先は、朝ごはんを食べていなかったせいで腹が減って昼食の事を考えていたり、体育館の暖かさにやられて半分寝ていたりとイマイチ覚えていなかった。


 何となくだが、確か体育館の中に入ると椅子がきれいに並べられていて。


 椅子の背もたれに自分の名前が貼ってある所に座って待っていると入学式が始まった。


 校長や生徒会長の話、あぁ、あと、一年生代表の話なども終わったら、教室に戻され、さっきクラスで入学式の流れを話していた先生がやはり担任で今後の予定を話したら、帰宅となった。




 本当は、入学式終わったら母さんが。


『お昼は、どうするかみんなで考えようね。』


 と波瑠と陽葵と俺に昨日言っていたが、進に。


「早く終わったし、丁度いいから聞かせてくれよ。さっき隠したこと。」


 と言われた為、母さんにメールで。


『俺は、友達と遊んでくるから、三人で食べてていいぞ。』と伝え、俺達は話せる場所を行き当たりばったりで探し始めた。


 地元のショッピングモールやファミレスは、クラスの奴らがいる可能性があって駄目だ。


 俺の家や進の家という案も出たが、進も親に急に言ったから、今怒っているらしく無理。


 誰にも聞かれる事なく、ついでに昼ごはんや遊べる場所と考えていたら。


「拓磨、思い出したが、良い所あるぞ。駅前で俺達が小中学校の頃によく行ってた場所で…。」


「うん?どこだっけ。」


「何だよ。覚えてないのかよ。…まぁ、いいから付いてこい。」


 そう言われて、進に付いて行くと駅前の変な路地に入って、入って、を繰り返してようやっと着いたらしく進は止まった。


「ここだ。覚えていないか。拓磨。」


 目の前には、少し小汚いカラオケ屋があり、確かに覚えがある場所であった。


「あ~、ここか。確かにほとんどの奴ら知らない場所だもんな。」


「それに最近は、ショッピングタウン近くに別の綺麗なカラオケ屋が出来たから、みんなもそっちに行くだろ。まぁ、俺達も最近はそっちの方ばっかり行ってたから、俺もすっかり駅近くにカラオケ屋あるの忘れてたけどな。」


 ここなら誰にも聞かれずゆっくりと話せるし、昼飯をとることや遊ぶこともできるからさっそく俺達は中に入って、部屋を決めることにした。


 部屋決めや飲み物取りをやり終えた後、早速本題の話になった。


「で、何で学校では話せないんだ?」


「まず、聞いておきたいんだが、誰にも言わないって約束できるか?」


「それは、まぁ、話にもよるが。なんで、そんなに誰にも知られたくないんだ?」


 そこで俺は、今から大事な話になるので、いったん一息ついてから話を切り出した。


「ふー。今日クラスメイトの中に高本波瑠っていう女の子がいただろう。」


「ああ、いたな。」


「そいつ、俺の家で同居してんだよ。」


 そう言うと、進はポカーンとして少しの間、何も触っていない時のカラオケ特有のテレビに謎のコマーシャルだけが部屋に聞こえる空間になり、気まずい空間であった。


 だが、進は突然苦笑し始めた。


「拓磨、お前は何言ってるんだ。女の子が同居してるなんて。冗談を言うエイプリルフールは、とっくに過ぎてるぞ。」


「冗談で言ってるんじゃない。本当なんだ。」


「はぃ~、何でそんなことになってるんだよ。ちょっと、よーく、詳しく、聞かせてくれよ。」


 進は、何にキレているのか分からないがキレ気味で質問してきた。


 薄々は質問攻めになることは予見していたが、ここまで怒った感じに質問してくるとは想定外であった。


 しかし、話が進まないのでそこに至るまでの経緯をちゃんと話した。



「はぁー、そんな事になっていたのか」


 進の怒りも収まり、最終的にはもの凄く驚いて納得した後、質問し過ぎて喉が渇いたのか全然飲んでいなかった飲み物を飲んでいた。


「だから、お前が課題を終わらせることが出来たのか。」


「そうだな。」


 飲み物を飲み終えた進は、今度はうらやましそうな感じで話してきた。


「いや~、それにしても女子と一緒に住むなんて、どんな運の持ち主なんだよ。」


「はぁ?どういう事だ?」


「だって、女子と一緒に住むって憧れるだろ。」


「いや、俺は妹がいるから、そこまで特別な感じはしないんだが…。ん?待てよ。まさかだと思うが、さっき怒っていたのはそう言うことなのか?」


「うん、そうだけど。」


 そんな事で怒ってるのか、納得して俺は呆れたが、その後も進は話し始めたので言い分を聞いてやることにした。


「だってよ。学校でお前は真剣になってたが、どうせ適当に課題をやって終わりにした。とか、誰かに見せもらってるから全部答え同じで先生にバレるかも。とか、そんな感じだと思ってたのによ。嘘みたいな話をしてくるから、こいつふざけてるなって思うだろ。それに…。」


