第14話 おっさん、聖女リズの親友に会う

 リズが王子にカッコよく啖呵を切って、颯爽と王城の廊下を歩く俺たち。


 俺たちは魔物を討伐する旅に出ることになる。


 豪華な装飾が施された廊下を歩きながら、リズが綺麗な銀髪をゆらしてこちらを向いた。


「バートス、ありがとうございます」

「んん? どうしたんだ?」


「バートスと一緒だったので、王城内でも臆せず自分を保てました」

「おっさんも多少は役に立ったようだな。良かったよ」


 たしかに―――

 王城はリズが婚約破棄された場所。


 そして、自分の存在価値を否定された場所だ。


 そんなところに行くのは、本当に辛かっただろう。


 だが、リズは見事に乗り切った。



 己の過去を断ち切るかのように、王子にビシッと自分の決意を言い放った。



「本当に良く頑張ったなリズ。カッコよかったぞ」



「あ~~すっきりしました。ずっとため込んでいたものを全部出してきました」



 小さな両腕をぐっと伸ばして、んん~~っと声を上げるリズ。

 なにか憑き物が落ちたような顔だ。


「あの王子も少しは人の気持ちが分かればいいんだが」

「彼には難しいでしょうね。久しぶりに会いましたが、以前とまったく変わっていませんでしたから」


「そうか、今回の訪問で変わったのは髪型だけか」

「フフ、それはバートスのおかげですね」


 リズは銀髪の髪先をクルクルと人差し指で回しながら、クスっと笑った。


「バートスは不思議な人ですね。こんなに私を笑わせてくれる人は初めてです」


「そうなのか?」


 俺はいたって真面目にやってるだけなんだが。


「はい。私は友人もいませんし……」

「リズなら友達は沢山いるように思うけどな」


「たしかに、友人と称する人たちは沢山いましたよ。でも、私が何の力もないとわかるといなくなりました」


 リズは少し寂し気な目をして俺を見た。


「だからそう言う意味では、本当の友人はいなかったんだと……思います。」


「そうか、なら旅を重ねながら少しづつ増やしていけばいい。笑い合える相手をな」


「フフ、そうですね。そうします。また旅の楽しみがひとつ増えました。これもバートスのおかげですね」


 銀髪の美少女がニッコリと微笑む。



 俺とリズが話していると、小さな足音が近づいてきた。


 うしろを振り向くと、綺麗なドレス姿の美しい少女が立っている。



 これまたリズに引けを取らない超絶美少女だ。



「ああ……リズ。間に合いました。良かった」

「ファレーヌさま? ―――えっ!?」


 少女はスッとリズの前に進むと、いきなり彼女に抱き着いた。


 うむ、なんだこの絵面は? 


 美少女同士で抱擁とは、おっさんはとても綺麗なものを見ているぞ。


「ごめんなさい……ザーイお兄さまがまた酷いことを……私はなにもしてあげれれなくて……」

「フフ、ファレーヌさまはなにも気にすることはないですよ。ほら元気ですよ? 私」


「ええ……そうですねリズ。良かった」


 2人の抱擁が終わると、その少女は小さな袋をリズに手渡す。


「少ないですが、これを。路銀の足しにしてください」

「ええ、そんなファレーヌさまいいんですか?」


「もちろんです、本来なら討伐報酬が出るはずなのに、あのお兄様は何も出さないでしょうから」

「フフ、あの王子さまですからね。では、ありがたく頂きます」



 なんだ、いるじゃないか友達。



 リズの事を認めてくれる友人が。



「あなたがバートス様ですね。ご挨拶が遅れてしまいました。私はラスガルト王国、第三王女のファレーヌと申します。お見苦しいところを見せてしまいましたね」


 王子をお兄様と呼んでいるのだから、王族だろうとは思ったが……王女か。


 それに所作がなんか上品な感じがする。


「いや、美少女2人の良いシーンを見させてもらいました。あと様はいらない、バートスでいいですよ」


「まあ、美少女ってことは、リズのこともそう思っていらっしゃるのね」

「ええ? ああ、もちろんリズは美少女ですよ。誰がどう見てもそうでしょう?」


「まあまあ、でもリズは他の男性ではなく~~あなたからそう思われたいみたいですよ。フフ」



「ちょっ! ファレーヌさま! なに言って……」



 リズが横から、第三王女をユサユサ揺さぶる。

 仲が良いんだな、この2人は。


「模擬戦もコッソリ見させて頂きました。素晴らしい火魔法使いですね。あなたがリズに付いてくれれば百人力……いえ、千人力でしょうね。安心しました」


「ああ……任せてくれ。リズをしっかり支えるぞ」


 あの模擬戦に関して色々勘違いをしているようだが、気持ち良く話す王女にあえて訂正するのも無粋だろう。


 それに俺の持てる全力でリズを支えたいと言うのは、本当の気持ちだしな。



「まあまあ、2人の仲がよろしくてなによりです。リズ、ちゃんと討伐以外も頑張るんですよ。逃がさないように」


「ちょっ……逃がさないって。バートスはあくまで従者ですから!」


「はいはい、そういうことにしておきましょう。今は」


「そういうことてっ……もう……ファレーヌさまふざけすぎです」



 なんだか良く分からんが、楽しそうだなリズ。


 それにやっぱり友達はいた。リズは今までふさぎ込んでいた分、少しまわりが見えていなかったのだろう。前を向いた彼女はこれからどんどん気付いていくのだろうな。


 彼女自身の持つ魅力に。


「では、バートス。リズをよろしくお願いいたします。リズは昔から私の大事な友人ですの。それに自分の良さをまだ理解していないようですので、バートスからたっぷり教えて上げてくださいね」


「ああ、もちろんだ」


 そうだな、王女の言う通りだ。今後はリズのいいところをどんどん教えてやろう。


「良い従者に巡り合いましたね、リズ。では私はここで」



 俺たちは第三王女の見送りを背に受け、王城を出た。


「バートス、私は王城がとても嫌いでした。でも……少しだけ好きになりました」


「そうか、それは良かったな」


 リズは爽やかな笑顔で頷いて俺の手を取る。



「さあ―――聖女と従者の旅立ちですよ! バートス、頼りにしてますからね!」



「ああ―――任せろ。おっさんなりに頑張るよ」



 俺たちの旅が始まったのだ。





「ところでリズ。最初の討伐魔物はなんていうやつなんだ?」


 まあ、初回だからな。


 いきなり無理はしないだろう。



「はい、キングポイズントードですよ。王国S級指定の魔物です」


「キング……S級指定……」


 いきなり最上位の魔物じゃないのか……


「猛毒の王と呼ばれています」


 なにそのヤバそうな奴……


「な、なあリズ。まだ旅は始まったばかりだ。まずは準備運動というか、ウォーミングアップしなくていいのか……な」



「ええ、私にはバートスという最高の従者がいます。それに私、


 ――――――聖女ですから。


 S級指定の魔物をバンバン討伐しましょうね」




 しまった……リズが自信をつけすぎたのかもしれん。


 俺はひょっとして、とんでもない旅に出てしまったのか……






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