明堂帝翔「悪魔の子テイト」

1 「始まりの季節」



【帝翔視点】



4月。



「ねえ、あの人すごいイケメンじゃない?」


「ほんとだ! どこの部署の人かな?」


「いいなあ、あの人が上司だったらなあ」



エレベーターを待っていると、新卒らしき女性社員二人が小声でそう言った。


俺は彼女達の方を向く。



「皆そう言うけど、実際俺の下につくと一ヶ月ももたないんだよ」



話しかけると、女二人は顔を赤らめて下を向く。



「そ、そうなんですね」



照れているのだろう、彼女達は目を合わせない。


気持ちはわかる。


俺もマリアと目を合わせて会話が出来ないから。



「あ、あの、名前聞いてもいいですか?」



一人が顔を上げて、俺の名前を聞く。



「明堂。明堂帝翔(みょうどうていと)」


「明堂さん...」



女二人はうっとりしている。


まるで俺の名前が、魅惑の呪文だったかのように。



「あの、わ、私の名前は...」


「あ、大丈夫」



女達が名乗ろうとするのを俺は阻止した。



「名前言われても、覚える気ないから」



二人の表情が固まった。


何か変なことを言っただろうか?


自分と関わりのない人間なんて、いちいち覚えてられない。



「エレベーター乗らないの?」



エレベーターが到着したのに、なかなか乗らない二人。



「あっ、私達トイレに行ってからにします」



そう言って、逃げるように離れて行った。


...俺、きっと失礼なことを言ったんだろうな。


聖也がいなくて良かった。


また怒られるところだった。


俺の部署には新卒は入って来ない。


他の部署で優秀だった社員が異動してくるだけだ。


今年はたった一人だけ。


ああ、ドキドキする。

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