第18話 病気の正体

さて、ここからが本題だ。

まずは病気の子供たちが、どんな病に侵されているのか確認しないといけない。


「シシル、病気の子たちってどこにいるんだ?」


俺がそう言うと、シシルが2階へ視線を向ける。


「ララたちはちょっと症状がひどくて……上で寝かせています」

「そうか、ちょっと鑑定で症状を確認するから連れていってくれ」

「わかりました」


シシルが俺を抱え上げ、2階へ向かう。


ちなみにフィルたちは、女の子の髪を乾かしたり、ベットの準備をして忙しくしている。

男の子たちのお風呂は、男の子の年長組が見てくれているので安心だ。

流石にベリト達がお風呂を手伝ったら、きっとあの子たちの性癖が歪む事この上ないので仕方がない。発育がいい女の子は思春期の毒なのだ。

フィル? ……ノーコメントだ。


「どうかしました?」

「あ、いや、ちょっと考え事をな」

「そうですか」


いかんいかん、邪念が漏れ出てたみたいだ。気を付けないと。


シシルが2階の角部屋の扉を開く。

部屋には所狭しとベッドが置かれ、ベッドの上では数人の子供たちが苦しそうにせき込んでいた。


「もう何日もこんな状態で。全然よくならないんです……」


心配そうに子供たちを見つめるシシル。

普段の風邪程度なら数日寝てれば治るみたいなことを言っていたが、一番症状の重い子は、もう10日程、この状態が続いていて、消耗が著しいらしい。


「院長先生が用意してくれたお薬も全然効かなくて……だからフィルさんたちが薬草を採りに行ってくれたんです」


薬師ギルドに納品したのは先ほどのことだ。

流石に薬が出来上がるような時間じゃないとは思うし、まずは俺が様子を見たほうがいいだろう。


「シシルお姉ちゃん……?」


俺たちが近づくと、眠っていた女の子が顔を向ける。


「ララ……具合は大丈夫?」

「うん……いまは、ちょっとましかなぁ……こほ、こほっ」


ララと呼ばれた女の子は力なく微笑んで、小さくせき込んだ。

この中で一番の重傷者は、このララという女の子らしい。

明らかに頬が扱け、体力的にも危険なのは、素人目に見てもよくわかる。


「……ララちゃんと言ったか?」

「え、うん……ララだよ……」


シシルの腕の中の俺が声をかけると、一瞬きょとんとしながらも、返事を返してくれる。

もしかしたら、喋るペットボトルの俺への疑問を浮かべる余裕すらないのかもしれない。

それほど、この少女は衰弱していた。


「俺はアーティ。すまないが症状を見たいから【鑑定】スキルをかけてもいいか?」

「うん、いいよ……こほっ……」


少女に許可をもらい、俺は【鑑定】でステータスを確認する。

そして、その結果に……俺は言葉を失った。


「……アーティさん、どうですか?」


俺はずいぶん長いこと黙り込んでいたのだろう、たまりかねたようにシシルが声を上げる。


「……ああ、これは……風邪じゃない」

「え……?」


少女を鑑定した結果。ステータス画面に現れたのは。


状態:衰弱・寄生


病気のステータス異常ではなかった。


俺はすぐさま詳細を先生に願う。


『寄生虫によるバッドステータス。検索結果から、哺乳類に寄生する繊毛

 寄生虫が該当。通常の薬草では根治できない。繊毛寄生虫が胃腸から

 血管に移動するまでに駆除できない場合、かなりの高確率で死亡する。

 潜伏期間は10日から15日。魔力の少ない者は抵抗力が著しく低下。

 体内で1か月を過ごすと成長し、血管を通じて体内中に移動を開始する。

 そうなったらまず手遅れ。 -女神ペディア-』


おちゃらけた一言コメントすらない、クソ真面目な結果が表示される。


「先生、救う術を教えてくれ」


『寄生虫が人為的改造を受けた可能性あり。少々時間を。 -女神ペディア-』


先生ですら即答できない状況なのか、これ。


「……あ、アーティ、さん……?」


俺の様子に、シシルも異常を感じたのだろう。

不安そうに、おずおずと声をかける。


「大丈夫だ。頼りになる先生が今、全力で調べてくれている」

