現行犯

「あの・・・、何で・・・」


 女子生徒は、困惑したように尋ねる。


「―――ごめん、恋愛とか興味ないんだ」


「っ・・・。すみませんっ」


"ガシャン"


 盛大にドアが閉まる音が鳴り、足音が遠ざかっていく。


「うわぁ・・・」


 絢夏が、額に手を当てる。


「・・・ねぇ」


""ビクッ""


 背後からの声に、2人して肩を震わせた。


 先程聞いていた声に、最悪の状況を思い浮かべながらおそるおそる振り返る。


「君達、何してるの?」


「っ、とぉ・・・」


 思わず口ごもる。


 何たって、見つかった相手はさっき告白されてた張本人・・・!!!


「なんて言うかー、そのー・・・」


 絢夏も、頭が真っ白になっているんだろう。


 いつもは回り過ぎている程の口から、言葉が出てきていない。


「まぁ、見てたんでしょ?」


 何て事ないように言う彼に、私は思わず問いかけた。


「え・・・、嫌じゃないの?」


「別に」


 それだけ言うと、彼は手に持っていたビニール袋から牛乳を取り出した。


"ピロロロ"


「あっ」


 そこで絢夏の携帯が鳴り、絢夏がそそくさと席を外す。


 絢夏の事だ。悪気はなくても、タイミング的に教室に戻っているだろう。


 事実、絢夏の弁当がない。


 しかし、取り残された私はここで教室に戻ったりするとかも出来ずに座る。


 ただただ長い沈黙の時間が流れた。


「あ、あの・・・」


「―――――ん?」


 沈黙の時間は気まずくて、とりあえず話し掛ける。


 ・・・でも、話す内容を決めていなかった。


(えっと、えっと・・・)


「その、お昼ご飯?それだけ??」


 私は、ビニール袋を指差す。


 さっき取り出した牛乳の他に、何も入っていなさそうだ。


「まぁ」


 私は、思わずギョッとした。


 食べ盛りの男子とは、牛乳だけなのだろうか?


 私には兄が居るが、かなり食べる。すこぶる食べる。


 それに、さすがに牛乳1本で午後は乗り切れないだろう。


 今日の午後は、全学年体育祭の予行練習だ。


「・・・良かったら」


 母が多めに作ってくれたサンドイッチを半分差し出す。


「・・・」


 彼は、受け取ろうとしない。


"キーンコーン・・・"


「あっ」


 私は、慌てて立ち上がった。


 そうだ、私体育祭委員だった!!


 予行練習前に集まるから、早めに行かないと。


「押し付ける形でごめんなさい。アレルギーとかあったら、手間だけど捨てちゃってください。あと、覗き見してすいませんでした」


 私史上最速の早口で、色んな事に対する謝罪やら何やらを並べる。


 ペコッと会釈すると、全速力で屋上の階段を駆け下りる。


 あの場にいると気まずいのもあるが、時間がまずい。


 体育祭委員の集合時間まで、残り5分をきっていた。

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