第23話 冒険者の矜持

俺たちが階下に降りると、喧騒に包まれていた室内がしんと、音を消す。

値踏みするような奇異の目にさらされながら、俺達はギルドの受付に向かう。


「おや、あんたたち、話は終わったのかい?」


そう言いながら、左の受付のおかんお姉さんがおいでおいでと手招きしている。

俺たちは、お呼ばれするように左の受付に向かった。


「あんたが噂のアーティかい?」


受付に座ると同時に、ベリトの胸に埋まる俺を見ながら問いかけてきた。


「……ああ、そうだ」


俺は答えながら【転移ワープポイント】で、その机の上に転移してみる。


なんか後ろの方から「ひゃん!」という色っぽい声が聞こえた気がするがあえてスルーだ。


「へぇ、ホントに瓶が喋るんだねぇ……ぺっとぼとる、とか言うんだっけ?」

「ああ、こんな見た目だけど元人間だ、ええと……?」

「あたしはレヌさね。レヌでもレヌかあさんでも好きに呼んどくれ」


にっこり微笑むおかん改め、レヌさん。


「はい、これがお前さんのギルドカード。確認しておくれよ」


テーブルに置かれたギルドカードを見る。


アーティ Lv2 アーティファクト ランクD


そこには俺の名前とランク、職業が書いてある。


「んん? レヌさん、ランクがDになってるんだが?」

「そりゃそうさね! あんたはこの町の救世主! 初めからDランクになったって誰も文句は言わないよ!」


豪快に笑いながらも、ちょいちょいとフィルとベリトのギルドカードも回収する。


フィル Lv19 戦士(双剣) ランクD

ベリト Lv23 魔法使い ランクD


そして戻ってきたカードにはしっかりとDランクと表示されていた。


「わ、私たちもいいんですか!?」

「いいっていいって。折を見てギルマスから上げておけと言われてたしね、ちょうどよかったよ」

「で、でも、昇格試験とか受けてませんけど……」

「試験なんてどうせ、どっかの魔物を討伐して来い!とかだしねぇ」


ギガントオークよりは絶対弱いとこはないね!と笑っていた。


「それよりもあんたたち、短期間でずいぶんレベルが上がったんだねぇ」

「え、ええ、まぁ……身分相応の魔物と連戦しましたし……」

「えっとね、マンティコアとーなんとかホークとー……でっかい豚さん!」


マンティコアだけは覚えていたらしい。

一応ホーンラビットが大量に、も付け加えておこう。


「レベルだけ見ればCランク相当なんだけどね。ギルド権限だけで上げられるのはDまでなのさ」


レスさんが説明しながら、ずっしり重そうな皮袋を取り出した。


「査定表をよこしな。これが報酬さね、一応確認しとくれよ」


袋を開けると、銀貨がいっぱい詰まっていた。


「わぁ、すっごいお金!」

「金貨にすればもっと軽いんだけど、この町じゃ使い勝手が悪いからねぇ、一応銀貨にしておいたよ」

「いえ、助かります、ありがとうございます」


この町では高級品がほぼないため、金貨で買うとお釣りが多くなりすぎて嫌がられるらしい。それでも高額すぎる報酬は、金貨やその上の大金貨になるそうだけど。

ちなみにマンティコアの尾は最低でも金貨500枚は下らないだろうね、とレヌさんが言っていた。

ちなみにこの銀貨は金貨20枚分くらいらしい。


「それとね、アーティ、あんたのことだけど。ギルマスの宣言はもうギルド内に周知してあるからね。多少は驚かれるかもしれないけど、あんたの敵はここにはいないよ。安心おし」

「……ありがとう、ございます」


レヌさんに言われて、なんだか心が温かくなる。

この受付嬢が人気の理由が分かったような気がした。


と。


「そうだぞ!」


突然、ギルド内に大声が響く。


「あの人は……私を庇おうとした冒険者さん……?」


受付から振り向くと、ジョッキを掲げて大声を上げた冒険者が目に入った。

フィルが言うように、それはギガントオークに吹き飛ばされ、腕が嫌な方向に曲がってしまった冒険者だった。


「俺っちがドジっちまったのによぉ、そこのお嬢ちゃんが俺っちの分まで頑張って、ギガントオークを牽制してくれたんだ! だから俺はここにいる!」


すると、隣に座っていたモヒカンが、やはりジョッキを掲げて声を上げる。


「俺も見たぞ! 俺たちが束になっても敵わなかったあの化け物によぉ、すごい勢いで斬りかかってよぉ、胸がぺったんこなのに、すっげー頑張ってよぉ……」


ちょっと冒険者さん! 余計な事を言ってフィルの表情がなくなったんですけど!?

というか巻き込んだのは俺達の方なので、なんだか申し訳ない気分になる。


しかし、その二人が呼び水になり、俺もだ俺もだと、廃墟に一緒に踏み込んだ冒険者たちが声を上げていく。


「あんな化け物、俺達だけじゃ倒せなかった!」

「斥候に失敗し、我が吹き飛ばされた後も、生きていたのはこの子たちのお陰だ」

「最初は巨乳ちゃんの胸に挟まってなんて羨ましいって思うつか今でも思うけどよぉ、アーティって言ったか、お前さんのお陰で俺たちは助かったんだ!」

「あーてぃふぁくとってのはよくわからねーけど、俺たちの命の恩人だ!」

「そうだ、瓶だろうが何だろうが、お前は俺達の仲間だ!」

「姐さんの身内ってだけで敵対できないけどな!」

「潰されたくないしな!」

「あらぁ、割といい世界よん、こっちにいらっしゃい、歓迎するわ、うふん」

「やべぇ、誰だよ、銀狼呼んだ奴!!」

「遺跡に向かってたんじゃないのか!?」

「さっき帰ってきたのよん、歓迎のハグからの、ぶゅっちゅー♡」

「「「ぎゃーーーーーーーーー!!」」


最後の方はよくわからない悲鳴が上がっていたけど、これは、もしかして。


と、ジョッキを掲げた全員が立ち上がり、大合唱を始める。


「「「「俺たちは仲間を見捨てない!」」」」


「「「「冒険者は何物にも囚われない!」」」」


「「「「仲間のために戦うのが冒険者!」」」」


「「「「エリムナの町のギルドメンバーは家族と同然!」」」」


「「「「アーティファクトのアーティ、俺たちはお前を歓迎する!」」」」


「「「「アーティの仲間たち! 新しい友を連れてきてくれて感謝する!」」」」


「「「「さぁ歓迎会だ! 新しい仲間に!」」」」


「「「「頼もしい仲間たちに!」」」」


「「「「乾杯!」」」」


「「「「 乾 杯 ! ! ! ! ! ! ! !」」」」


あとで聞いたのだが、これは新メンバーを歓迎するときに行われる、ギルドでも最上級の歓迎で、ほぼ廃れて行われることもなくなった儀式のようなものらしい。

エムリナが田舎だからこそ、習慣が残っていたのだと。


フィルが膝から崩れ落ち、両手で顔を覆う。

恥ずかしいのか泣いてるのか、聞くのはきっと野暮な事だろう。


ベリトは皆の勢いにきょとんとした後、ぱーっと笑顔になり、俺を胸に抱いて飛び跳ねた。


その日、俺は名実ともに、エムリナの冒険者となった。


喚声はいつまでも続く。


突然の騒ぎに何事かと降りてきたアルマさんが、少し呆れたような顔をしてから、何も言わずに二階へ戻っていったのに気づいた者はいなかった。



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