ペットボトル転生

クワ道

第1話 ペットボトルとして その1

拝啓。

天国の親父、お袋。そして妹よ。

どうやら俺は最近流行り(?)の異世界転生というものを体験したらしい。


ペットボトルとして。


いや、なに言ってるか分からないと思うが、俺も意味が分からない。

鬱蒼と生い茂る異世界の森の中。

近くに流れるは湧き水のせせらぎと、心地よさそうな風に揺れる木々の音。

今の俺はキャップを外され、ラベルをはがされ、べこっと潰され捨てられる

直前のペットボトルと同じ姿のまま、異世界と思わしき草むらに転がっていた。


微風で揺れる身体。

透明の身体に燦然と輝く「PET(リサイクル)」のマーク。

もちろんガン検査の略称じゃない。PET樹脂で作られているって意味のマークだな。

世界初のペットボトル飲料はコーラだと言われている。

言わずと知れた、あの赤いラベルの奴な。

ちなみにに日本のペットボトルは全部無色透明。

これはペットボトルリサイクル法によって決まっていて、やろうと思えば色付きの容器も簡単に作れる。

実際外国産のペットボトルは色がついてることも珍しくない。

まぁ、向こうさんの呼び名は「PET bottle」ではなく、まんま「Plastic bottle」だったりするけどな。


なんて現実逃避してみたけど。


これ、完全に詰んでるだろ……。


手足も無いので動くことすらできない。

五感のうち、視覚と聴覚はハッキリしてるみたいだけど、それ以外は存在していないような気がする。

周囲を見ることはできるし、声も上げることができるのだが、俺を遠巻きに観察している、現世と微妙に姿形の違う動物達も、あからさまな異物である俺を恐れて近寄らない。


「おーい、君たちぃ、ちょっとこっちに来ておじさんと遊ばなーい?」


もはやナンパにしか聞こえない口調で、角の生えたリスに声をかける。


「……ぴぃっ」


リスは明らかに怯えた様子でその場から逃げ去った。


終わった。


どうやら俺の異世界人生は開始1秒で終わったようです。

いやペットボトルに死亡という概念があるかどうかはともかくだ。


なぜこんな事になったのかと言うと、それはほんの少し時を遡ることになる。

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