鉄道オタク、卓男のはじめての恋

タカナシ トーヤ

第1話 陽キャはご遠慮

5月1日。


世間はゴールデンウィーク真っ只中だ。

俺の会社も有給休暇推奨日のはずだが、社長である親父に仕事を押し付けられた俺は、中日の平日3日間も通常運行(訳:出勤)だ。


その上、今日から新しく入る新人の面倒まで見ないとならないらしい。

ゴールデンウィーク中に入社するなといいたいところだが、週明け開始では採用の都合がつかなかったようだ。

面倒臭い事この上ない。



俺の趣味は鉄道、いわゆる「乗り鉄」だ。

去年のゴールデンウィークは秋田からE6系こまちで東京へ行き、成田エクスプレスに乗り換えて成田空港〜八王子、大宮、大船間を全駅制覇した。

今年は京都市の京都鉄道博物館観光がてら、京都丹後鉄道の「はしだて」に初乗車しようと思っている。


路線図を眺めながら来たる4連休に思いをせていると、勢いよく玄関のドアが開いた音がした。


「おはよーございまーす!!!!」


無駄に元気な声がする。

もはや嫌な予感しかしない。

親父は豪快で、元気なタイプが好きだ。

息子の俺とは正反対なキャラである。


小さな事務所の内ドアを開けると、化粧の濃い明るい髪色の女が立っていた。


「今日からお世話になります、遠藤でっす!よろしくお願いしまっす!!」

遠藤はビシッと敬礼ポーズをした。


「あ…おはようございます。織田です。よろしくお願いします。」



うぜぇぇー…

陽キャは苦手だ。



「あ、すいません、今日社長とかみんな休みで僕しかいなくて、特にやることもあんまりないんですけど。」



「あ、社長いないんすね、よかったああー!!!面接んとき、ちょー怖そーだったんで。織田さん、ウチと年近そうっすね。よろしくっす!」

遠藤はそう言うと事務所にズカズカとあがってきた。



俺が偉いやつじゃないとわかったら急にラフになるとか。

マジ苦手だ、こういうタイプ。



遠藤は俺が案内してもいないのに勝手に椅子に座り、空き机にカバンを置いた。



「で、何すりゃいーっすか。」

遠藤は椅子を回転させながら俺を見上げた。



俺は自分の表情がどんどん無になっていくのを感じた。


「あ…とりあえず今日は客先の引き継ぎとかするから、パソコン立ち上げて待っててください…」



ゴールデンウィーク前の残りの2日間をこいつと2人で過ごさなくてはいけないかと思うと、俺は軽く鬱になった。



「え?マジなくない?パソコンつかないんだけど。」

遠藤はキーボードをガチャガチャと叩いている。

パソコンをつけたところで、コイツが使いこなせるのかはなはだ疑問だ。


「あ、アダプタが差さってないです」


「うっそ!マジでか!びびるわー。


—…サンキュー!!ありがとっ!!」




「え?」


「あぁ!?」


「い、いや、別に…」

俺は速やかに遠藤に背を向けた。









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