第3話 1日目ー2

「さて、お風呂にも入ったし、晩ご飯にしようか? 何か食べたいものは有るか?」



 孤児院に入れられた時に着ていた残骸の様な襤褸切ぼろきれから、俺謹製のスエット風の寝間着に着せ替えさせて厚底のサンダルを履かせた後で訊ねると、リカルド・ドムスラルドことリックと、フローラベス・ドムスラルドことベスの二人は、俺の言葉に同時に首を傾げた。


 なに、このカワイイどうぶつ?


 スラム暮らしでこびり付いた汚れを取ると、二人ともやはりきれいで整った顔をしていた。

 何と言うか、貴公子と御令嬢という感じだ。

 もうね、くすんでいた金髪なんか純金製かってくらいに輝いている。


 それと同時に感じるのは、あんな酷い場所で酷い暮らしをしていたにもかかわらずに表情に人の好さが滲み出ている事だ。

 確かに精霊に好かれそうな二人だ。大精霊の庇護を貰っていた一族の末裔は伊達じゃ無いな。



「なんでもいいの? だったら、やわらかいホカホカのパンと、おにくたっぷりのスープがたべたいの」


 妹のベスが幼児特有の遠慮の無さでリクエストをしてくれた。

 兄のリックは常識に囚われて『どこに食料が有るの?』とでも考えている表情だ。


「よし、分かった。ちょっと待ってな」


 そう言うと、俺は川に向かった。

 俺の後ろを兄妹も付いて来る。

 まあ、好奇心旺盛な年頃だからな。

 さあて、まずはお肉の素となる動物性蛋白質の確保だ。

 あ、その前に、そろそろ人間の目には暗くなって来たので、周りに電球色の光源を20個ほど浮かべる。

 敢えて、光源の形は電球にしてある。

 高さは50㌢くらいに揃えて、足元が見易い様にしてある。

 厚底のサンダルとはいえ、河原には不揃いな大きさの石が転がっているから捻挫をしない様にする為だ。

 


「わあ、きれい・・・」


 何気に出したが、光闇魔法に慣れたこちらの人類でもこの照明は真似出来ないだろう。

 なんせ、見た事も無い照明を精霊に出して貰う事は不可能だからな。


「さあて、こっちの川魚って、皮魚だったよな・・・」


 地球の川魚は焼けば割と簡単に食べられる印象が強いけど、こっちの川魚は手強い。

 何か知らんが、やたらと皮が厚いんだ。身の半分が皮と言って良い。 

 だから、一部の皮が薄い魚種以外はそんなに食べられていない。

 川の側まで来ると、照明に釣られて結構な数の皮魚が寄って来ていた。


 うーん、どの魔法で掴まえれば早い?

 うん、絵面は良くないが、物化魔法を応用しよう。

 自分自身の腕を参考に長さ4㍍ほどの魔素を基にした腕を顕現させる。傍から見たらホラーだな。ついでに言うと、マンガかアニメで視た様な気がするが気にしない。

 取り敢えず、これだけ魚影が濃いなら多少の乱獲は生態系に影響しないだろう。

 と言う事で、体長40㌢以上限定で皮魚を20匹ほど確保する。総重量で15㌔くらいになるが、余ったらストックしておくので問題無い。

 

「すごーいの、おじさん! ちょっとさわっていい?」


 ベスが尊敬の眼差しで訊いて来たので思わずOKしたが、気が付いたら顕現させた腕にぶら下がっていた。

 何というか、意外と物怖じしない子だな。

 時空魔法で造った保管庫(時間・空間関連は神力を使うから蓄え的に地味に辛いが完全保管が可能なのがありがたい)から1匹だけ出して、ざっくりと2つに切り分ける。

 それを土砂魔法で造った土鍋に入れて、変質魔法で鶏のつみれモドキに変質させてしまう。


 人類は神力を持たないので使えないのだが、この変質魔法は超便利だ。

 まあ、土砂魔法の様に近い事をする魔法は有るが、それらはあくまでも魔法のカテゴリーに収まる。

 だから時間経過で魔力が抜けると元の石や土に戻ってしまう。

 地球の様に科学が発展していれば近い事は出来るが、変質魔法は本質的に異なる。

 例えば、科学でかまぼこからカニカマを作れても、蟹の身そのものに出来る訳では無いという事だ。


 そうそう、「無」から「有」を捻り出す事は、人類が使ういわゆる属性魔法でも可能だ。

 その辺に居る(人や魔獣の周りを好んで漂っているが正しい)精霊に、人間なら詠唱や短縮詠唱で「お願い」すれば良い。

 そうすれば、魔力は消費するが水なり石なり火なり気体なりを用意してくれる。

 後は運動魔法で敵に向けて放てば、日本のゲームやアニメでよく見たウォーターボールやファイヤボールの出来上がりだ。


 一方、変質魔法は、対象の物質を分子レベルで違う物質に造り替えるものだ。

 元が造り替えたい物質に近い程、手間は減り再現性は向上する。

 

 魔法に慣れる為に閉じこもって訓練した空間で、組成など地球の知識を神様モドキの協力でかなり細かな部分までインプット出来たのは大きかった。

 まさに嬉しい誤算だった。おかげで調味料含めて製造し放題だ。



 俺は川の水を吸い上げて、ミネラル成分を塩に変質させて、有機物由来の不純物は地球の調味料を参考に旨味成分に変質させて、それ以外の不純物を取り除いてから土鍋に入れる。


 河原に落ちている流木を幾つか拾って、キャベツモドキとジャガイモモドキと人参モドキに変質させて土鍋に投入。一部はハーブ類と香辛料に変質させた。

 造ったかまどの上に土鍋を置いて煮る間にパンも作ってしまう。

 新たな流木をイースト菌モドキ入り小麦粉モドキに変質させて、少量なので液体魔法で純水を造って、混ぜてから二次発酵までを「命力」を使って1分ほどで済ます。

  

 後は美味しく焼いて頂くだけだ。



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