彼は苦笑した

@JanKoller24

プロローグ

第1話

人の心とは不思議なもので、祟りの伝説も現実になるものである、否、現実だと思うものである。


「京都で連続殺人、仏像の呪いか」

東京発博多行き新幹線の中で私、藤原泰治ふじわらやすはるはスマホのニュースを見ていた。

あまりにもシュールな内容に私は思わず笑った。現代のこの世の中に呪いなどあるわけがない。東大生である私はこのような現実的なことしか考えられなくなってしまった。勉強しすぎるのも考え物だ、なんて思いながら次へ行こうとしたが、私は不思議とその記事をよもうとおもった。というのも、私の行き先もちょうど京都だったからだ。

「5月4日未明、京都府京都市oo区の路上で男が倒れているのが発見された。男は病院に搬送されたが死亡が確認されており、警察は身元の確認を急いでいる。1日、2日にも男が相次いで殺害されており、市内では、4月30日に天光寺の呪いの仏像の頭部が落ちていたことと合わせて、これは呪いではないかという声が広まっている。

 京都の天光寺てんこうじには平安時代、藤原氏の陰謀によって失脚したと言われる左大臣、二条尊光にじょうたかみつの奉納したとされる呪われた仏像と恨みの心を詠んだ和歌、絶対にほどけないとされる知恵の輪があるとされる。

仏像の頭部が取れた時、二条尊光の呪いが発動して、良くないことが起こるという。過去に何回か落ちてきていて、そのたびに不可解な事件や災害が起こってきたと言われている。仏像の頭部が落ちた976年には、大地震が京都・滋賀を襲った。1864年には禁門の変が発生し、京都の一部が焼けた。数え出すとキリがないのでこの辺にするが、京都の災害や事件はこの仏像と共にあると言っても過言ではない。

知恵の輪がほどけたとき、二条尊光の呪いは解けるという。しかし、これを切り裂こうとした織田信長は病に倒れたという。余計に怒りを買ってしまったらしい。

 呪いについて警察はコメントするわけがないししていないが、警察は連続殺人事件としてこの事件を捜査している。」


この記事を読んだときの感想は、へえ、という何とも間の抜けたものだった。この広い京都府のなかで一旅行者の自分がターゲットにされることはなさそうである。日本の警察は優秀だから、しばらくすれば犯人は捕まるだろう。早々に興味をなくした私はスマホから目を離し、京都についてからやりたいことに思いを馳せた。ちなみにだが、京都は先祖ゆかりの地(苗字から察した人もいるかもしれないが)である。もっとも、今京都に住んでいる親戚はいないが。せっかくだし、私自身の先祖の作り上げた美しい物を見てみるのも興味深いかもしれない。


京都の湯葉や宇治の平等院のことなんかを考えていると、京都駅に着いていた。新幹線から降りて改札口まで来ると、駅前の一角に警察のkeep outという黄色いテープが貼ってあって警察官が多くうろついているのを見つけた。救急車がいることも鑑みるに人が刺されたようだ。おいおい、旅行始めから事件とか縁起悪すぎだろ、とか考えながら、私は事件現場をなるべく視界に入れないようにして、京都駅でタクシーを捕まえてホテルへ向かうことにした。

タクシーに乗っている間、私の頭には先ほどの事件があった。もしかしたら自分も一連の事件の当事者になってしまうのではないか、ひいては…自分が殺されてしまうのではなかろうか。全く、一体何を言っているんだ。私はいつからこんな妄想癖を持ち合わせるようになってしまったのだろう。


私自身のバカげた想像が可笑しくなって、私は苦笑した。







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