第4話 ドラゴンとの修行

 まぁ、かくいう俺も今や国賊だ。ルーライ教会のトップに害をなすということは、教会配下のカルネス王国への反逆とも見なされる。だから国賊。ついでに神の敵と呼ばれてもおかしくはない状況だ。


 今となっては、孤児だったことを幸いに思う。家族がいれば、死した後も迷惑がかかっていただろう。


「まずは魔力に身体を慣らすところから、ですかね?」


「だな。若い頃にやってた訓練、もう一度やるか」


 というわけで、俺は早速魔力を纏って崖を登る訓練を開始した。だが、手に魔力を纏ったまま維持するのさえ難しい。アルクスは大した鍛錬を積んでこなかったようだ。だんだんと血が滲んでくる。今のこの身体にはハードすぎたか?


「頑張ってくださーい、落ちても私が受け止めますからー」


 シャルパンはそんな気の抜けた応援をしてくるが、落ちても大丈夫と思っていては修行の効果が半減だ。できるだけ精神を集中し、死を身近に感じるよう努力する。


「剣を振るうにしても握力がなきゃ始まらんし。これくらいはクリアしないとな」


 どうにか崖を登り切ると、俺は倒れ込んだ。


「お疲れ様です。いやぁ、先は長そうですね」


「先は長いが、急がねばならない。午後は組み手の相手を頼む」


「いいですが、その体では私の圧勝が続きますよ?」


「構わん。頼む」


 生前の俺なら、人間形態シャルパンはもちろん、ドラゴン形態のシャルパンにも遅れは取らない。だから、そこを目指さねばならない。


 ウルスラ様の乱心の際は面食らってまともに実力を発揮できなかった。ライアンの攻撃を受けたときも、仲間だからという理由で、本気で制圧できなかった。


 悪魔討伐を第一目標に掲げ、覚悟を決めなければ、また迷いが生じ、その隙を突かれるだろう。精神面も鍛えなければならない。


 そうして、シャルパンとの素手での組み手、さらにはドラゴン形態シャルパンに乗って振り落とされないようにする訓練まで重ねた。1週間後には多少マシになってきた。


「そろそろ初級モンスターの一匹位は狩れそうですね」


 冒険者ギルドで飲み食いしながら、シャルパンが提案する。シャルパンの食事代はバカにならないが、アルクスの実家は大商人。実家追放時に渡された手切れ金がかなりあったので、生活には困っていない。


「初級モンスターなら、ソロで、しかも一撃で討伐できるくらいじゃないと、話にならんがな」


「理想が高いですねぇ。まぁ、確かに生前のユークどのの実力に近づけるには、必要なことですが。それより、もっとお肉食べてください? 栄養も十分に摂らないと、痛めつけた筋肉が回復しませんよ?」


「分かってる。もう十分食べた。ドラゴン基準で判断しないでくれ」


 そんな会話をしながら、俺は壁に張り出された依頼書を見る。ホブゴブリンの討伐依頼、というのがあった。初級モンスターではないが、これに挑んでみるか。雑魚ゴブリンの群れが出てくるだろうが、それを加味しても、今の俺なら行けるはずだ。

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