「せんせい、ですか……?」

「ああ、だから心配するな」


今の俺に手足がないのが悔やまれる。不安そうな表情を浮かべる、女の子の頭一つ撫でてあげられないなんて、男として情けない気分になっていく。

しかしそれでも、情けない声を上げることはできない。

だから俺はもう一度だけ「大丈夫だ」と声を出した。


『検索終了。体内の微弱な魔力を吸収しつつ、成長する個体と判明。

 対応する生成スキルを準備。……成功。

 【飲料生成】にて「トクホ」の使用を提案します。

 大丈夫、貴方のスキルを信じて! -女神ペディア-』


先生に応援されたら、答えないわけにはいかないな……俺は気合を入れなおす。

トクホと言われたよな。となるとコーラのことだよな。特保、特定保健用食品。

俺はゆっくりと特保コーラの特徴をイメージする。

そして【飲料生成】を発動させた。


「え、きゃっ……あ、アーティさんの形が……変わっていく……?」


俺の身体は、赤いキャップに白いラベルという、赤い方で有名なコーラの特保バージョンに変化していた。


 異世界で有名なコーラの特保バージョン。体内の悪いモノは全部排出しちゃうよ!

 効果:回復(小)・排出(小)


生成で余計にMPを持っていかれたけど、何とか成功したみたいだ。

通常効果に、排出という効果が追加されているな。

これって、もしかしなくても食物繊維で脂肪分排出、ってやつかな。

飲みすぎるとお腹が緩くなるんだっけか、さすが難消化デキストリン!


「あ、あの、アーティさん……?」

「よっし。まずは試してみようか。シシル、俺の中身をみんなに飲ませてみてくれ」


俺の言葉に困惑しながらも、小さくうなずいてキャップをひねる。


「……しゅわしゅわしてますね」

「炭酸飲料だからな。とりあえず直でもコップでもいいから、飲ませるんだ」

「わ、わかりました」


俺を一度机に置き、急いでコップを用意すると、コーラをそれに注いでいく。


「匂いは……いいかも?」

「味もいいぞ、甘いんだ」

「そ、そうなんですね?」

「飲みたければ後で飲めばいいさ。でも今はララちゃんだっけか、あの子からだ」

「は、はい、そうですよね……ララ、飲める?」


コーラの入ったコップを持って、ララちゃんの身体を支えて寄りかからせる。


「うん、だいじょうぶだよ、ララ、おくすりのむよ……こほっ……」


薬ではないんだけどな……特保って。

まぁそんなことも言っても仕方がないので、俺はコーラを飲むララちゃんをじっと観察する。


「あまいよ、これ、しゅわしゅわする……ん、……あ、あれ……?」


コーラを飲み終えたララちゃんの身体がかすかに光る。

そして……ぱぁっと輝きが増した後……。

そこにはきょとんとする二人の少女の姿があった。


「……くるしくない」


自分の身体を確認するように見てから、のどを抑えて確認する。


「おなかも、いたくない……」


そっと自分のお腹をさする。


【鑑定】の結果からも、寄生の文字が消えている。

よかった、この後お腹が痛くなってトイレに直行!という展開だと思っていたのでいろんな意味で安堵する俺。


『乙女の危機には安心サポートが充実してます! -女神ペディア-』


心なしか先生も得意げである。


そのあと、部屋が光ったのを見て慌てて駆け込んできたフィルとベリトに、子供たちの症状のことを軽く説明し、手分けしてコーラを飲ませていった。

みんないちいち光り輝くのに驚いてたな……。


その後は一応、無症状のみんなも鑑定し、問題のある子にはコーラを与えて駆除していった。院長先生も症状がヤバかったので、早めに気づいてよかった。


ちなみに問題がない子たちもコーラを羨ましそうに見つめてきたので、結局普通のコーラを生成して全員に配ることになってしまった。

ちなみに一番喜んでいたのはシシルと、なぜかベリトだった。

ベリトは要らんだろうと俺が言うと、食い気味に「要ります!」と怒られてしまったよ。ははは。

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