 話の途中だったが、机に置いてあったマイクを取り、マイクをオンにして俺に指を差しながら話し出した。


「一度は起きてほしいことなのにお前に起きるなんてぇぇ~。あぁ、俺も女子と同居するって言うの起きてくれないかなぁぁ~。」


「そんな事言うけど、お前一人っ子だから羨ましいだけなんじゃないか?」


「半分はそうだが、半分はちが~うぅぅ~。」


 進は俺に対して、「分かってないな。第一、お前はなぁ~。」とまだ話しそうになっていた。


 だが俺は腹も減ったし、半分適当に聞き流しながら、ランチメニューを眺めご飯を決めた後、電話を手に取り勝手に注文していた。


 それを見ていた進は「こいつは~。」と右手のマイクを下げ額に左手を当てて、ため息交じりに言っていたが、何かを諦める様にランチメニューを眺めて、俺に「唐揚げセット」と言って、進は曲を予約して歌い始めた。


 そうして俺達は、時間が来るまで好きな曲を交代に歌い、ご飯を食べながら最後まで盛り上がっていた。






 ―その頃―


 私と陽葵ちゃんと拓磨君のお母さんは、高校から二駅離れている、そこそこ高いファミレスに来ていた。


「拓磨君に内緒でここに来てよかったんですか?」


「大丈夫よ。それに最初からここに来るつもりだったけど、拓磨は『友達と遊んでくる』って連絡してきたんだから、自業自得よ。」


「兄ちゃんの事はいいから、二人は料理決めた?私はこの〈ハンバーグ&エビフライセット〉がいい!」


 二人は、遊びに行った拓磨君が悪いからという感じになっていた。


 しかし、私は教室に居て、拓磨君のお友達が大声で課題のことを言っていたから、多分半分は私のせいで拓磨君は巻き添えを食らったんだろうと分かっていた。


 拓磨君に悪いかなと思いながらも、二人は料理を決めていたので、罪悪感になりつつ私も料理を決めた。


 店員さんに料理を言って、少し落ち着いてお水を飲んでいた時、拓磨君のお母さんが急に話し始めた。


「そういえば、拓磨もいない事だし、普段は話せない事も話せるよね。」


「そうだね、お母さん!私も実は聞いてみたいことがあったるんだ。」


 二人は茶番臭い感じに言いながら、私の事を見てきた。


「な、なんですか?」


「波瑠ちゃん、あなたは拓磨をどう思ってるの?」


 拓磨君のお母さんは、にやにやしながらもよく分からないことを聞いて来る。


「そんな、拓磨君は友達だし、どう思うってると言われても。」


「えっ?兄ちゃんと話している時の波瑠ちゃん、すごく楽しそうに話しているから好きなんじゃないの?」


「えぇ!拓磨君と話ししてる時の私って、そんな感じだったの!?」


 陽葵ちゃんが、急にそんなことを言ってくるか驚いたがそれでも好きということについてはよく分からなかった。


「うん、そうだけど、どうなの?波瑠ちゃん。」


「好きなのかはよく分からないけど、楽しいのは、合ってるよ。」


 普通に二人と会話しているはずなのに、急に恥ずかしくなってきた。


 でも、確かに拓磨君と話している時は楽しいけど、昔はゲームで遊んだとき手加減してくれないし、この前だって本読んでたのに急に話しかけてくるから、途中になっちゃってどこまで読んだか分からなくしてきて…。


 そんな事を頭では考えつつも、心は何となくモヤモヤしていた。


(あぁ、これまだ波瑠ちゃん好きだと気付いてないのね。)


「波瑠ちゃん、面白いはねぇ。」


「いきなりなんですか。おばさん!」


 そんなこんなで私は何故か顔を赤くしつつ、陽葵ちゃんと拓磨君のお母さんに料理が来るまで色々と質問された。






 ―夕方―


 すっかりカラオケで盛り上がり、のどを少し枯らしながらも家に帰ってきた俺は鍵を開けて入ると夕食のにおいがしてみんなも帰ってきているのが分かった。


「ただいま。」


「お、お帰りなさい。拓磨君。」


 ちょうど二階に上がろうとしていた波瑠が返事してくれたが、なぜか疲れている。


「どうしたんだ?波瑠?」


「な、何でもないよ。」


 そんなことを言いつつ、スタスタと二階に駆け上がっていき自室に入る音が聞こえた。


 波瑠の奴何があったんだと思っていると夕飯の準備が出来た母さんがキッチンから玄関の方に来たが、なんだか困った様子で俺に返事をしてきた。


「お帰り、拓磨。」


「ただいま?それより、波瑠の奴どうしたんだよ。」


「それなんだけど…、ちょっとあることを質問し過ぎちゃって。怒ってはいないと思うんだけど、二、三日はあんな調子だけどそっとしといてあげて。」


「質問って、何したんだよ。」


「う~ん、私達が波瑠ちゃんに気になってた質問?」


 私達ってことは陽葵も何かしたのか。気になっていた質問に関して聞こうとしたが、「ご飯にするから、手を洗ってきなさい。」と言われて、洗面所に無理やり行かされたため、なんのことだかうやむやにされてしまった。


 母さん達がした事なのになぜか俺まで巻き添えを食らうのは、なんだか腑に落ちないが今日は入学式といい、進に波瑠の事を教えてからカラオケといいやる事が多々あり、疲れたので早く夕ご飯を食べてゆっくりしようと決め、波瑠の事はまた明日聞いてみる事にした。


(結局その日の夜にゲームやらなんやらして夜更かししたら、忘れるのであった。)


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