死亡少女TT~戸野砥子の廃譚~

イズラ

第1幕

 ――私は、死んだ。

 唐突だけど、死んだ。

 廃墟で肝試し中にね。


 だから、ここは”地獄”なんでしょ?


 ――と思っていたが、私はまだ”廃墟”にいるみたいだ。

 ”死んでない”わけではない、死んでる。多分絶対。

 だって、バッチリ刺さったし、目に。釘が。


 だから、ここは”あの廃墟”であって”あの廃墟”ではない――みたいな?

 つまりはまぁ、ここは、時間の狭間はざまなんだと思う。

 頭でも狂ったかって? その通り、私はとうの昔から狂ってるよ。


 そうだね、まずはこの風呂場から出よっかな。

 ……風呂場のドア開かないんだけど。

 はて、困った困った……。


 しばらく悩んだ。

 時間はたっぷりある、はず……。


 ――ふと、思いついた。

 「ここ、”時間が止まってる”んじゃないか?」と。

 思わず口に出してしまったが、絶対そうだ。多分。

 それが分かったからといって、さらに絶望的なだけだが……。


 そうだ、どうせ出られないなら、思い出でも振り返ろう。

 楽しかった、”あの頃”。まさに青春。

 ――あの夏。




 * * *




「あっはははは! とのとのこー! こっちこっちぃ~!」

 砂浜に打ちうける鮮やかな海。

 海風にのって吹いてくる塩の香り!

 肝試しの、ちょうど一週間前。

 夏休みを満喫していた――私、朝志あさし、仮娘、そして――

 4人はいっつも仲良しで、学校でもずっと一緒に行動してた。

 特に仲が良いのは、仮娘。

 元気で面白くて、ちょっと馬鹿でさ。私のこといつもフルネームで呼んでさ。

「うわぁっ! つ、つめたいぃー! やったなぁ、せーの、うぉりゃぁぁぁ!」

 ――と朝志は、仲の良い私たちをニコニコしながら見てた。

 そんで、互いに日焼け止めの塗り合いを――


 そうだ、あの二人、カップルだったけ?

 この前の春に、朝志が告白して。

 あー、そーいえば付き合う前からベタベタしてたよなー、あの二人。


 そんな朝志は、死んだ。

 この廃墟で、死んだ。

 永遠に救われることはない、朝志と――。




 * * *




 仮娘は、無事かな?

 廃墟から、出られたかな?

 そんで、大人たちを呼んで、私たちを助けようとするかな?

 すでに腐り始めた、私の体を、優しく介抱して、くれるかな?


 きっと、私のために泣いてくれる、仮娘は。

 でも、嫌だな、仮娘が泣くのは。




 ――気づいたら、風呂場のドアは、開いていた。

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