3 「従順」


「聖奈は俺の隣ね」



俺は机まで案内した。


隣は秘書課のエース・神殿(こどの)さんの席だったが、聖奈が来ると知って、わざわざどかした。



「俺がみっちり教育するから。わからないことがあったら俺に聞いて」



聖奈は不満そうな、小さな声で返事をする。



「声が小さい!」


「は、はい! よ、宜しくお願いします!」



従順でいいぞ。


何でも言うこと聞いてくれそうだ。


俺の仕事がもっと楽になる。


人が集まったところで朝礼を始めた。



「雷門聖奈と申します。 この度、沖縄支社から東京本社秘書課に着任することとなりました。 一日も早く、お役に立てるよう精進して参ります。至らぬところもあるかと存じますが...」



聖奈が真面目に挨拶している途中で、俺は口を挟む。



「社長の娘だからって気をつかう必要はない。厳しく指導してもらって構わない」



おそらく聖奈は特別扱いを望んでいないだろう。


聖也が、そして「俺」がそうであるように。



「は、はい! ご指導、ご鞭撻のほど何卒よろしくお願いいたします!」



聖奈は深く頭を下げる。


俺は今日の予定、役員のスケジュールを共有し、それぞれの仕事を振り分けて、社内メールで送った。


給料泥棒の俺も、今日はやることが山積みだ。


軽い仕事を聖奈に頼んで、自分の仕事に集中する。



「あの、明堂先輩」



まだ数分しか経っていないのに、聖奈が声をかけてきた。


終わったのかと思ってパソコンの画面を一瞥したが、そういうわけでもない。



「何? 質問?」


「いえ...ただ、後で話したいことがあるので、時間もらえますか?」


「それって仕事に関係あること?」


「い、いいえ」



聖奈には悪いが、今日は余裕がない。


ネトストする暇も無さそうなくらい、俺は忙しい。


俺は絶対に定時で上がりたいんだ。



「こっちは残業するかしないかのギリギリのラインなんだよ。仕事以外のことで話しかけんな。殺すぞ」


「ご、ごめんなさいっ!」



それから昼まで、聖奈はおとなしかった。

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