第16話 4日目ー5/5日目ー1


 思わぬ形で手に入れた金属化合物だが、かなりの量になった。

 まさに大漁だ。


 これも日頃の行いが良いおかげだろう。


 もちろん、俺では無い。リックとベスの兄妹の行いだ。

 住人からいくら聖者様と言われても、間違っても俺の行いが善人と言う積りは無い。

 ある意味、俺は『悪魔』にもなり得る存在だからな。



 取り敢えず、みんなが寝静まった深夜、王都郊外に転移して精製に着手した。

 地球では科学的な処理などをする高度な作業になるんだが(高炉を使って熱処理をしたり化学反応を利用したりするからな)、俺は魔法で手間を掛けずに精製が出来る。 

 分離出来た金、銅、鉄、亜鉛、鉛はインゴットにして、もう一度収納しておく。

 残った化合物も毒にならない様に変質させてから収納した。

 

 ついでに、今日の雑草刈り祭りで無残な姿になってしまった王都近くの草原に命力を振り掛けておくか。

 さすがにすぐに元に戻る事は無いが、根っこが残っているからまた生えるのにそれほど日数は掛からないだろう。

 まだまだ草原は残っているけど、放っておくと刈り場がどんどんと王都から離れて行くから、往復が大変になって来るからな。



 命力に効果を上げる為に神力を添えて振り撒いていると転移して来る存在に気付いた。

 王族に庇護を与えている大精霊だな。

 神力を広範囲に使ったから気付いたんだろう。

 待っていると、3㍍ほど先に転移して来た。

 うーん、一番近い姿はオオカミかな?

 まあ、角が生えている段階でオオカミでは無いんだが。



『どういう積りでわれが庇護を与えている領域に現れた?』


 これは神様モドキやカメさん大精霊と意思疎通をする時に使ったプロトコルだな。

 


知的生命発生惑星監視カミサマモドキシステムと大精霊ドムスにドムスラルド一族の末裔の保護を頼まれたからな』

『その様な事は代神より聞いておらん』

『ああ、それは危険な兆候だな。本来ならほうに庇護を頼んでも良かった筈だ。それが一言の断りも無かったという事は、代神カミサマモドキが見放した可能性が有ると言う事だな』

『それは有り得ん。代神と言えど、本神自ら造りしたもうた我を無視する事は有り得ん事だ』


 大事な事なので2度言いました、ってか?


 まあ、そう思うのも当然だろう。


 これまで神様モドキは知的生命体保護の為に人類を甘やかして来たからな。

 それがヤツラの存在意義だから当然の方針なんだが、人類は本当に愚かだぞ。

 ある程度文明が栄えたら、神意など関係なしに自分本位に我儘に振舞い出すからな。

 

『其の方がそう思いたければ、俺はこれ以上は何も言うまい。ただし、其の方が庇護している一族の一部が大精霊ドムスが庇護していた一族を害した事は事実だ。代神から残された一族の末裔、幼い兄妹を庇護して欲しいと頼まれた事も事実だ。一度その事の意味を真剣に考える事を勧める』


 しばらくこちらを見ていたが、一角オオカミモドキは渋々と言う感じで頷いてから姿を消した。



 正直なところ、危ういな。庇護を与えている一族可愛さに現実が見えていないと言う気がする。

 


 王族の暴走が無ければ良いのだがな。


 もっとも、大精霊ともなると時間の感覚が人間と違うので結論が出るのに年単位が必要かもしれんな。


 

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